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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
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第三十三話 ――出来ぬ『事』――


『……んっ、良い……なかなか、上手いではないか……』

 身を震わせながら《バーレイグ》は言う。そう、撫でられている心地を言われてもちょっと、なんだ、困る。

 まぁ、俺としても綺麗なこの銀髪を撫でられると言うのは役得ではあるが……。いや、まぁ何も言うまい。

『痴れ者め、かような時は、嘘でも「撫で心地が良い」と誉めるものぞ?』

 そう言い、何処か寂しげに笑う《バーレイグ》。俺はその言葉に驚きつつも、ならばと素直に答える事にした。

「……すまん、撫でてて気持ち良いもんで、言葉が出なかった」

『ふん、そう言う事にしておいてやろう……存分に撫でて貰ったしな』

 そう言うと、《バーレイグ》は俺の手を払いのけるようにして離れる。


 曰く、先まで死に体であったその身。自分が本当に蘇ったのか、五感で体感したいと言う。(見る)(聞く)(嗅ぐ)(味わう)(触れる)。その内舌以外を一度に感じるには撫でられる事、それが途端に思い付いたらしい。


『さて、『流星群』の本質は話したがその概要は説明して居らんかったな』

「対価は何が入用で?」

 俺はやれやれと言う。まぁコイツとの対話はどうやら対価が必要らしいし、それをどうのと思うつもりも無い。必要となればそれだけの物を払うつもりだ。だが、どうも奇妙な寂しさもある。

『先の下手な世辞に免じてやろう』

 ニヤリと笑う。コイツは――嘘が苦手な奴だ。ニタニタと嬉しそうな様子が見て取れる。俺はその言葉に甘え言葉を促す。

『概要としては簡単な物だ。星辰が正しきゆえに邪魔は入らぬ。その状態で強力な『力』を持つ『物』を媒介に既に死に絶えた多くの『神々』を、この方舟の中で無差別的に『神降ろし』を行う(呼ぶ)

「なら、あの鳥だ鼠だも神様か?」

『それは低俗霊であろう。恐らくは力が弱すぎるのだ、呼ぶ声(『物』の『力』)に対し我ら『神々』(悪魔)の力がな……』


「それは止める事は……」

『星辰をずらす事が出来るのであればすぐにでも終わるぞ?』

「さっきから聞いてるが「せいしん」ってのはなんだよ? それが合うってのはんなレアな事なのか?」

 今の今まで知った顔をしていたが、どうにもしっくりこない。それは簡単にズラせる物なのか?

『星々の事だな。星座等、そうした位置が今とても良い』

「ズラすって星を動かすって規模の話かよ」

 それこそ天文学的な~と言う様な事じゃないか。俺は頭を抱える。そんな事が一中学生に出来る訳がないだろうに。


『まぁ、我が『真名』がわかればそれほど難しい事では無い。それにコレを本当に止めねばならぬのか?』

「お前等『神々』の願いだって言うんだろう? だが眼の前でアレだけの人間が死んで――」

『――蘇りはせんぞ』

 俺の言葉をさえぎる様に《バーレイグ》が言う。

『可哀想な話だと、お前は思うかも知れぬが、既に失われた命を現世に蘇らせる術は無い。止めたからと言って還ってくるなどと都合の良い話でもない』

「ハッ――星だって動かせるってのにか?」

『それは力に訴えかけたとて出来る事、しかしながら死者の復活は選ばれた神にのみ許された『力』』

「『バーレイグ』、アンタには無いのか、それだけの『力』が?」

『有象無象にして愛されぬ、塵芥の如き『魂』を選別し、元の身体に返してやれるだけの『力』は無いな、例え『真名』を得ようともな』

 吐き捨てる様に言う《バーレイグ》。何か辛そうな表情。

『何か、他にも『制限』が有った様な気がするが、我に蘇らせる事が出来るのは『力』有る魂だけぞ』

 そしてそれは他の『神々』も似た様な物だろう、そう言うと《バーレイグ》はスタスタと俺の前を進む。表情を見せぬようにと言う事か?

「何処へ行くんだ?」

『貴公の妹の所ぞ、彼女が死に絶えたら、困るであろう?』

 言葉だけを反す《バーレイグ》。俺はそれを追う様にして進む。辺りを見渡せば、神の放つ存在感だけで低俗な魂は怯え、逃げて居る。

『……幾ら死のうと、お主には関係は有るまい?』

「そんな風に割り切れるかよ! 死んでるんだぜ、人が!」

『他人の痛みを理解出来るのは良い、美徳だ。だがあまりにその痛みに敏感なようなら直すのだな。それは心を、命を蝕む』

「――おい! 待てよ! 聞いてんのか!」

 スタスタと歩みを速める《バーレイグ》。俺はその肩を掴み、引き止めると、此方を向かせる――幾ら死のうと関係無い? 敏感すぎるだと?


 言いたい事は沢山有った、でも何も言えなかった。


 泣いて居た。いや、泣かぬようにと堪えて居た。《バーレイグ》は辛くて辛くて堪らない、見捨てるなんて、心が悲鳴を上げて居た。そうわかる程、苦痛に歪んだ顔をして居た。

『今の我には何もしてやれぬ。『神格』をほぼ全て失って居る今の我には……この者達の死後の安らぎを祈ってやる事しか出来ぬのだ』

「……悪い」

――ようは悪役(ヒール)を演じて居たと言う事か、俺を助ける為に。そして、言い聞かせて居たんだ、俺に、《バーレイグ》自身に。

『気にするでない。今は助かる事だけを考えよ』

 《バーレイグ》は俺の手を振りほどくと、また先へ進もうとした。俺はそれに黙って従った。


「本当に、どうしようもないな、俺は」

 小さくぼそりと呟いた。

 《バーレイグ》の持つ『槍』が煌めく――せめて、アレの名前がわかればな。なんとなしに、そう思った。


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