第二十五話 ――二人の『有悟』――
「わかった、か。まぁそこまで『ズレ』ては居ないと言う事だな……」
そう言いながら、眼帯を抑える有悟。俺はその男に意識を集中し、向き合う。
「『ズレ』? 何を言ってるんだ?」
言葉を返し、一瞬でも良い、反応を求める。男は、手を下し、口を開く。
「あぁ。『ズレ』、だ」
説明してくれるのだろう。俺は、自分と同じ顔の表情を読みながらも、『経路』を確認する――問題無し、四人との契約がなされている。
(予想通り。一人でも『真名』を解放すれば、全員とのパスが繋がる……)
四柱の力を借りれるなら、『手』は有るだろう。各々が、各属性の上位神。
「貴様と私、同質にして、異なる存在だと言う事は理解出来るか?」
「嫌と言うほど、な」
俺はその言葉に頷きつつ、彼の後ろを確認する。
一柱、ハッとするほどの美貌を持った少女だった。
身体の作りはノゥやサラと変わらないが、銀の長髪をし、《有悟》とお揃いの眼帯をした色白の少女だ。女神である、そうとしか思えないほど美しい彼女。
ちらりと覗くその眼は、知的な光を湛え、黒いローブを身に纏い、つばの広いとんがり帽を被って居る。その姿はまるで魔法使いだ。手に持った大きな杖もその考えに至った理由の一つ。
(パワーは、無い。何となくだがそんな気がする……魔法使いタイプって感じか?)
一柱、小さく影の薄い消え入りそうな少女だった。
背丈が小さい訳ではない、縮こまって居ると言うのが正しいのだろう、目立たぬように振る舞って居るのだろう。赤いごわごわとした長髪で、その目元が隠れている。
純白のドレスを纏い、びくびくと震えるその様は、弱々しいものだ。が、手に持った巨大な鉄槌がその非力であると言うイメージを打ち砕く。
(……パワータイプ。それも酷く覚えがある……シィールで等価か?)
一柱、眼を引く造り物かと見紛う美貌の美女だった。
恐怖すら感じる、その体型、見た目、全てが全て男の考える妄想の様な出来だ。闇色の長髪に、豊満な胸。何処か熱っぽい視線に少しドキっとする。
偏光性があるのだろう、光の具合により変わるボディラインがくっきりと出るドレスを身に纏う彼女は、偽物の顔で笑顔を作って居る。
(わからん。ってか俺には眼の毒だぜ、まったく)
(何さ! デレデレしてッ!! ユーゴのバーカ!!)
大きな声だ、怒りにまかせたと言った所か。ってか頭が痛い、やめろサラ。
(あらあら、ああ言うのがお好きですか? へぇ……)
内容としてはさし障りの無い感じだ。だけど、ちょっと怒ってませんシィールさん?
(……激怒、有悟は覚えておくように)
感情の抑えられた声が聞こえる。……全然怒りは抑えられてないぞノゥ?
(有悟さん!! 何ですか! 鼻の下伸ばして!! 私と言うものがありながら!!)
非難する様な声色。いや、私と言うものって、ウィンと俺はそんな関係じゃねーだろ。
と、まぁ各々からの反応も貰いましたっと――どうやらやる気は十分なようだ。
「――つまり、私と、貴様。最後に立つのは一人、そう言えば話は早いだろう?」
「あ、悪い話聞いてなかったわ。何? 倒せば終わり?」
――ならば、話は早い。
五人分の思考速度で試す。
一体一を基本に不足分を一人足す? ――恐らくは対応してくるだろう。
一体四で潰して行く? ――それこそ相手だって考えないわけ無い。
そうではなく、上手く組み合わせる? ――どうやって?
悪い方向に思考が進む。汚い手だが、物部をノす程の敵だ。遠慮はいるまい。
「倒せばいいんだろう? 楽な話じゃねぇか」
俺の身体から三色の粒子が放たれる。そして、それぞれ一つ形を作り出す――ウィン、ノゥ、シィール、先から居るサラを足して、これで四柱。
「はたして、出来るかな?」
そう言い、男の後ろ、三柱も構える。
「出来る、出来ないじゃねぇよ。『やるしかない』んだ!!」
大きく息を吸う。
――『 代償、『神』の力は人の身を超えた力……扱うのにはそれなりの対価が必要』
嫌な事を不意に思いだす。
(だが、『やるしかない』。そうだろう?)
叫ぶ。
「『八岐大蛇』、『キュベレー』、『ジュピター』、『バステト』ッ!!」
――そうして、力の奔流が空を、大地を、世界を揺らす。
蒼髪蒼眼、六つの龍頭。
銀髪金眼、黄金の衛星。
金髪緑眼、十字の鉄槌。
緋髪緋眼、燃える長髪。
「――さて、始めるか?」
こちらの準備は完了。それを見た『有悟』は、静かに呟く。
「『ヴィズル』、『フロールリジ』、『ロプト』。始めよう」
こちらの様に大きく見た目が変わる、と言う事は無い様で、存在感だけを増した三柱がスッと前に出る。
さて、戦いの始まりだ。




