第三十二話 ――『流星群』と呼ばれる願い――
『はて? ――『何』を解決する必要があろうか?』
《バーレイグ》は訊かれるのを待っていた、と言わんばかりの笑みで言う。
『この『流星群』は我ら、神々の願いぞ』
笑いながら言うが、その言葉、表情から全てが本心であるとわかる。
「……どう言う事だ?」
俺は尋ねるしかなかった。対価はわからないが、とにかく知らなくちゃいけない、そんな気がした。
『第一に星辰が適切な位置にある。そうそう起る事では無い。第二に我ら神々は死に絶えて居る。貴様等の崇拝する科学と言う奴によってだ』
そう言い、手をくいくいと曲げる《バーレイグ》。こっちへおいでのジェスチャーか。俺はそれに従い、共に元の場所へ向かい螺旋階段を上がる。
「『神は死んだ』、ニーチェか」
『正確に言うのであれば、死に絶えたのは彼の者の言った『神』以外の『神々』ぞ』
俺は首を傾げる。それを見た《バーレイグ》は困った様に笑う。
『唯一神を指す『神』と、八百万の神、巨人を指す『神』はお前達日本人の使う言葉では同じ『神』だがその実全く違うのだよ』
そうは言われようとも、簡単には理解できない。そんな俺を仕方ないかと言う眼で見てくる彼の者。ちょっと辛い。
「で、なんだ『神』は生きてて、『神々』は死んだのか」
『そう、彼の神聖四字にて呼ばれる『神』は、未だ預言者を眼とし、口とし世界に影響を与えている。人の学びし技術を未だ抑え込もうとしているのもこの『神』だ』
「それはどうでも良い、今必要の無い知識だ。で、なんだよ『流星群』ってのは?」
俺は言葉を止め、本題に入る。それを聞くと《バーレイグ》は露骨に嫌そうな顔をした後、口を開いた。
『『流星群』は我ら『殺された神々』の願いだ』
「悪魔……」
『今、この方舟には邪教徒しか居らん、その上に星は正しき位置にあり、我らとの『縁』深き『物』がある――故に、蘇ったのだよ』
無理して造った笑顔。痛みが、辛さが此方にまで伝わる。
『我も元々は力ある『神格』だ、それが名を忘れ、『槍』の《真名》すらわからん……』
《バーレイグ》は昇り終えたため、階段の先で俺を待っている。だけど、その背中は、消えてしまいそうで俺は階段を駆け上がり、その背を抱いた。
俺はきっと惚れてるんだと思う、この神に。コイツの尊大な態度に、でも弱くて、消え入りそうな存在に。
「俺は、何か、してやれないのか……?」
そう言って居た。自分を投げ捨てても良い、そんな気がした。神を崇め奉るとはこうした気持ちなのか。
そんな事を思って居ると、肘が、みぞおちに、はいった。
「っい!?」
痛みから抱きしめる力が弱まり、腕を離してしまう。そうして、俺の拘束から外れると、《バーレイグ》はその顔を真っ赤に染めながら俺に指差し叫ぶ。
『たっ、たわけ! その為に対価を寄越せと言ったのであろう!?』
そんな姿が少し、可愛らしく思え、また自分が焦りすぎたと思った。だが、それだけこの神は消え入りそうな程、恐怖に染まった声を出していた。
「そう、だな」
だから静かに、その言葉に頷くしか出来なかった。
『故に、今与えたもうこの『知』の対価を貰おうか』
『殺された神々』、『流星群』、成程、確かに対価は必要だろう。が――
「俺は解決策まで含めて頼んだぜ? これだけなら契約は不成立、だろう?」
『減らず口を……故に我らはこうして『縁』があったのかも知れんな・・・…』
ふっ、とかっこ好く笑う《バーレイグ》。あぁ、なんか無理したダンディズム的な物を感じる……ありていに言うと可愛らしい。
「んな重い対価は払わない、って事だ」
俺はにやにやと笑ってしまいそうな顔を出来るだけキリっとした表情で隠そうとし――だが、ニヤついた顔になってるんだろうなぁ……。せめてニヒルに笑えている事を願いつつ言う。
『ふむ……さほど、大きな対価で無しに、我が望む物、か……』
そう言い、口元を抑えつつ考える《バーレイグ》そうして、少しすると顔を赤くし、俺の方をちらちらと見ては言おうか言うまいかと言う葛藤を繰り返す。わかりやすい奴だ。眼は口ほどに物を言うと言うが、隻眼はなおの事、ってか。
「まぁ、まず言ってみてくれよ」
俺は言葉を促す。まぁ、聞いてみないとYESともNOとも言えないしな。
そんな事を考えて居ると顔を真っ赤にした《バーレイグ》は小さく口を開いた。
『……頭を。撫でてくれぬか……?』
視界がちょっとクラっとした。なかなかグっときた。




