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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第三章 永劫の挑戦者
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第五十二話 ――『世界』の支配――

「さて、久しいな」

「……真逆お前の方から、俺に会いに来るとは思わなかった」

「全知の神と共にありながら、随分と見通しの甘いモノだ」


「今は、それどころで無いのでな……」

 そう言い、全知の神は未だ泣きやまぬ大男の頭を撫で続ける。見た目は可愛らしく着飾って居るが、これが名高い雷神トールの姿とは。


「それで、なんの用なの?」

 ロキが尋ねる。ふむ、今マトモに話せるのはコイツ位のものか。

我が主(マイロード)、気にする必要はない、ただ言ってやれば良いだけだ、『雑魚共め』と」

「支郎! 喧嘩を売りに来たの!?」

「いや、売りに来たのは『コレ』だ」

 《時の氏神》に『コレ』を取り出させる。

 それは、八つのタイヤを持つ大型バイク。それは、白銀の駆動鎧(パワードスーツ)

「『力』と『依代』を売りに来た。エインヘリヤルとなったお前が【逸神(Trance)導態】( formation)を会得する唯一の手段だ」


「……どう支払えば良い」

「先程よりも随分とマシな顔になったな」

 目は光を取り戻し、戦う意思を見せる。やはり辞めたとでも言えば、殺しに掛かって来るであろう程に、ギラギラとした熱を取り戻したようだ。

「支払い方法は簡単だ、ただ一度、今一度――」



「――ユウゴを救え」



「あのバカは今詰みの状態に堕ちた。盤面をひっくり返してくれ」

「……コレは、貰って行くぞ」

「答えを聞いておりませんが?」

 《時の氏神》が芝居がかった調子で声をかける。八輪バイク『スレイプニール』に跨り、アルゴは応える。


「一度だけだ。二度と貴様の言う事なぞは聞かん」


 漆黒の全身鎧――そう表現したが、よくよく見てみれば、その印象は鎧兜というよりは、プロテクターやユニフォームと言った様子で、近いのはライダースーツか。


 紅く燃えるその瞳は大きく、丸い。


 細く長いその四肢、瞳もあり、まるで蝗のようだ。


……『ライダー』(ギリギリアウト)じゃねぇか!!?


「まぁ、死ねや」


 ただ、呟く。その直後、音が消える。何事かとも思えば、光が消え、熱が消える。熱が、痛みが、時すらも消え去り、全てが『喰われた』。


「……生きてるのか、お前は」

『俺達』(ゼバオト)だからこそ、だな」


 『空間』、『時』すらも消えた『場』(零の中)で、二柱が対峙する。


 何一つ無い、五感が意味を成さないこの場では、霊的な感覚のみがお互いを認識し、意思疎通を行う唯一の手段だ。通常であれば、靄がかったヴィジョンでしかないそれも、これだけの霊格を持つお互いであれば、目で見るよりもはっきりとその姿が浮かび上がる。


 黒の破滅。死よりも重き裁き。『アバドン』。

 白の責苦。命を弄ぶ全能の神。『ゼバオト』。


「楽しくなって来た」

 日高がその拳を強く握りしめ、振るう。俺はそれに拳で応える。もし、この『場』に空気があれば、いい音がしたであろうと、思えるだけの重い拳だ。


「俺は面白くねぇよ!!」

 三度目の【接戦=肉弾戦】(殴り合い)。一度目のように『勝利の槍』(勝ち確)では無く、二度目と違い『負けるが勝ち』(勝ち筋)も確立していない。


――つまり、負けるかも知れない戦いだ。


 物部の言う通りだ二人が相手なら、『ゼバオト』(俺達)に勝てるかもしれない。だからといって、素直に負けてやるつもりも無い。


 しかし、霊格として最高位の存在に成った俺達と殴り合うだけなら充分相手になる、『Nyarlathotep』は何者なんだろうか。充分スタートラインに立っているし、増やすことが簡単ならば、全人類を『Nyarlathotep』にしてしまうのも良いかもしれない。


――などと考えていると、鋭い蹴りを腹に貰う。痛みから、呼吸が止まる。同格と思っていたが、真逆、こいつのほうが上か……?


「せっかく楽しく遊んでるんだ、楽しもうや」

「確かに、せっかくだもんな」


 鼻で笑って、殴り合いを続けるが、段々と、鋭さが増す『アバドン』。それに比べ、『ゼバオト』は確実に、弱くなっている。

 疲れ? ダメージ? 違う、もっと根本的な物だ。《神的火花(ブレイズ)》の喪失。だが、何故だ? そんなに力を使って――脳裏に浮かぶ、美女のような男の浮ついた笑み――いた。


「物部のせいじゃねぇか!」

 叫びとともに、拳を振るう。『アバドン』の頭にクリーンヒット。奥歯砕けろ。


「悪いが、僕のせいでは無いよ」

「なっ!?」

 死んだと思ってた奴に返事されるとビックリするよね。だから死んどけよテメェ……。

「ここは、奴の【支配領域】だ。むしろ今まで良く戦えたものだ」

 始めて聞く単語だ。【支配領域】。


「高位の『能力者』、スリー・サイクルの行き着く先は、皆同じ場所だ。それこそが、【支配領域】。つまりは、自分の世界を持つと言う事だ」


 じゃあ、それが出来ない、『Nyarlathotep』を増やしてもそんなには強くないということか。


「恐らく、(ゼバオト)(アバドン)根源(ルーツ)が同じなために、それだけでは殺せないのだろう。だが、力は吸われているね」

「……お前は何で生きてるんだ」

 自分の霊的感覚のドコにも存在を感知できないと言うのに、その言葉だけは良く聞こえる。本当に面倒臭い奴だ。


「僕も【支配領域】持ちだ。このレベルでは世界同士で殴り合いをする。僕の世界は小さい代わりに強固なんでね、抵抗力は高いよ」


「俺に勝ち目は無いと言うことかよ!」

 俺も蹴りを食らわせてやろうとするが、脚を掴まれる。そうして、逆に蹴り飛ばされる身体。もう、痛みも感じない。【支配領域】なんて無い。それを今すぐに使えるようになる様子も無い。



――詰みか。



 思ったよりも呆気ないものだ。心も震えない。そんなものと思えば、何の感情も湧きやしない。



「悪いけど、そうでも無いと思うよ」



 だというのに、物部の言葉を聞いて、心が少しだけ救われた気がした。全て信じられる相手では無いのに。


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