表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第三章 永劫の挑戦者
44/58

第四十三話 ――新たなる『敵』――

 さて、復讐を始める理由だ。


 サクラ()喰らう(理解する)事で、知った多くの情報。その一つ、『俺が育つことが出来た周回世界はこれが始めてである』これに尽きる。


 幾千万と続く周回世界は俺の誕生を持って終焉を迎える。終わりの記号(ピリオド)にされて居たのだ。そこに納得の出来る理由は無い。偶然、永劫神族(アイオーン)にとって都合が良いから、それだけだ。


 永遠と殺された、殺した。望まなかった、ただ奴らの為の道具であった。そうした全ての時間を、全ての過去を知ってしまった。復讐するには十分だろう?


「言い訳は辞めろ。何の意味もない」

 久留場が言う。戒めるように、忌々しげに。

「……すまなかった」

 そのとおりだ。復讐に理由や意味は無い。自己満足。そこに正しさを求める奴は、成し遂げられない。

「さて、手駒として使うと宣言されておいて、ホイホイと連れてくる僕も悪い奴だと思うさ」

 そう言い、困ったようなジェスチャーをする物部(もののべ) (しろ)

「だが、これはあんまりだと、慰めちゃくれないか?」


 目の前に広がるのは死屍累々の地獄絵図。『組織』と呼ばれる集団の、基地に連れて来てもらった結果がコレだ。嫌になるぜ。


『百花繚乱の紫陽花』ハンドレッド・ハイドランジアってカッコイイよな、憧れるぜ」

「どうせ、【永劫の(アイオーン・)挑戦者】(チャレンジャー)にもなれんような奴らだ。実力を測る手間が省けてよかったよ」

「君達に頼んだ僕が悪かったよ」


 そう言い、縄で引き摺られていたローゼス=ヴァッサー、ペスト医師の男を放る。

「うるせぇんだから、黙らせておこうぜ?」

「死なれちゃ困るのさ。片や六人しか居ない《世界の守護者》。片や世界で三人しか居ない、【多重契約者】だ」

『黄金世代の赤薔薇』(ゴールデン・ローズ)か、【契約神格】(パートナー)が残っていれば、カウント出来たのだがな……」

 はぁ? コイツ『八岐大蛇』一人で倒せたぞ? インフレ(俺の成長)に「実は奥の手が在ったのさ」って顔で付いて来てる物部に比べたら、アイツ(ウィン)置いてかれてるぞ? それに負けたとか更に後ろなんだけど……。


「有悟さん!? 何だってそんな私に対して酷烈なんですか!?」

 ぴーぴーと騒ぎ立てるウィン。煩い奴がココにも居たか……。

「適正、ウィンはそう言う立ち位置」

「あらあら」

「ウィンだしねっ! しょうがないねっ!」

 きゃっきゃと笑う三柱。……お前らだってインフレ(これからの戦い)には追いつけてないぞ。 


「ユウゴよ、それは違うぞ。単に相性の問題だ」

 久留場が口を開く。解説したい奴が解説してくれる、なるほどサクラの言う通りだな。

「本当に相性が良すぎたんだ――お前の手駒で、『八岐大蛇』以外は《クロウ・クルワッハ》には勝てない。三対一でも不可能だ」


「なんだその、後付みたいな強さ」

「……手札を全て出したら、僕は君に、《ゼバオト》にも勝てると言ったら信じるかい?」

 会話に割り込む物部。お前もその性質(タチ)か。

「……信じてやるよ。アンタの今の余裕は、俺と久留場に勝てるから、だろう?」

「その僕が、全ての手札を出して、引き分け、紙一重で勝てたのがローゼスだ」


「あの時の話か……」

 思い出すのは、始めて真名を開放したその後の戦い――と、一つ、嫌な事を思い出す。

【契約神格】(パートナー)無しで《ゼバオト》以上。そこのスーツの男が見立てをどのように行っているのかは知らないが、実績だけで見れば十分な戦力だ」

 物部が言ってのける。なんだそれ、化物じゃねぇか。


「そういえばウィン、《クロウ・クルワッハ》って返せるのか?」

「さぁ? やってみます?」

「……今渡すと、何されるかわからないからな、そのうちにしよう」


 それに、どうやら俺達とお話したい人()が来たようだ。


「……魔倣士(神様頼り)が三匹、神格が四匹、遺産担手(荷物持ち)が一匹か。後一匹は……昔見た顔だな」

 その男は、奇妙な男だった。黒のコートに全身を包み、伸びきった黒髪、その下から覗く黒く、くすんだ瞳。小さく露出した肌は日ではなく、火により焼けて黒く変色をしている。その手には、大きく、デフォルメされたかのような肉切り包丁が握られている。正確には、ギロチンの刃に、取っ手を付けただけのような、むちゃくちゃな武器だ。

 どう見ても死に体だと言うのに、その強い生命力、強い敵意。一瞬、ゾクリと背筋が凍る。


――が、実力は随分と低い。その肉切り包丁はおそらく古代遺産(レガシー)だろうが、それだけ。内包する|《神的火花》《ブレイズ》も大したものじゃない。


「……アンシャ、近くに居てくれ。おそらく、回数(・・)が居る」

「うむ、心得た」

 物陰から、現れる少女。真っ赤な着物と、真っ赤な長髪。赤と黒、随分な凸凹コンビだ。顔立ちは可愛らしいが、随分と、積み重ね(老い)ている。


「アンシャ・ベル。『輪廻転生(リイン・)の麝香撫子』(カーネーション)、《世界の(・・・)守護者》。ナナシ。アンシャと共に有る、《人類(・・)の敵》」

 物部が語る。久留場は「ほう」と面白そうに笑う。

「勘違いするな、俺は人類を愛している。だからこそ、貴様らのような異能者(バケモノ)を殺す。害獣は駆除せねばなるまい」


「逃げよう。悪いが、君たちが捨て駒に成ってくれると、僕はとても助かる」

 そう言い、無数の遺産を取り出す物部。お前何処にそれだけ荷物持ってんだよ。

「面白い。俺の見立てでは大した敵では無いが、この男がソコまで言うとは――測ってやろう」

 木製の全身鎧を纏う久留場。【逸神(Trance)導態】( formation)か。過去の記憶では見たことがあるが、実際には見たことがない。過去の時点では、あの《オーディン》に負けて、おめおめと逃げて居たこいつは、どれだけ強いのだろうか。


「お前達は見ていろ」

「よし、逃げよう。悪いね、久留場さん」

「見てかないのか?」

 面白そうな見世物だってのに。


「何もしないと約束するから、《クロウ・クルワッハ》を返すのです! それを今しないならさっさと逃げるのですよ!!」

 自由になったローゼスが逃げる準備をしながら言う。……《ゼバオト》クラス《俺と同じ位の強さ》が三人居て、逃げを選択する必要がある……。


「久留場さーん! ソイツヤバいらしいっすよー!」

「よし、有悟。貴様が次の対戦相手だ」


「……さっさと終わらせないと、逃げるようだな」

  俺達のコントじみた掛け合いを溜息共に、切り捨てるナナシと呼ばれた男。

「ふん、一撃を許そう。丁度良いハンデだ」


――あ、駄目だアイツ。死ぬわ。


「逃げきれる先って知ってるのか物部?」

「わかった、君たち皆付いて来ていいよ。悪いが犠牲は少ないほうが良い」

「助かるのです。流石物部は話がわかるのです。早く《世界の守護者》に……」

「ィまハ、早く逃げェなけれバッ!」

 そう言い、ペスト医者が急かす。同意見だ。早く逃げないと――


「バッ!? 馬鹿なッ!!?」


「うわっ、もうダメだった!!」

 振り返れば、両の腕ごと、腹から真っ二つにされた久留場の姿があった。『第四障壁』を超えて、切断されたと言うことか。【叡智】との戦いの傷が、とか一応フォローはしてやろう。

「本当に、覚えておけ有悟」

 久留場、下半身とバイバイしておきながら、余裕があるな。



「さて、次は誰だ? 全員でも相手してやるぞ」

 そう言い、ナナシは中指を立てる。


「誰一人逃がさん、皆殺しだ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ