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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
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第二十七話 ――全ての『始まり』――


「さて、これで話を聞く気になったであろう?」

 《ヴィズル》がその手に持った杖を地面に突き刺しながら、俺に言う。杖は機械音を立てながら、その形を変え、黄金に煌めく別の姿を映す。

「話、だって?」

 俺は答えるが、俺の言葉には興味が無いのだろう、彼女はその金色の何かに、抜きとった眼球を入れ込む――先の奇行はこの為か。

「貴様は、四つの『神格』の器として造られた、写し身。コピーだ」

 しゃがみこみ、俺の眼を見る《ヴィズル》。

「あの飛行機事故の瞬間、何があったか、教えてやろう――『全て』を」

 彼女の眼球に光り輝く文字が浮かぶ。


 俺はその光に飲まれ、そして、全てを知る為の『夢』を見た。あの時の真実を知る為に。




――楽しい旅行になるはずだった。


 七月三十日。

 荷物は昨日の晩に確認した。チケット、良し。携帯、良し。財布、ハンカチ、塵紙。オールオッケー!

 俺はそれなりに温かく、それなりに涼しい格好に身を包むと、動き安い靴を選び、荷を背負い、立ちあがる。今日は楽しみにしていた海外旅行だ! 俺は喜び勇んで扉に手をかけ――


「あれ、兄貴何処か行くの?」

「……ちょっと、ね」

――妹に見つかった。

 親から旅行についてリズには教えるな、そう言われて居た為こう逃げるしかなかった。

(真逆、見つかるとは思わなかった……てか今何時だと思ってんだよ!? 朝の四時だぞ、お前!? 寝てろよ!?)

「ふぅ~ん、何処?」

「いや、あの、ちょっと……」

「ちょっと?」

 り、リズさん怖いんですけど!?

「こ、コンビニ……」

「……そんな重装備で? リズの知ってるコンビニとは違うみたいだね」

「べ、別に面白い所じゃないぞ?」

「へー……」

「……じゃ、ちょっと行って来る!!」

 これ以上詮索されてボロが出ないうちに行ってしまおう! 俺は逃げる様にして、扉を開き――

「リズもついてこーっと!」

――結果、妹に捕まった。




「いや、はい、旅行に行くんですよ、海外旅行」

 無理矢理付いてくる妹に事情を説明する。今、俺と彼女は電車に乗って居る。この時間帯であればあまり人も居ない。ほぼ貸し切り状態で話をする。

 とりあえず空港までは仕方ない。行きだ帰りだの金を握らせれば問題は無いだろう。それに言ってしまったが、怒られるのは帰って来てからだ。見つかってしまった以上は仕方の無い事。

(連れて行くのと比べればな……)

「で、そこまでは付いて来れないだろう? だから、な」

「へー、そうなんだ」

 よくよく見ればコイツもあの時間帯でちゃんと服着替えてんのな……。キャミソールにホットパンツ。金のツインテールもきちっと結わかれている。

「で、何処行くの?」

「……秘密」

 行先は余り言いたくない。と言うか、理由を聞かれたくないのだ。

 そんな事を考えて居ると、リズが俯きがちに小さく呟く。

「……行先はアイスランド」

――なん、だと……? そんな事俺は説明して居ないぞ!?

 驚きを隠せず、リズに訊く。

「何故……それを?」

「理由は、北欧神話の聖地だから」

 更に、ドン! リズは説明したくなかった理由の一端を知って居る!?

「どう言う事だ!? リズ!?」

 俺の言葉を受け、リズは懐から一冊の本を取り出す。革製のカバーが付けられた小さな手帳の様なソレ。良く見なければわからないが、その表紙には文字が書かれている。その名も――

「――『The Edda of a dawning era』、新時代のエッダって所かな?」

「な、なんで、お前が……」

 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。今、俺は恐れて居る――その可能性を。


「兄貴さぁ、これ酷いと思うよ。Eddaって古ノルド語でしょ? でもその周りは英語、それも適当な翻訳サイト使ったでしょ~。更に中身はミミズののたまわるような日本語とこの絵!」

「やめろ! やめてくれ!!」

「中身朗読しちゃおうか? 何処が良いかなぁ、途中で突然出て来たオリジナル小説の所? それとも設定集イっちゃう? 必殺技集とか良いねぇ!」

「マジで辞めて下さいリズさまぁあああああ!!!!!」

 それ俺のノートぉおおおおおお!!!!


「な、何でお前がそれを!? だってそれ――」

「机の一番下、三桁のロック付きの所だよね、暗証番号は666。ふざけ過ぎでしょう……。それに三桁だよ? 別に千通りなら直ぐ出るよ」

 溜息を付きながら、リズが言う。

「お、お願いします……他の人には……」

「じゃあ、どうすればいいか、わかるよね?」

 とは言え、海外に行くのを辞めろと言われても困るしなぁ……。そんな風に悩んでいると、彼女の手には一枚のチケットが。

「じゃあ兄貴、一緒に行こうか?」

――飛行機のチケット。それも、俺の、隣の席。



 電車は問題無く目的の駅まで付き、ここは空港。

「さて、ちょっと付いて来て?」

 リズはそう言い、コインロッカーに俺を連れて行く。何事かと思うと、幾つかの鍵を取り出し、ロッカーを開く。そして出るわ出るわ、彼女の私物。

「どう言う事、コレ?」

「ちょっと前から準備してたんだ、こうやって何時旅行に行っても良い様に」

 いや、そんな場面普通ないって。やっぱコイツ出来が良いんだろうな、なんか間違えてるけど。てか、もしかして俺、監視されてた? 嫌な予感が俺を襲う。



 と、ぐ~と鳴る腹。

「リズじゃないよ」

「いや、でも俺じゃないし……」

「兄貴でしょ! 絶対にそう!」

 強く言うリズ。しかしそうか、朝飯食って無いな。そう考えると俺も腹が減って来た。

「どっかで食ってこう」

「そうしよっか」

 リズは荷物を纏めると頷く。あれ、今俺のバックの中から自分のバック出したよなコイツ。おかしくね?

「何食べる? 空港の食事ってちょっと高くつくんじゃない?」

「嫌な事言うなよ、まぁ出発前だ、軽めで良いだろ、軽めで」

 そう言うと、俺とリズは空港の中をさまよった。案外、二人での旅ってのも悪くないかもしれない。少しだけ、そう思った。




「『兄貴』、まだ目覚めて無いのか……」

 リズは全てを見下ろしながら呟いた。《ヴィズル》の瞳、そのルーンが有悟の記憶を無理矢理呼び起こしている。そうわかって居ながら動けなかった。

「不可能じゃない、今有悟を出し抜いて、『兄貴』を救う事は可能」

 でも、小さく彼女は続ける。

「それは、『無理』」

 今、これを、真実を告げる事、それを止める事は出来ない。


「全ては、『兄貴』が『目覚める』為に……」

 リズは苦虫を噛み潰した様な表情で言った。


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