第四十五話 ――三つの『異能』――
面倒な相手は、放って置くのが一番だ。
「いやぁ、有悟さん。ナナシは強敵でしたね」
うんうんと、わざとらしく頷きながらウィンが言葉を続ける。
「ですが、この「有悟さんの妻」と、「愛しの旦那様」の愛の勝利ですね! 愛の! 『愛』の! LOVEの!!」
「いやぁ、《バジリスク》は凄いなぁ。流石に名が売れてるだけはあるよな」
『八岐大蛇』経由で借り受けた『眼』。これで二回目だが、他の三柱からの力を借りれば、かなりの幻覚を見せられる。それこそ、《世界の守護者》だなんて、大層な異名で呼ばれるような奴でもだ。
「ふぅ、助かったのです。流石はボクの《クロウ・クルワッハ》を打ち倒した《八岐大蛇》なのです」
「とは言え、時間稼ぎでしか無い。何かしら、手を考えないとな……」
物部とローゼスは本当に助かったと言う安堵の表情を浮かべている。一回殺した後すぐに逃げて良かったようだ。
「物部さんはよぉ、俺を倒せるのに、アレには勝てないのかよ……」
「何時か全ての能力に耐性を得られる。今回の幻覚も、二度は無いだろうね。その上、アンシャを隠しておけば無限コンティニュー。さて、君に勝ち目は?」
うぇっ……。そう言われると、無理ゲーだ。
「僕が勝てないのは、ナナシのような『終わりが無い』と、『ルール強制』だ、君のような『純粋な力』には勝ち得る」
「つまりはこの私、久留場支郎のような全てを兼ね備えた存在には無力、と言う事だな」
コイツの自信はドコから来るんだ……。上半身どころか、頭だけしか残っておらず、その頭を幼い少女が抱きかかえている。
《時の氏神》か。銀の長髪、黄金の瞳、純白のペプロス一枚の可愛らしい少女が、整っているとはいえ、オッサンの生首を持って歩く姿は犯罪的だ。
「流石は我が主。無様で情けないぞ」
歪んでるなぁ、あの関係。
訊く気はないが、頭だけでもそのうち身体は戻るんだろう。長期的に見れば無傷だ。
「で、久留場さんは、何時になったらカッコイイ所をお見せしていただけるのでしょうか?」
「……しばし待て、《手》は考えてある。実行には時間が必要だ」
つまり、今の弱さを認め、強さを得る方法は既に有ると。しかし――
「――魔倣士としては、ソコが限界だろう」
そう、【逸神導態】は、魔倣士の到達出来る最高の技だ。神を武器にする、神の御業を再現する。神と共に戦う者が強くなる方法は、強さを求める度、少しずつ狭まっていく。「自らが神となる」が答えであるために。
その為の技術の集大成が【逸神導態】。コレを出来る時点で、もう成長の見込みはない。
「異能の三分類か?」
物部が言う。解説の時間か。
「『再現』、『遺産』、『技術』。この周回世界に存在する異能は全てこの三つに分けることが出来る、と言われている」
「魔倣士は『再現』、かつて存在した『神格』を『再現』しているのです」
「僕は『遺産』の力を借りて戦っている。遥か古より残った『道具』、『遺産』だ。」
「そして、私が目をつけているのが、『技術』。魔法や、錬金術などのかつてより伝わる『業』だ」
「『再現』は『遺産』に弱い。一度でも負けているのであれば、自ら負けを『再現』する」
「『遺産』は『技術』に負ける。何故なら道具とは『技術』で産み出された物だから」
「『技術』は『再現』に劣る。なにせ『技術』のゴールが、『再現』なのだから」
面倒臭い、言いたいことはジャンケンか。だが……
「それでも単純に強ければ、相性関係ないんだろ?」
「まぁね」「そうなのです」「それは、な」
三人から同様の答えを貰う。じゃあ、それ本当に相性みたいに配置する必要あるのか?
「そういうものなんですよ、有悟さん。諦めてください」
そういうものかよ。俺は溜息を一つ吐き、久留場に話を続けるよう促す。
「技術を持ってして、『手』を広げようと考えている」
「それは、どのくらい掛かりそうっすか?」
「馬鹿みたいな額と、そこそこの時間が掛かるかな」
じゃあ当分戦線離脱って事か。というか、最前線って多分ココじゃないし。
「俺も何か『遺産』拾って、『技術』でも学ぶかな……」
「えっ? 無理ですよ?」
ウィンが何言ってるんですか、と言う顔で言う。
「人間、キャパシティってものが有るでしょう? 有悟さん九部九厘『再現』に突っ込んでますんで、他の入んないんですよ」
そうなの? 他の三柱に視線を向ける。
「肯定、有悟に他の何かを入れ込む余裕はない」
「えぇ、ごめんなさいね、私達のせいで」
「まぁ、ボク達四人が居れば、それで問題ないよねッ!」
だから、サクラは『友達百人できるかな?』と言ったのか。今ここにいる奴らだけでは、ナナシを倒しきれない。つまり、簡単に『詰み』が起こりえると言う事だ。一定のライン以上の強さがあり、そういった相手に対応できる『誰か』が仲間に必要だ。
「先は長いな、だから『組織』に向かったというのに」
「悪いね、だが安心してくれ。実力者は一人も討たれては居ない。君の言う手駒は減っては居ないよ」
「アンタより強ければ最高なんだがな」
「僕よりも強い奴は量の指で足りないほど居る。満足いただけると思うよ」
冗談だと思いたいね。それはヤバ過ぎだろ。
そんな話をしていると、《時の氏神》が頭を抱きかかえながら、俺達と別の方向へ進む。
「では、また会おう。次に会う時は、仲間を増やしておいてくれたまえ」
「アンタも今以上に強くなっておいてくれや」
「減らず口を」
そう言い、ドコかへ行く一人と、頭一つ。
「……異能や異常の秘匿、と言うのを考えておいて欲しいんだがね」
「あそこまで現実離れしてれば、白昼夢と思うだろ」
「貴方達、突然非日常に来たタイプは皆そうなのです。考えが甘いのです」
溜息を吐くローゼスと、物部。こいつら俺に対して、この反応多すぎる。
「だって、俺は何にも困らないもん」
「君は本当に悪い子だね……」
「本当に悪なのです……」
また、溜息を吐かれた。
まだ、『組織』までの道程は長いらしい。その間に何度溜息を吐かれるのか。
まぁ、俺には関係のない話だ。なにせ俺『は』困らないから。




