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第二話 ――変わる『日常』――ウィンディーネとの場合


――どうやら俺が寝て居たのは病院だったようだ。


 四人の名前を聞き、此処は何処かと尋ねた、その次の瞬間には四人は何処かへ消え、見る影も無くなってしまった。そんな状況に驚いていると医者が現れる。

「眼が覚めたのかい」

 医者は目覚めた俺に質問を矢継ぎ早に投げかけ、それを何とか受け答え。

「意識は確りしているか?」「これは何本に見える?」「事件の時の事は思い出せるか?」

「大丈夫です」「三本」「事件? すみませんが良く覚えては……」

 そんな事を繰り返していると、医師が言う。

「調子が良いようなら、退院して貰っても構わないよ?」

「えっ!? マジっすか!?」

 そんな軽い事だったのかと驚きを隠せない。が、良いと言うなら、言葉に甘える。

俺は一人、自らの家に帰る事にした。医者は俺が目覚めたと連絡を入れたらしいが、両親は来なかった。恐らくは妹につきっきりなのだろう。アイツは俺と違って色々と出来が良いからな。親も可愛くて仕方がないんだろう。



(しかし、あの四人は何だったんだ……?)




 家に帰ると、そこには誰も居なかった。洗濯物も干しっ放し、珍しい事もあるものだ。

 俺はコップを取り出し、水を飲もうと蛇口をひねる。

「……何だこれ?」

 そうして見たのは、流れ出る水と、その脇に現れた小さな少女だった。蒼い髪、蒼い瞳。

可愛らしい姿で――そして小さかった。見た目としては先ほど見た『ウィンディーネ』を

デフォルメした様な姿かたちをしていた。

「ぱぱー! ぱぱー!」

 その小さな生き物は有ろうことか、言葉を発し、俺にすりついてくる。

「うわっ!? キモ!?」

 どうも濡れてるようで、触られると気持ち悪い。しかもコイツパパとか言ったぞ!?



「なぁ!? 有悟さん!? それは酷いんじゃないですか!?」

 と、そんな叫び声と共に、ウィンディーネが隣に立って居た。

「お前の差し金か……」

 と言うかお前も実在の物だったのか、俺はてっきり幻覚か何かかと思ったぞ。

「何ですかその言い方、お父さんはもっと娘と妻に優しくするべきですよ」

 プンプンとワザとらしく怒りを表現するウィンディーネ。

「なんだよ、お父さんだの妻だの娘だの……」

「真逆!? 覚えが無いとでもっ!?」

「無いな」

 記憶はあやふやだが、コイツはそう言う事してないのにしていると言い張るタイプだ。

「まぁ、良いでしょう。彼女は『妖精』です」

「『妖精』? ってーと、あのファンタジーなお話とかに出てくる……」

「その通りですよお父さん♪ ちゃーんと可愛がってあげれば見返りもくれますよ?

あっ、私も愛して下されば、その愛の大きさだけ頑張りますんで、どうです、今夜?」

 そんな事を言いながら、胸を腕に押し当てる様にして抱きついてくるウィンディーネ。

その流れで小さいのもくっついてくるんで、柔らかいやら冷たいやらで色々困る。

「で、こいつは何て言うんだ?」

 何とか話の流れを変えようと、尋ねる。と、ウィンディーネはそっぽを向き、空気の抜ける情けの無い音を鳴らす。口笛のつもりか、吹けないのかコイツ。

「無いのか、名前」

「いや~、それがですねぇ~……」

「うんでぃーねっ!」

 小さいのが名乗りを上げた。ってか同じかよ。

「ウンディーネちゃんか。お母さんはもっと真っ当な名前を付けてやるべきだったな」

 そう言い、ウィンディーネを見る。何故かは知らんがこの小さいのも同じ名前らしい。


「で、何でだ?」

「……『今の名前』がそこまで”堕ち”てるんですよね……」

「落ちる? どう言う事だ?」

「有悟さん、私たちの『真名』忘れてるじゃないですか?」

「覚えた覚えが無いがな」

「その所為でちょっと零落してまして、今私達って『妖精』なんですよねぇ……」

 なるほど、良くわからん。

「それってなんか困るのか?」

「まぁ日常生活なら何も、ちょっとリミッターが掛かってるだけですね」

「リミッターって言ったってお前等は何が出来るんだよ……」

 そう言い溜息を一つ着く。それを見たウィンディーネは俺の手からコップを奪う。

そう言えば、結局水も汲んでなかったし、止めても居ないな。

等と考えていると、彼女の持つコップを目掛け、水道の水が、宙を舞い、移動する。

「はぁ!?」

「まぁ、軽く水の操作とか……」

 天に向け、指をクルリと回すウィンディーネ。少しの間、その後ポタリポタリと水滴の音が、雨だ。――って洗濯物!?

 俺はすぐさまベランダに出る。しかし、ベランダは一切が濡れて居ない。

――家を囲むようにして、その外周のみに雨が降って居た。

「天候操作、とかが出来ますね♪」

「ははは……マジかよ」

 驚きを隠せない。人でない、それは何となく理解はしていたが、ここまでの事が出来るとは思っても居なかった。

「リミッターで本気が出せないって事か……」

「えぇ、本来の力の十分の一も出せないありさまで……」

 水を自由に操って、天気を変える――これで10%以下か。

「すげぇな」

 素直に言葉が出る。それ以外に言う事がわからない。

「そう思うんでしたら、もっと私に敬意を払っていただいても良いんですよ?

愛を込めて私を愛して頂いても良いんですよ?」

 胸を張り、ドヤと言う音が聞こえそうな程の素晴らしいどや顔を決めるウィンディーネ。なんか、そういう事言われるとほっときたくなるなぁ……。



「マジに放っておくって、どういう事ですか有悟さん!?」

 良くわからないから黙ってリビングに戻って居たが、どうやら帰って来たようだ。

10分か。思ったより早かったな。

「小腹がすいたなぁ……なんか喰う物無いかなぁ」

「どうも有悟さん私の扱い酷くないですか……」

「腹が減ってるからな、気が立ってるんだよ」

 ぼんやりと家の捜索を始めようかと思うと、ウィンディーネが言葉をかけてくる。

「あ、ならリンゴでも食べますか?」

 そう言い、リンゴを持ち可愛らしいポーズを決めるウィンディーネ。なんだ、どっかの雑誌の表紙か? あれはレモンだが……。

「リンゴか……じゃあ包丁でもだすかな」

「え? 要りませんけど……?」

 ウィンディーネが言う。俺は何を言っているのかと彼女を見るが、ニコニコとしている。

「どう斬るんだ?」

「こうやって、ですよ♪」

 リンゴを軽く投げる。すると、宙を舞うリンゴに亀裂が入る。ウィンディーネは、何時用意していたのか、皿でリンゴをキャッチする。と、その衝撃でリンゴが八つに割れた。

「リンゴの成分ってわかります?」

 そんな事を言いつつ彼女は芯を捨てる。俺は皿を受け取り、リビングの椅子に座る。

「水分が約85%、残りはまぁ、なんでも良いんですけどね……」

 そう言い、俺の対面に座るウィンディーネは、頬杖をつき、笑みを見せる。

「水を操るって、こう言う事です♪ どうですか、美味しいですか?」

「あぁ美味いよ」


 昔聞いた話だが――人間の体重のおよそ60%が水だと言う。


 あんまりコイツをおちょくりすぎないようにしよう。俺はそう誓った。



「しっかし、これもウィンディーネで、お前もウィンディーネ……か」

 最初に彼女が奇妙な能力で注いでくれたコップには、先の小さなウィンディーネが入って居た。どうやら居心地が良いらしい、御満悦だ。俺はその小さな頭を撫でてやる。すると、気持ちが良いのか、更に表情を緩くする。……ペットにしたいな。

「有悟さん! 有悟さん! 私も! 私も撫でて下さい!」

「――”ウィン”」

「え!?」

「名前がよ、コイツと同じじゃ色々と面倒だろ、だから”ウィン”。

ウィンディーネから取ってウィン。どうだろう?」

 そう言い、ながら俺は彼女の頭を撫でる。……決して後が怖そうだからではない。

「ウィン……ウィンですか……ウェヘッヘッヘ」

 とろんとその顔を緩める彼女。どうやら気に入ってくれたようだ。

「じゃあ、これから、お前さんはウィンだ。宜しくな」

「ええっ! 不束者ですがどうか宜しくお願いします!」

 そう言い、深々と頭を下げるウィン。俺はコイツが何かを勘違いしている様な気がしてならなかった。


 


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