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第三話 ――突然の『敵』――

――チャイムの音。



 俺はそれに気が付くと、ウィンを撫でるのを止め、立ち上がった。

「誰だ? 家族なら勝手に入ってくるだろうし……?」

 とはいえ、数日の間寝ていたような状態だ、何があったのやら。ともかく俺はインターフォンを確認する。が、そこに人の影は映っていない。

「――有悟さん、逃げましょう」

 かなり真剣な顔でウィンが言う。……なんだ? 頭を撫でて貰えないから拗ねてんのか?

「何を言って……」

 何を言ってるんだ? 全てを言い切る前に、リビングのドアが吹き飛ばされ、俺の元へと飛び込んでくる。――ぶつかる!? 

 その直前、俺と扉の間に割り込むように『召喚』されたサラマンダーが、その扉を指差す。指の先からは業火が燃え盛り、木製の扉を消し炭へと変えた。


「ユーゴッ! 大丈夫っ!?」

「あ、あぁ……」

 俺は右腕で頭を押さえながら答える。破片一つ当たっては居ない、しかしどうしようも無い頭痛が走った。――俺は何故、彼女が出る事を『召喚』と言ったのだろうか。

「有悟さん! 早く!」

 ウィンが叫ぶ。しかし、頭痛が身体の動きを制限する。まともに立っていられない!?

俺はその場に膝を付いた。


「うぃ~……」

 扉のあった場所にもたれかかる様な影が一つ。そうだな、扉が飛んできたんだ――飛ばして来た奴が居てもおかしくないか……。

「どぉ~ウっもぉ……アーあぁアァン!? ど~も、えぇ……アル……ゴさん?」

 奇妙な姿だった。黒のローブに身を包み、顔には鳥のくちばしを思わせる奇妙な仮面をしている。頭にかぶったシルクハットと手に持ったステッキがさらに不気味に見せる。

「ア……アルゴ?」

「あぁぁン!? アぁ~、ユウゴ……ですヵ、まぁイぃんでスぅけどねえ」

 そう言いながら手に持った紙の資料を投げ捨てる黒尽くめの男。

「どぉっせ”死ぬ”んですから!」

 そう言い、ステッキで俺を軽く叩く。俺はそれを払いのけようとして、身体が自由に動かない事に気が付いた。

「はぁアん、第一フぅェーズ、ダぃにっフェーズは超えちゃいましたねぇっへっほ」

 しかし、イントネーションといい、声の調子といい、どうも苛立たせる。何を言ってるのかわかったものじゃない。

「なん……ゴホゴホッ! なんだよお前は!」

 咳込む。頭痛だけじゃない、気だるさ、咳!? 無数の体調不良が重なっている。

それでも何とか男に尋ねる。しかし、俺の言葉を聞いてか聞かずか、男は部屋中を杖で叩いては、好き勝手に荒らしている。


「本当になんなんだよお前はよぉ!」


 俺はそれを止めようと立ち上がり――バランスを崩し、倒れこんでしまう。


「……ユウゴ、ホムラ ユウゴ。あぁん! ゴホッ! ゴッホッ!」

 咳き込みながら俺の名を呼ぶ。俺は何とか顔を上げると、男は目の前でしゃがんでいた。

「お前は”超えて”しまった。超えてはならない一線(ボーダーライン)を」

 そう言うと、男は手に持ったステッキで俺の左頬を強く打とうとする。

しかし、彼の持つステッキは瞬間的に風化し、俺の頬に当たると耐え切れず崩壊した。

「矢張リィ……契約対象が強力な上多すゥぎルヵ……」

「ユウちゃん! すみません! 私の注意不足でした!」

 そう叫びながら俺と男の間に立つ、シルフ。少しの間しか関わっていないが、ここまで覇気のある声が出せたんだな。

「Unrelated.We only do doing(関係無い。我等はやる事をやるだけだ)」

「アぁ、そゥでスね……」

 男に語りかける影。ぼんやりとしか見えないソレもまた奇妙な姿をしていた。

 先ず、何より眼に付くのは真蒼な身体(ボディ)。無数の金属フレームが折り重なるようにしてその全体像を形作っていた。そしてその形はケンタウロスを思わせる四脚二腕。全身至る所に鎧のようなディティールが見受けられる。

「質問をヵい始します、ィきゃの質問にYESかNOかでぉ答ェくぅだっさィ」

 先ほど投げ捨てていた紙を拾い、男は質問を始める。

「はぁ?」

「一つ、ァの飛行機の爆発はキミの所為である、Y/N(はい、いいえ)

「Answer obediently or a pain continues(素直に答えよ、さもなくば痛みは終わらぬ)」

 もう一つの言葉は理解しきれないが、おそらく物騒な事を言っているのだろう……。

「No、あれは俺の所為じゃねぇ」

「次、キみに、コれが見えるヵ……は、訊くマでも無いカ」

 蒼い影が俺の眼前で足踏みを繰り返すのを俺は避けようとする。

「最ゴの質問にさつサと行キましォ、私たチにシタがぅヵ? Y/N(はい、いいえ)


「質問、何故従う必要が?」

 その言葉と共に、床が、地面が割れる。ノームだ。男はそれに気が付くとすぐさま地面を蹴り、地割れから逃げようとし――

「逃げれるとでも思ったッ!?」

――その腹狙って、サラマンダーより火球が放たれる。

「Don't do a foolish thing!!!(馬鹿な真似を!!!)」

 その火球めがけ、蒼の騎がその腕を伸ばし――腕を形作る光沢豊かな金属骨格(メタリックフレーム)が解け、再度組み合わさり、槍を生成! 火球をかき消す。


「馬鹿は貴様らだ!」

 そうして、無防備になった一人と一騎を相手に、ウィンが叫ぶ。人差し指を伸ばし、彼らを真横に横切るように腕を振るう。そうして放たれる直線、全てを断ち切る――レーザー!? 違う水だ!

 水で物が切れるか、答えはYESだ。水圧を上げ、いくつかの手段を講じれば理論上は鋼鉄も、ダイヤモンドすらも断ち切ることが出来る。


 つまりは、家など簡単に真っ二つだ。


 地面は裂け、壁は断ち切られ、家はその形を維持できず、崩壊を始める。

動けそうにも無い俺の横、サラマンダーが立つ。どうやら、上からの落下物から守ってくれるらしい。



 数分もすると、家は完全に崩れ落ち、俺もサラマンダーに肩を借りることで何とか立ち上がることが出来た。

「や……やったか!?」

 ぼそりとつぶやく。

「有悟さん! それ駄目なフラグですよーッ!!」

 叫ぶウィン。と、目の前の地面からがたがたと言う音が。

「How dare you !?(良くもやってくれたな!?)」

 叫びを上げながらも、蒼いその影が瓦礫を押しのけながらもがく。立ち上がることは叶わず、千切れそうな上半身と下半身が痛々しい。

「よくわからんが……終わったのか?」

「あ~、アッ、あぁ……終わりですんで動かないでクださィね」

 後ろからの声。そして、首元に触れる冷たい感覚――刃物か。

「……良く生きてたな、驚いたぜ」

「ハはは、《Pale Rider》サんが蹴飛ばシてくれなきゃおじゃンでしたね……」

 なるほど、そうやって避けたって事か。と、四人は地面を踏みしめ、オレの周りをくまなく囲う。一触即発といった様子だ。

「四柱共に止まルこと、手がスべれは、殺しヵねなぃンで……」

 その一言で四人の動きが止まる。

「説明不足だと思うぜ? 何故従わなきゃならねぇのか、従わせて何をさせたいのか」

 しかし、先より体調がいい。蒼いのが倒れてるからか?


「その話は、ボクがするのです」

 等と考えていると、また違う声が聞える。俺と後ろの怪しい奴、二人でその声の主のほうを見る。車から降りる一人の少女。

 赤い、紅い、流れ出る命の色、血の様な色。その色で編まれたレースのドレスを身に纏う。同じ色の細く長く美しいその髪。同じ色の深く、澄んだその瞳。そして、その朱を引き立てる透き通るような白い柔肌。ただ立つ姿が一つの絵のように様になっている。

――彼女も人でないのだろう。そんな美しさがあった。

「7=4、被免達人《Adeptus Exemptus》……」

「なんだ? 知り合いか?」

「世界最古の魔術師《Elder》、知恵の象徴《Solomon Ring》、災悪の魔女《The witch of a disaster》、最も10=1に近く遠い者……」

 黒尽くめの男の手が震え、持っていた刃物を落とす。声もだんだんと震えが大きくなり、むしろ聞き取りやすくなる。


「どうも、御機嫌ようなのです」

 ふわりと、そのドレスの端を持ち上げ、ペコリと頭を下げる彼女。声、仕種、全てが人を惹きつける。

「ボクの名前はローゼス=ヴァッサー、《世界の守護者》と呼ばれてる者なのです」

 そう言う彼女はニコリと笑みを見せる。先のとは違った意味でくらくらする。




「ユウゴ ホムラ、どうか共に来て欲しいのです。そして話を聞いて欲しいのです。

この世界が今抱えている問題と危機、そして新たに産まれた『世界の敵』について」



 俺は彼女の言葉に、頷いた――その言葉の本当の意味もわからずに。


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