第五十五話 ――神に『通』ずる力――
「遊ぶ? 私も舞人も暇じゃないのだけど」
興味なさそうに、褐色の少女が言う。
「スジャータ、言い方ってのがね……」
困ったような表情で話す舞人と呼ばれた男。
「物部さんよぉ、アンタより強いのかよコイツらは」
「……今まで見てきた中では彼らは『無敵』だ。『終わりが無い』であり、『ルール強制』。《世界の守護者》を全員連れて来ても勝てないだろうね」
そうとは思えないんだよなぁ……。
本当に、どこにでも居そうな影の薄い無個性な男。その横に立つ褐色銀髪紅眼の少女。ファンタジーのような、洋服か? フリルの多い、絵で書くのであれば手間取りそうな面倒臭いデザインだ。しかし、妙にエロいと言うか、性癖が見え隠れすると言うか……。
「……ロリコン?」
「そうね、舞人は間違いなくロリコンよ」
「違うよ? 違うからね?」
違うとは言われてもなぁ……。
「類友。有悟、そう言う事」
「まッ! しょうがないよね、ユーゴもそうだしッ!」
うわぁーい。何言ってんだ土属性に、火属性。
「良かったわね、舞人。お友達が増えて」
「ねぇ、スジャータ。何時もそうして、僕を異常性癖者として紹介するのは何でなの?」
あぁ、アイツも似たような奴か……。急に親近感が湧いてくる。友達になれるかもしれない。
「かぁーっ! フテー奴等ですよ! 有悟さんをロリコンとして紹介しようとは! 有悟さんはおっぱい大好きな好青年ですものね!」
「それはそれで風評以外というか、人聞きの良くない紹介だな……」
「あらあら」
「それで全部解決しようとするなよシィール?」
「まぁ、こう愉快な五人組なんだが、腕試しをしたくてね。ぜひ手合わせ願いたい」
「……良いですけど。『絶対』に勝てないですよ?」
こいつ、人畜無害そうな顔で随分と大口を叩く。
「そんなことよりも、えぇと……」
「有悟、穂村 有悟だ」
「ご丁重にどうも。布袋 舞人です」
ペコリと頭を下げる舞人。コイツ、腰が低いのか頭が高いのかわからなくなってきた。
「随分と上から目線ね……貴方よりも彼は長く生きているというのに」
スジャータがジト眼で俺を睨みながら呟く。なんだって俺の考えが読めてんだ……?
「それよりも、僕と一緒に魔導書を見ないかい? 歴史的に価値ある物がココには沢山あるんだ!」
髪の下に隠れた眼が、キラキラと輝いているのがわかる。しかし――
「――魔導書? 本なんてないだろう?」
目の前に広がるのは石碑や、木の板を紐で纏めたような物。ギリギリで理解できるのは巻物くらいか。
「あぁ、基本的に魔導書は歴史が古ければ古いほど力を持つ。紙媒体は歴史が浅いんだ」
そう言う彼の手には竹? を纏めた巻物のような物が。
「これは竹簡と言ってね。中国の方でよく使われた札なんだ。紙の普及後も結構な間使われてね……」
「舞人……」
終わりの無い会話を続ける舞人の語りを、ピシリと止めるスジャータ。
「私以外の魔導書に触れると言う事は、覚悟は出来ている?」
眼が、怖い。先ほどの俺を見たジト眼のなんて感情の載っていなかった事か。人が死ぬぜコレ。
「……スジャータ、舞人くんも悪気があったわけじゃないんだ、許してあげてくれないか?」
「物部、これは私と舞人の問題だわ。部外者が出てこないで」
その言葉と、空気を確認し、物部は――時折見せる悪い顔で――笑う。
「まぁ、言うことも聞かない、役にも立たない魔導書との専属契約なんて、やってられないだろうね」
「物部!?」
「……いいわ、続けなさい」
「いや、悪いねぇ。その嫉妬深さ、わからなくもない。彼を縛れる物が無いものなぁ。だから社会的地位を脅かして、やっと自分を見てもらえて居るんだろう? 可哀想だねぇ自分に自信の無い――否、力のない女性と言うのは」
一息で言ってみせる物部。その上、吐息、声色、男だというのに、ゾクゾクとするような色気を魅せる。完全に、煽っている。
「……良いわ、『手合わせ』だったわね。良いわ、舞人、準備なさい」
「あの、スジャータ?」
「気にしなくて良いわ、気にしてないもの。ただ――気に食わないだけよこの男が」
「悪いけど、僕は戦わないよ、まずは有悟くんだ」
て、テメェ!?
「まずは、貴方をノして、その次は物部。覚えておきなさい」
「おう、怖い怖い。ぜひとも有悟くんには頑張って貰わないとね」
「……先に話しておく、僕の力は『神通力』。説明できないけど、まぁ強い」
「そうかい。で、会場はドコだ」
「付いて来て下さい。ソレ用の設備もありますんで」
多分俺より年上だと思うけど、敬語で俺に話すんだな……。暮らしづらそうだ。そんな事をぼんやりと考えながら、俺は彼に続いた。




