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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
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第三十八話 ――戦場の『死』――

「全てが思い通りになると思うなよ」

 投げ捨てるように、吐き捨てる。

 気に食わない。面白くない。燃える三眼が変わりつつある自己を自覚させる。


――だが、その変化こそが勝利の希望(可能性)を与えてくれる。


 機能をほぼ失って居た肉体。『神格』を得た為か、急速に回復を始めている。それどころか、確実に強化されている。


「あーあ。そんな急いで治したら、『Nyarla(戻れ)thotepに』(なく)なりますよ?」

 耳障りな声だ。そんな事は分かっている。だが――


「だが、『Nyarla()thotep()』は倒せる」

「でも、『Nya()rlath()otep()』が残る」


『辞めよ有悟! 逃げろ!』

 《バーレイグ》が叫ぶ。コイツは戦神の癖に随分と逃げ腰だな……。

(わかってるよ、『今の状態』じゃ勝ち目が無い事位は)


 全身の機能が回復する。立ち上がり、軽く動かす――まだ足りない。上限を超え、回復を行わせる。変わる身体、自己を塗り替え、神と成す。これが【逸神(Trance)導態】( formation)。肉体が捻じれ、新たな脚が生じる。血は不浄の油に変わり、眼球は意味をなさず、肉の内に押し込まれる。腐ったかのように黒く変色していく身体。


「本当に、速いですね。その領域まで一飛びですか……」

 溜息を吐きながら、彼女も同様の姿に変わる。三脚に、捻じれ伸びた頭部。瞳も鼻も、耳も無い。唯一残った口が、大きく開き、呪詛を吐く。同じ姿、だが俺と奴とでは色合いが、その材質が違う。上下は無い、ただ本質が、性質が異なるだけだ。


「AhwooooooOOOOO!!」

「GRrrrrrrrrrrRRR!!」


 獣の雄叫び。両の手が掴み合い、単純な力の比べ合い。ここでも上下はない。同様の存在だからか。しかし、意味ハ無い。コノママ有悟ハ『Nyarlathotep』ヘト変ワル。我ラノ一員ダ。ココマデクレバ戻レナイ。『流星群』Niyoru戦力No増強Ha成功sitaMo同然Dearu。It isn't enough yet.That's one small step for our, one giant leap for Nyarlathotep.


 We can slaughter AEON.


――黙れ!!


 塗りつぶされそうになる自分を、無理矢理に取り戻す。何故出来るか、人が神に勝てるのか――出来る、勝てる、《バーレイグ》が居るのだから!


『戦神の力をそのような事に使うとは、初めて見たぞ』

「自我を保つ、十分戦いだろう」


「なるほど、それが勝ち得る手、ですか」

「俺の意思に、貴様らの力、そして、《バーレイグ》の加護。さて、問題だ。この状態の俺に勝てる確率は?」


「やっと、いい(fifty-)勝負(fifty)ですよ」


 そう言い、殴りかかる敵。


 正直な話が、始めてだ同格との戦いは。まともに喧嘩だってしてこなかった温室育ち。ちょっとばかし人間を辞めたからと言って、こんな殴り合いは支郎が始めて、これで二回目だ。

 痛む(多分)頬。殴った拳(だと思う物)も痛い。士郎と殴り合い(先の戦い)をしていなければ、心が折れていたかもしれない。


 そして、この(Nyarlat)身体(hotep)の凄まじさを知る。

 Cogito ergo sum.『我思う故に我在り』を概念的に装備していると言えば良いのか? 自分が認識できない攻撃の一切を無効化する能力がある。つまり、わからん殺しは全て無効。不可視、認識外、超高速、特殊な概念攻撃なんか意味が無い。自分の認識能力を落とすことで、防御力が上がるのは余りにもふざけてる。全感覚をシャットアウトすると、無敵時間が作れるの何だよコレ。


 更に、普通の防御力も高い。恐らく思いつく限りの物理現象では傷一つ付かないだろう。身体能力も化物じみている。特殊な能力を使わずに、物理限界だけが限界だ(光速に至る)


――その結果がプロレスだ。


 通常の人間程度の速度で動く――認識させなければならないから。

 攻撃は受ける――互いの装甲が厚すぎるが為に、肉を切らせて骨を断つ。

 狙うべきは関節技――掴みを一度でも感知させれば回避は不可能。


 なんだよ、この超人プロレスは。


 強すぎるが為に、弱そうに見える戦いしか意味を成さない。


 迫り来る拳を掴み、関節技に移行する。しかし、人体と異なる構造をしたこの身体であれば、基本的な関節技程度、抜けることが出来る。故に、自己身体の理解が深い奴のほうが有利。しかしながら、読み、力比べでは、加護を受けた俺が勝つ。


 互いに、距離を取り、一息を吐く。


――狙うべきはカウンター。狙われるはサブミッション。



 サブミッションに対するカウンター? 知らねぇよそんなの!! プロレス世代じゃねぇんだよ!!


 だからこそ、走りこむ敵を見る。鋭い一撃、恐らくはサブミッションに移行する為の布石。しかし、乗ってやる。


――クロスカウンター。


 素人の俺が極まるはずもなく。殴り返す俺の心臓を、奴の拳が貫いた。



「いやぁ、ギリギリ、でしたよ……」

「惜しかった、か」


 身体が解けるような感覚。戻っているのだろう、『人間』に。

『――有悟ぉおおおお!!!』


――残念だ。俺の戦いは、これで終わってしまったのだから。


 俺は深い眠りに就くように、その『生命を終えた』。



 『人』として、『戦場』で、『死』んだ。



――そう、俺の勝ちだ。

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