第六話 ――力の『代償』――
帰ったとしても、瓦礫の山が待つだけだとは思ったが、帰巣本能と言うのだろうか?
俺は家に向かい、歩みを進め――すっかりと綺麗な我が家を瞳に映すのだった。
「……あぁ、《カイロス》。リズか……?」
時間神と言う奴と契約しているのだ、家の一つや二つ直すのも訳は無いか。俺は扉を開き、リビング、そのソファーに腰掛ける――さっきの所のソファー、やっぱり良い物だったなぁ……。
「で、なんだってそんなビクビクと離れてるんだ、ウィン?」
「いやぁ~、そのですね……」
視線を逸らし、言い訳にもならない言葉の羅列を繰り返すウィン。先ほどから俺の後ろを歩いている。良い妻は三歩後ろを歩くと言うが、それにならってと言う訳ではないだろう。ウィンはその言葉を真に受けてきっちり三歩後ろを歩くタイプだ。
「そして、お前は何でそうくっ付いてくるんだ、ノーム?」
俺の左腕に抱きつくようにしてひっつくノームに尋ねる。それはウィンやシルフの様に胸は無いが……こう押しつけられると柔らかい感じが……。
「回答、私は必要故にこうしています……」
「必要って言ってもなぁ……」
俺には必要性が感じられない。なので俺は彼女と腕の間に右手を挿みこむ、無理矢理に引き剥がそうとする。
――そして、見てしまった。
己の左腕、幾何学模様に蛇が走るのを。
「ッ!?」
声にならない声が漏れる。驚きと恐怖――何も感じない、腕の中に蛇がいると言うのに、腕に違和感が無い。そうであるのが当たり前の様に感じるのだ。
蠢いていた、口を開き啼いていた、腹を空かせ飢えて居た。
「質問、……見た?」
「今のは!? おい! 今のは何だ!?」
俺は恥も外聞も無くノームに問いただした。俺はどうなって居るんだ!?
「代償、『神』の力は人の身を超えた力……扱うのにはそれなりの対価が必要」
「……契約時、アナタに払い得る物はなにも有りませんでした、それでも無理に契約をした為に……」
そう言い、俯くウィン。明言は避けているが恐らくは……。
「大体わかった……」
まぁ、死ぬんだろうなぁ、『八岐大蛇』の『真名』を呼び、『神格』を解放しただけでこれだ。そう楽には死ねないのだろう――だとしても、
「まぁ仕方ない。あの時はああしなきゃ殺された、アレで正しかった」
そう、言い聞かせる。俺にも、ウィンにも。
「安心、その為に私たちは四柱居る……」
そんな俺にノームが言う。だから四柱居る?
「現状、有悟は身体の中が『水』の気に浸食されている状態。……だから私、『土』のエレメントで中和する。これを行えばかなり持つ……その為にこうして触れあっている」
そう語るノーム。なるほど、過剰摂取状態って事か……。料理に砂糖入れたからと言って塩の入れ過ぎを無かった事には出来ないが、まぁそう言うトンデモの権化が言うなら間違いは無いだろう。
「ですんで、私が今近付くと不味いんですよね……」
ウィンはそう言い溜息を着く。
「提案、大分マシになった……”還”っては?」
「そうですね……少し寝てます……有悟さん、その女と懇ろにはならないで下さいよ!! 最初は私ですよ!? 私が本妻何ですからね! 覚えておいて下さいよ!」
「苦言、煩い……。今から私と有悟の時間、はっぴーたいむ。邪魔者は”還”るべき」
「きぃい!! 私が近づけないからと好き勝手言いやがりますね!!」
そうして本当に悔しそうに地団太を踏むウィン。子供かお前は。等と考えて居るとウィンの身が蒼い粒子へと分解され、その粒子は俺の左腕に”還”って行った。
「なるほど――”還”る、か。」
「通達、他の精霊も今は”還”ってる。正直言うと私も辛い……」
そう言うノーム。表情を見るに眠そうにしている。
「あれか、封印されてたのが」
「正答、……結構辛かった」
そう言うと、腕を引き、俺の脚を蹴飛ばすノーム。見た目では信じられない様な力、俺は対応できずに倒れこむ形になった。
「お、おい? ノーム? ま、真逆……」
「……有悟、期待に添えない私を許して欲しい。今はヤる程の元気は無い……もぅ……眠くて……眠く……」
全てを言いきる前に、ノームは俺の左腕を抱き枕に寝てしまった。
「ははは……しっかしなんか俺も眠くなってきたな……」
たった一日で多くの事が有りすぎた。『神』だ、何だと今までの人生なら関わる事も無かったで有ろう出来事に巻き込まれた。奇妙な黒い男、真っ赤な女との戦い、妹も何か、『力』を得て居た。
俺はこうして家に帰ってきたがまた、妙な追手が来ないとも限らない。
そして、コイツ、ノームを含めた四人。彼女達をどうするか。何故俺と居るのか――『八岐大蛇』の『真名』と共に思い出したとは言え、まだ納得できない点もある。
本当にこのままでいいのか?
考えが延々と廻る。しかし、一向に答えは出ない。有るのは虚無感と無力感だけ。
「寝るか……」
そんな言葉を呟くと、あくびが漏れる。もう寝よう……。色々と考えなくちゃいけない事は有る。だが、今はただ寝よう。次に起きた時に考えれば良いだろう。
俺は意識を手放した。