勇者だ。面倒だけど。
ウエニアがいる。
あの愛しい聖剣がここにいる。
昔からオレはなんでも卒なくこなすタイプだった。
家はそこそこ裕福だし、知的なのに武芸に通しているいわば『神童』タイプだったといえよう。
世界が殺伐としていても…オレは自分さえよければどうでもよかった。
女どもはいつでもよって来たし…男にもなぜか慕われた…。
オレみたいな自分勝手な男になんですり寄ってくるんだと思った。
なのに…あんな厄介なもんに選ばれて…ウエニアを与えられた時…。
はっきり言ってこんな駄剣クソの役にもたたないと思った。
どうせ貰うんなら、もう一方の楯のほうが良いと思った。
もう役に立つ槍の化身もいたしな。
だから…まったく使わなかった。
全然使わなかった。
ウエニアが何してるかなんて最初は気にも留めなかった。
『うーん、暗いな…。』
ある日地面をみながらウエニアがぶつぶつ言ってた。
『なにが暗いんだ?』
オレはつい反応した。
『ああ、土が暗いんですよ…もっと元気出してもらわないと。』
ウエニアは自然に言った。
オレを恐れるでなく敬うでなく…。
なんか、面白い女だと思った。
それから毎日話しかけた。
ひまつぶしのつもりだった。
実際、癒されてたんだが…。
『あの、アミリアーナさんが、私のことごくつぶしって言うんですよね…まあ、何の役にも立っていませんが…。』
ウエニアが微笑んだ。
『好きだけ食えばいい。』
オレはなんかおかしくなった。
邪神討伐中にこんなこと言う奴はいない。
『やっぱり、アミリアーナさんが働きのないものに食わせられないって言うんですよ、だから、なんかお仕事下さい。』
ウエニアが言った。
この聖剣に仕事?
このノー天気な女に戦闘何て無理だろう?
オレは思った。
『じゃ、荷物もちでもしてろ。』
オレが言うとおこりもせず。
ほいほい受け取った。
で、よろめいた。
どんだけ非力なんだよ。
思わず支えた。
『ありがとうございます、うーん、役に立たないですね。』
ウエニアは言った。
『いや、いい。』
いつも相手をする女と違う、土の…ハーブの匂いがした。
そして、頼りない身体だ。
女なんか、いくらでも抱いてきた。
すりよってくるのは沢山いた。
なのに、この女はちがう。
『あのやくたたず、オーラダー神殿に帰しましょう。』
アミリアーナが言った。
その頃オレのところには聖武具師が作り数々の神々から贈られた、
聖なる武具の化身たちが沢山いた。
『なにいってるんですか、アミリアーナ、彼女は仲間ですよ。』
神聖魔法使いの神官が言った。
今のあの人とよくにている。
『あんなの仲間じゃない!』
アミリアーナが叫んだ。
『あ、なんとかハーブとってきましたよ。』
タイミング悪くウエニアが帰ってきた。
『お前がいるから、可笑しくなったんだ!』
アミリアーナが叫んだ。
ウエニアが何がという顔をした。
『アミリアーナ、ウエニアは帰さない。』
オレはウエニアに迫るアミリアーナに言った。
ウエニアのいない旅なんてもう考えられなかった。
『お前がいるせいで、この方がおかしくなった…壊れてしまえ!』
アミリアーナが放った力は
ウエニアを貫いた。
愛しい聖剣は倒れふした。
どんなにあの瞬間を悔いただろう。
以来、ウエニアは動けなくなった。
オレに世界を救う意味の無くなった瞬間だった。
『アミリアーナ、おまえなんか貰うんじゃなかった。』
オレは聖槍アミリアーナをにらんだ。
腕には意識がないウエニアの人型があった。
『ご存分に処分してください。』
自分に意識が向いたことを喜ぶように
アミリアーナが言った。
『良いだろう…。』
オレはアミリアーナをけしさろうと
力を練った。
『オダーウエ、やめてください。』
神官がとめた。
『なぜ止める!』
オレは怒鳴った
『アミリアーナは必要です、邪神を討伐してから考えたらいかがですか?』
神官が言った。
やっぱり、あの人みたいに
少し黒い。
『アミリアーナ、オレはお前をゆるさない。』
オレは腕のなかで身動き一つしない
ウエニアにどこか嬉しさがあった。
もう、どこにも行けないと。
思った通り、ウエニアはほとんど動けなかった。
歩くことも出来ず、ほとんど刀身でオレの背中で過ごした。
『ウエニア、大丈夫か?』
背中の弱々しい波動に不安を感じた事もあった。
ごくまれに人型になったとき、
誰にも見せたくなかった。
『ウエニア。』
オレはボロボロのウエニアを抱き込んで誰にも見せなかった。
ウエニアはしゃべることすら出来なかった。
戦神の聖槍の一撃は
か弱い、ウエニアは致命傷だった。
だから、つかわない。
邪神を倒したあと
オレはウエニアと隠る事にした。
『オダーウエ、ウエニアはオーラダー様のもとにかえして、休ませないと、すぐにでも消えますよ、あなたは…この先一人で何千何万年も生きなければならないのに。』
神官が言った。
それは、邪神を倒した代償。
不老不死ののろい。
そう、それが次の邪神を育成する。
愛しいものを失ってさ迷うのだから…。
オレはウエニアさえいれば良かった。
『オーラダー様はきっとウエニアを救ってくださる。』
神官は言った
だから…託したのだ。
それから、ウエニアを守るためだけに
オーレウス帝国を作った。
ウエニアしかいらないが、
帝国維持の為に、子供を作った。
眠るウエニアを見に何度もキノウエシの町に
行った。
何度も何度もだ。
あの神官は死に神官が代わり
今のあの人になったとき…。
ウエニアが目覚める兆候がみられた。
だから、聖武具師を伴ってここに来て
直したんだ。
それでも、直しきれない。
「美味しい。」
オレの腕の中でウエニアが嬉しそうに
キノウエシ焼きを食べてる。
本当は、このまま、オレの領域に
連れ去って引きこもりたい。
だが、ウエニアには、このキノウエシの
生まれたところの力が必要らしい。
「ウエニアさん、ついてるよ。」
オレは唇に付いた菓子のくずをなめとった。
ああ、幸せだ。
でも、はやく囲いこみたい。
だれのも見せずに。
壊れる時はオレも一緒だ。
今度こそ…ずっと…。
読んでいただきありがとうございます。