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第二十六話 ――『有悟』の勝利――

「『フロールリジ』、『ロプト』。時間を稼げ、三十秒も稼げば終わるであろう」

 《ヴィズル》と呼ばれた銀髪の少女が言う。ハキハキとしたその口調、威厳あるその声、恐らくは三柱の中でも彼女が中心的立ち位置(Top)なのだろう。

「ゎ……、わかりました……」

 小さく消え入りそうな声色で答える赤髪の少女。

「だったら『フロールリジ』を起こす事ね! どうなっても知らないわよ!」

 そう叫ぶ美女。恐らくは《ロプト》。叫び声に合わせ、彼女の影から三つの『何か』が飛び出す!


 《災い振り撒く狼(ヴァナルガンド)》、《その身で海を覆う蛇(ミドガルズオルム)》、そして《地獄を冠す女神(ヘル)》。

 それぞれが大いなる『神格』であり、邪悪な『怪物』だ。

(――だが、本物(オリジナル)では無い?)

 直感だが、そう間違っても居ないだろう。何せそれら三体に意思は見えない。

「――ウィン! 『蛇』で、どちらかをッ! そのまま《ロプト》ごと!」

「はい! お任せ下さい♪」

 俺は彼女に指示を出し、残りの三人と共に、敵に向かう。

 その『手』で恐らくは獣ごと抑えられる、問題は《フロールリジ》……。そんな事を考えている内に、シィールが団体から抜ける――やはり、こうぶつけるしかないか……。

(――サラ、ノゥ。俺達は本人を直接叩く。相手方の残った『手』は《ヴィズル》だけだ、対応できる方が時間を稼ぎ、残った方で決めるぞ!)

 『霊的な繋がり』(パス)を通じ、二人に伝える。


――そう、『手』はこうだ。数で勝る此方側が、一対一で時間と距離を稼ぎつつ、本体を叩く。単純明快だ。


(確かに、卑怯かもしれないが、先ずは勝たなきゃならん)

 何より――恐ろしい。《フロールリジ》は《ジュピター》と同質にして同等の『神格』だ――そして、それを超えるであろう《ヴィズル》。

 『神の格』が一つ違う、それだけで数は意味を成さない。


(こちら四人の『格』はほぼ同等。本調子でない内に《ヴィズル》を潰す)


 相手方の三柱の動きを確認する。

 《ロプト》は先の三柱を呼び出した後、蛇を奪われ、蛇と《八岐大蛇》によって押されている。どうやらあの蛇は【アタリ】だったようだな。

 《フロールリジ》はおろおろと怯えながら、《ジュピター》に狙われている。寸の所での回避、返しの一撃(カウンター)を見るに、やる気は無い様だが、パワーは間違い無くジュピター越え(高い)


――そして本命ヴィズルは、『有悟』の眼帯を外し、隠れて居た眼球に小さく口付けをしている。何のつもりだ!?


 兎も角、奴等が射程に入った。《キュベレー》より生み出された『不死身の巨人』(アンタイオス)と共に、燃える長髪を揺らし《バステト》が飛び掛かる!

「必殺、一撃で……決める」

「喰らえー!!」

 人間に対応できる速度では無い――勝った!


 だが、俺のそんな確信は一瞬で覆される。


 『不死身の巨人』と《バステト》が、宙に浮かぶ光の壁にその動きを抑えられる。その光は何かの文字の様にも見えた。

「――何!?」

「邪魔をするなよ。愛の語らいに横槍を入れられ、喜ぶ者が何処に居ようか?」

 《ヴィズル》の『力』か。彼女はそう言いながら、舌を『眼孔』に『突き入れる』。

 うげぇ……。同じ顔の奴があんな目にあって居るのだ、自分の眼が痛くなって来た。

「眼に舌入れらて喜ぶ奴も居ねぇと思うがな!」

 叫びながら、俺とノゥは近付く。確かに強固な壁だ――が、《バステト》を防げるのは精々一度!

 《バステト》と《キュベレー》の合わせ技で……。


 そんな事を考える間もなく、俺達は地面に叩き付けられていた。


 理由も、意味もわからない。だが、完全に俺達は今相手の『手』の内に居る。立ちあがろうとするが、指の一本も動かせない。何とか動く視線で確認すると、どうやら彼女達も同じようだ。動こうとは思うが、動かないと言うその事実に驚きが隠せていない。


「余り、《ヴィズル》の邪魔をするな。面倒になる」

 溜息を付きながら、『有悟』が呟く。丁度その時、少女の舌が彼の眼球を抉り出した。

「面倒とはなんだ、『大切な二人の時間』を邪魔されれば誰でもこうなるであろう?」

 《ヴィズル》は眼球を手に取りながら、不機嫌そうに言葉を返す。

――完全に馬鹿にされている。圧倒的優位から来る精神的余裕。元々気の強そうな『神格』ではあるが、つまりはそう言う事だ。


「汚らしい『羽虫』が群がるようなら、皆怒るであろう?」

 笑う様な《ヴィズル》のその一言。

「しかし、時間稼ぎも必要無かったかもしれんな」

 『有悟』が小さく呟く。眼を抉り出された事に対する怨み言か。等と考えて居ると、『経路』(パス)を通じて、他の二人の状態が伝えられる。


 どちらも地に伏し、動けない――負けたのだ。


「アル、戦うなら戦うで先に『フロールリジ』を起こしてよ、大変だったのよ?」

「『ロプト』ならやってくれと信じて居たからな」

「口だけは達者なんだから……」

 そう言い、『ロプト』は溜息を吐く。その手には十字架を象ったペンダントがあった。

――アル?


「アルゴ、終わったぞ。真逆オレ自身と戦うとは……」

「『フロールリジ』、ありがとう。戦ってみてどうだった?」

「オレに勝つには少し惜しいな、見た目は奴の方が美しかったがな」

 そう言い、『フロールリジ』は腕を組み、ガハハハと笑う。性格が違うな、先と。

 そして、気が付く。『アルゴ』、アイツの名前、俺とは『違う』その名。


「『ロプト』、まだ『十字架』は返すでないぞ。『フロールリジ』、気を抜くな」

 『ヴィズル』が二人に言葉を告げる。『ロプト』は嫌そうに、『フロールリジ』は素直にそれを聞いて居る。


――気を抜くな、か。笑いが漏れそうになる。気を付けようが、俺達に出来る事なんてもう何も無いのにな。

 


 完全な敗北だ。



 奥の手も無い、全力を尽くし、そして、遊ばれて、負けた。


 俺達の、俺の、負けだ。



「さて、『槍』を使う。この『有悟』(ユウゴ)は完全に消し去らねばならぬのでな」

 《ヴィズル》の死刑宣告が木霊した。


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