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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第三章 永劫の挑戦者
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第四十四話 ――『死』を超えた者――

「ナナシの能力は簡単にいえば『死に覚え』だ」

 物部は自らの肉体から、無数の骨を伸ばしながら話す。なんだよそれ……グロ画像かよお前は。

「一度受けた技は効かないって事か……面倒だな」

「本当に凄いやつなのです。ナナシは死ぬと、殺された手段に対する最適解を得るのですよ。まぁ、生き返る能力は持ってないのですが」

 ローゼスが半笑いで言う。小馬鹿にしているわけではなく、信じたくないと言うような表情だ。

「それなら、意味ない能力だな」

「そうだったら良かったんだがね」

 溜息を吐く二人。と言うか、こいつらは面識が有って、能力までわかって居るのに殺されそうになっているのか。ナナシと言う男の狂いっぷりにクラクラしてきた。


「《クロウ・クルワッハ》が居れば勝てるか?」

「時間は稼げるのです。勝つことは出来ないのですが……」


 インフレしすぎだろ――敵も、コイツらも。


「時間稼ぎ、になれば良いが……」

 いつの間にか、全身を骨に包まれた物部。まるで鎧のように形成された外骨格、その胸には古びた掛け時計が掲げられている。左の腕は、白銀のガントレットに包まれ、掴むは、《草薙剣(王剣)》。右手に掴むは《天羽々斬》。彼の周囲を五つの刃が舞う――背に背負う鞘、その柄を含めて、《布都御魂(7=1)》。

 言うなれば、古代遺産(レガシー)による、【逸神(Trance)導態】( formation)


「流石は《物部》と呼ばれるだけのことはあるのです」

 そう言う、ローゼスもなかなかの物だ。身に纏うドレスは、呪術の結晶。ふわりふわりと、風に揺れるたびに、莫大な呪いを空間に撒き散らす。世界の熱量(ブレイズ)を奪い取る呪い。ただの人間であれば、触れれば終わりか(一撃必殺)

 そうして得られた力が、彼女の左腕に握られた杖から奔流する光として放たれる。そうして形成される剣。


――同質の存在? ふと、二人の左手が被って見えた。


「さて、ガキ以外の準備は良いようだな」

 そう言う、ナナシは完全に自然体と言った様子だ。前は逃がさんと息巻いたくせに、逃がしてるぞペスト医者を。まぁ、小物だから後でも良いと言う発想か。



「どうします? 戦いますか?」

 ウィンが俺に訊く。「あんなの楽勝でしょ」って楽観が見える。他の奴らも、似たような状態の様で、「ボクに任せて!」「あらあら」「楽勝」と、思い思いに調子に乗っていらっしゃる。


「逃げるか」

 俺としては面倒なだけだし、戦う理由はない。よく見ればペスト医者は既に居ないし。アイツは引き際わきまえてるよなぁ……。

「薄情者め! 私を置いていこうと言うのか!」

 凄い勢いで噛ませ犬をした久留場が叫ぶ。胴体が泣き別れしてるくせにこんな元気で……。「どうせ死なないだろお前」って言葉が漏れそうになるが我慢。


「悪いな、皆――俺のために!」

 そう言い、涙を浮かべながら走り去るイメージ。本当に仲間相手なら泣いてやるが、お前らまだ敵みたいなもんだし。ここで死ぬならそうしてくれ。獅子は我が子を谷底に突き落とし、這い上がった者だけを育てるという。獅子頭(サクラ)の契約者としては、その逸話に則り、生き残った者を仲間としてやろう!



「まずは、お前からだ」

 その一言と共に、目の前にはナナシが現れる。

――疾い!!

 魔術や、異能の類ではない、単純な膂力。それだけで、五十m近い距離をほんの一瞬で跳んだのだ。


「何だよソレは!?」

 俺は驚きと共に、全身の契約呪印に魔力を流す。


 左腕(ウィン)――全身の血流操作、最高効率駆動パーフェクトコントロール。地面を左手で掴み、ブレイクダンスの要領で身体を回転、ナナシの一振りを回避する。

 左脚(ノゥ)――肉体への負荷制御、無重力状態(ゼロ・グラビティ)。羽のように軽くなった身体を、左脚の一蹴りで宙へと浮かせ上る。これにより、奴の意識の外へ。

 右脚(シィール)――空間の気流操作、空中演武(エアリアル)。突如吹き荒れる暴風が、俺の身体を更に、高速で回転させる。全身の空中での回転、次の一撃に遠心力も乗せる。

 右腕(サラ)――世界の熱量制御、異常燃焼(デトネーション)。世界その物が炎の概念に焼かれる。そうしてこの世を薪に燃え盛る炎の刃がナナシに触れる。


 熱量制御、もっと熱く。気流操作、もっと疾く。負荷制御、もっと重く。血流操作、もっと強く。

 全身のバネを持って振るわれる、異常な重量を伴い、強い風にその背を押され、全てを燃やす炎の一撃。


 つまりは、何一つ残さずに、ナナシは死んだ。焼ける肉の匂いがした。


「悪い肉じゃなかったようだな」


 臭みの少ない残り香。ベジタリアンだったのか?

「有悟さん、流石に人肉が焼けてその感想はドン引きです……」

「うるせぇ」

 完全に無意識だった。これも前の焼き肉の夢(アレ)のせいだ。

「提案、回復はするから、私も有悟の肉が少し欲しい」

「嫌だよ」

 自分は夢のなかでやったような気になっただけだし。カニバリズムは好きじゃない。

「あらあら、お腹が減ったんですか?」

「そうかもな」

 そう言い、何かあったかと探すシィール。

「大丈夫? ユーゴ?」

「大丈夫だから、そんな目で俺を見ないでくれ」

 結構ガチで心配って目で見られる。やめろよ、その目は本当に辛い。



 と、まぁ、四柱とキャッキャキャッキャと話していると、深い溜息が物部とローゼスから漏れる。

「何だよ? 思ったより楽だったぜ? 世界ごと焼いたから、回復も不可能だ」

「確かに、貴方のソレは驚くべきものなのです。でも、ナナシも馬鹿には出来ないのです」

「僕たちは殺したくなかったんだよ、彼を」


 殺したくなかった? それもそうか、『死に覚え』だもんな。先ほど以上に、気を引き締める二人。それに合わせる俺。


「やれやれ、やはり駄目な子じゃのぉ……」

 アンシャ・ベルは、溜息を吐くと、自ら帯を外す。そうして、大きく、和服を開く。

「はぁ!?」

 露出狂か、この女。突然の事に、驚き、目を逸らそうとして――パスからの命令により、その視線が、彼女の下腹部に向けられる。何のつもりだ!?


「故に、愛おしい」

――良くその目を向けていたからこそ、気が付けた。

 彼女の内臓の形が出て、少しぽっこりとした子供らしい腹を裂き、鋭い『何か』が俺の首を狙っていた。見ていなければ避けられなかった、その一撃。


「――避けたか」

 彼女の腹を縦一文字に裂き、その内から這い出る、緑色の異形。植物の茎や葉を組み合わせ、人のシルエットを作った、そんな姿。先ほどの『何か』は、その右腕を鋭く刃に変えたものだと、今になって気がついた。


「お前、ナナシか……?」

「見ればわかるだろう?」

 そう言う、異形。どっちがバケモノかわかったものじゃないな。


「あれが、アンシャ・ベルの異能、【(Re )ビ肉ノ(in )華ノ内ヘ(Carnation)】なのです」

「僕たちは、悪い大人ではあるが、君のような青少年に、この能力の説明はしない。何故なら今の君は十六歳だからだ。これで察してくれ。わからなければ二年後に教えて上げよう」


 大体わかったし、最悪な能力だし、目の前で《再度発動》されるのなら説明しても同じだと思うんだが……。


「覚えた……。さぁ、第二ラウンドだ!」


 ナナシが吠える。その姿は、死への恐怖が人の形を取ったかのような物だった。


――死を超えた者(Overed)。名も捨て去り、永劫の輪廻に組み込まれた哀れな男。


 これが、ナナシと言う男か。

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