第四十七話 ――『仕事』の手伝い――
さて、「暇だろう?」の暴力的な言葉により、俺も仕事とやらの手伝いをする事となった。
「働かざるもの食うべからず、だろう?」
良い車に乗り、どこかに向かう俺達。高級車のリムジンだぜ、国家公務員の一種らしいが、税金の無駄使いじゃねぇか?
「俺は十六、なんだろう? もう少し優しくしてくれたって良いじゃねぇか」
「悪い子だね、甘えん坊さんめ」
ムカつく。顔立ちがお姉さん系なせいで、知らなきゃドキッとするような感じで言うなオカマ野郎め。
「有悟さん、負けてます! 負けてますよソレ! ホモ堕ちなんてサイテーですよ!?」
「しねぇよ!?」
最低最悪な想像をするウィン。アルゴと違って俺はホモじゃない。……ショタがロリった場合ってホモなのか……? もう何だよアイツ。俺と同じ顔辞めて欲しい。
「質問、『仕事』の内容は?」
「あぁ、悪いね教えていなかったか」
物部は幾つかの紙の束を寄越す。調書か。
――奏弦 明代。
黒の長髪をし、何処かオドオドとした弱々しそうな、幸薄そうな少女だった。資料によれば、中二、背丈も低く、馬鹿みたいに軽い。肉食え、肉。
「なんだ、こんなのが好みだったのか」
良い趣味してるぜ、加虐性癖持ちにはたまらねぇだろうさ。
「『四騎士のペスト医師』、何度も会ってるだろう?」
「アイツ女だったのか……」
結構びっくりだ。ドモりの酷い、弱々しい女……一部には大人気だろうよ。
「名は体を表す……。冗談で調べたらこの結果だ、勘弁して欲しいよ」
「それってどういう意味?」
サラが尋ねる。俺もよくわからんから解説が欲しいもんだ。
「【奏=蒼】、【弦=玄】、【明=赤】、【代=白】、それぞれが世界構成色に対応している」
四騎士の色も同じく、蒼、黒、赤、白。名前が先と言うに、能力に対応してしまった、と。
「キラキラネームの奴とかヤバイんじゃねぇの」
「天使ちゃんが、天使を従える事態は本当に起こりそうだから、勘弁して欲しいよ」
苦笑いで応える物部。俺は楽しく笑って返す。
「しかし、足取りは掴めてるのかよ」
「あぁこの間、ね」
そう言う物部の手には、革製のベルトが握られていた。おそらく、ペスト医師のコスチュームの一部だろう。手癖の悪い男だなコイツ。
「コレのおかげで、足取りは簡単に掴めるわけだ」
「で、このカワイコちゃんの所に行くのは良いが、目的は何だ?」
「ナンパ、って言ったら信じるかい?」
物部の悪い笑顔。辞めろよ、本当に
「勧誘って事か、だがアイツは別の組織の人間じゃないのか?」
そういえば、俺のことをアルゴと最初に言ったのはアイツだったな。読み間違いかとも思ったが、もしかしたら、俺の事もアイツの事も、両方のデータを持っていた可能性がある。
「あぁ、その組織は潰れたよ」
「はぁ……? マジで?」
「あぁ、破滅主義者の集まりでね、彼女が四騎士を従えるようになった時に、「世界の滅びは目前だ」と言い出して、集団自殺を決行した。彼女はその目的の為に意思を継いで動いているらしい」
「傍迷惑な奴らだな」
まぁ、良い。『組織』の中に組み込めるなら、手駒が増えるだけ、アイツも磨けば永劫の挑戦者になりうるだろう。
しかし、まぁ。疲れてきた。俺は横になる。すると、丁度合わせてきたのか、シィールの太ももに頭が乗る。
「あらあら、お疲れですか?」
「……寝る。着いたら起こしてくれ」
「はい、わかりました。ゆっくりと眠ってください」
物部は、まだ仕事があるのか、ノートパソコンを開き、キーボードを打ち込んで居る。大人ってのは大変なんだな。
周囲の音が消える。騒がしく叫んでいるであろうウィンの声も聞こえない。ジト目で俺達を睨むノゥの視線を、目を瞑りシャットアウト。サラは元気よく、俺の上に乗ってくる。それほど重いわけでもないし、クーラーの効きすぎたこの車の中では丁度いい湯たんぽだ。
俺はゆっくりと眠りに付いた。
目覚めたのは、この車が高速で奏弦 明代を轢いた瞬間だった。
女の甲高い悲鳴と、何かを挽肉にする音は、目覚ましに向いていないと思った。




