第四十話 ――燃え盛る《神的火花》――
奴の脚が、俺の頭を踏みつける。どうやら、気に障ったようだ。
知らない間に浦島太郎、ショタホモだったとの捏造過去を押し付けられたりしたが、俺は元気だ……嘘です、辛いです。
(元気出しましょう! 大丈夫ですって、今の有悟さんは私の事が大好きな健全青年ですって)
(否定、少女趣味の傾向がある。健全とは言えない)
(あらあら~、ユウちゃん。駄目ですよ、小さい子に手を出したら)
(ねっ! ボクの耳を触ろうとしたし! ロリコンって奴だよッ!)
随分と騒がしく 『霊的な繋がり』を通して話しかけてくる四柱。女三つで姦しいと言うが、四人ともなればたまったもんじゃないな。
(と言うか、随分と余裕ですね有悟さん)
それはお前達もだろうと、思わないでもない。完全敗北し、一度は心も折れた。しかし、過去を見せられ余裕ができた。
――打開策が有ると知れたのだ。
(絶対ダメだよ、ユーゴ)
サラが、何時もの元気も無く諭す。
(ユウちゃん、それだけは駄目です)
シィールが、きっぱりと否定する。
(絶命、今の均衡が保たれているからこそ、有悟は生きている)
ノゥが、淡々と理由を告げる。
(有悟さん、ココで私達四人が封印される事になっても、捨て駒にされようとも良いです。でも、ソレだけはダメです)
ウィンが、冷たい声色で言う。
だからと言って、頷くつもりは無い。
――【逸神導態】。支郎って奴が使っていた未知の技術だが、これはかなりの戦闘能力の向上が望める。ただし、俺はこの四柱のバランスにより、成り立っている。ノゥの言う通り、ただ使えばどうにかなって死ぬだろう。
「魂の連続性はアルゴに存在する。潔く死んでくれれば良かったのだがのぉ……」
「まぁ、無理だよな。俺が逆の立場でも諦めねぇよ」
アルゴは腕組をし、俺の頭を踏みつけながら言う。まぁ、お前も俺なんだ、そう思うよな。
「【逸神導態】だろう。だが、どいつなら勝てると?」
《八岐大蛇》――対龍属性の不利は無視できようとも、奪える龍、蛇の属性が無い。
《キュベレー》――手駒は増やせても、俺達全員をこうして叩きつけている力に対応は出来ない。つまりは何の意味もない。
《ジュピター》――恐らくは、《フロールリジ》=《トール》には勝てても三体相手では相打ちが関の山か。同系統の敵が相手なのが面倒だ。
《バステト》、単純な能力なら眼は有るか。しかし、相手が《オーディン》と《ロキ》である以上、搦手が一切無いのは弱い。
「手に取るように考えがわかる。だからこそ言おう、貴様の負けだユウゴ」
「後一手、考えが足りないんじゃねぇか? アルゴさんよぉ」
勝ち筋はこうだ、《バステト》の膂力、《ジュピター》の広範囲殲滅、《キュベレー》の手駒生成、《八岐大蛇》の戦力奪取。つまりはその全てを持った、最高にイカした【ぼくのかんがえたさいきょう】。
「四柱全てを一度に降ろすつもりだろう。『全知の座』を舐めるな。それが失敗することは《見》えている」
「そんなことはよぉ……」
四柱を全て、自らに”還”す。
「やってみなけりゃわからねぇだろ!!」
そうして自らの身体の内で、全てを開放する。はじけ飛んでしまいそうな衝撃が、骨の髄から止めどなく溢れる。
視界が奪われる。目の前が真っ暗になる。
そんな暗闇の中で、小さな炎が燃え上がるのを《見》た。
《神的火花》が揺らめいた。
未だ、戦場に手を出さぬリズ。その傍ら、《カイロス》が臨戦態勢を取る。
「【永劫の挑戦者】候補が殺し合いか……」
嘆かわしい。そんな事を呟きながら、一人の男と、一人の少女がリズに近づく。
「そんなの、オッサンが勝手に決めた事でしょう? リズや兄貴には関係無いよ」
「オッサンだと、我が主。言われたい放題だな」
「好きにしろ。既に私には年齢や呼ばれ方など意味が無い」
そう言い、眼を閉じ、髪を搔き上げる支郎。その姿は、目の前に立つリズと同じ姿に変わる。そうして、眼を開けば、|《時の氏神》《デウス・エクス・マキナ》。変わる、変わる。気付けは、また、元の成人男性の姿に変わっていた。
「キモっ……『Nyarlathotep』?」
「奴らは『第四障壁』を超えられん。これはちょっとした応用だ」
「で、リズとしてはオッサンの意見も聞きたいんだけど」
「ユウゴが間違いなくオリジナルの有悟だ」
「その理由は?」
「――奴が『世界の中心』だからだ」
「笑え、少女よ。ココに揃った我らこそ、永劫神族に挑む刃。貴様等の首を切り落とす者達だ」
|《時の氏神》《デウス・エクス・マキナ》の存在が溶け、支郎の姿が全身鎧に包まれる。戦う準備が出来たようだ。
「時間操作も……効かない。単純な腕比べ、ね」
「永劫神族と契約した魔倣士。胸を貸してもらおう」
「セクハラだよ! オッサン!!」
「『久留場さん』だッ! 兄妹揃ってお里が知れる!!」




