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第二十四話 ――彼女の『名』――火の神

 燃え盛る灼熱色のその髪、()を燈したその瞳は囂々と煌めく。

「……悪いな、全力で頼むぜ」

 その長髪、焔と化し全てを溶かす。返り血色の(スカーレット)ドレスを纏い、その手には(アイギス)【震わす】(シストルム)。小さな火を伴うその姿、触れる者皆必滅必死――死その物だ。


「うんっ! 良いよっ! でも――」

 サラは太陽の様な笑みを浮かべる。屈託の無い、何処までも真っすぐな光だ。

「……名前、もう一度呼んで?」



――神が怒り、燃え盛る長髪、血色のドレス。死と暴力を持って、命を運ぶ。

「復讐神にして、守護神。守護神にして、破壊神。汝の名は」





「――『バステト』」




「そうっ! 『バステト』ッ! 我は貴方を守り、貴方に仇名す者を殺す者なりっ!」

 そうして、彼女の頭の上、獣耳がピクリと嬉しそうに揺れた。

「だが……猫耳かぁ。犬だと思ってたぜ」

「へ、変態っ!!」

 そうして頭を隠す彼女。

「んぅ……さ、触っちゃ駄目だからねっ!?」


「『死』ネ『死』ネ『死』ネヨヤァ!!」

 《須佐之男》だった何かが叫びを上げる。顔の有った部分から伸びる黒い『手』。体中から伸びるその手が姿を書き変える。彼の者より伸びる腕が天を包み、夜を生みだす。小さく残された太陽は、黄色い光を放ち月を模す。

「YeowwwwwwwwwwwwwwwHa-ha-ha!!!」



「サラ、軽くなんて言うつもりは無い。ブッ潰せ」

「良いんだよねっ? 本気でやっちゃって?」

 サラ、いや《バステト》は笑う。髪は更に激しく燃えさかり、もう一つの太陽の様に辺りを強く照らす。

――瞬間、燃え盛る大地。天を覆うその腕にも火が燈る。

「止してくれ、僕まで巻き込むのは……」

 物部が呟く。

 両の手に刀――《天叢雲剣》と《天羽々斬》を持ち、その左腕は銀色のガントレットに覆われている。彼の身体を守る様に無数の刃が宙を舞う。身体の節々からは無数の骨が武器の様に飛び出し、その胸には奇妙な時計が飾られる。

「完全装備って所か?」

「咄嗟でね、まだ全ての娘が全力では無いが、生き残るには十分な力だ」

 物部にも伸びる『手』が、宙を舞う無数の刃に斬り落とされる。

「お前も一緒に相手してやらねぇと駄目か……」

「別に行けるよ?」

 そう言い首を傾げるサラ。だが、何となく俺にはわかる――物部の答えが。


「悪いが、何かに『当てられ』たようでね。彼を倒してくれ……倒せるならね」

「軽く言ってくれるな、お前もサラも」

「それだけの力はあるだろう? 自分の身は自分で守る。好きにやってくれ」

 それだけを言うと、物部の姿が消える。アレも何か武器の力か。


「さーって! 良いよね? 本気でやって!」

「あぁ、やってやろう。『遊んで』貰おうじゃねぇか《須佐之男》ちゃんには」

 そう言い、俺とサラは『手』の塊に向かう。燃え盛る大地、影の様に横たわるその手々はサラの放つ焔に焼かれ――燃えるその身体を引きずり出し、大地に立った。

 長身痩躯の黒人に、物理学者の様な服装をした男、膨れ上がったデブ女にフードを纏う怪しい影、何処にでも居そうなサラリーマン。無数の何かが混沌と大地を見たし、焔に焼かれ、また新たな姿が大地を満たす。

「無駄だ。幾ら数が有ろうと、『人を殺す』為に生れた神が『人に負ける』事は無い」

 俺達は死体を踏みしめ、敵へ向かう。どうやら、自らの手でしか勝ちえぬと気が付いたか、《須佐之男》だったソレは三本の脚を持って、燃える三眼を揺らし此方へと向かって来る。

 一歩、また一歩。そうして互いの距離がほんの一歩先まで近づいた。

「Guuuuuu……」

「サラ、頼んだ」

「うんっ! 任せてっ!!」

 そう言い、一歩踏み込み、その拳を何かに叩き付けるサラ。空は裂け、音は届かず、光すらも及ばぬ速さ。回避は不可能なその一撃は、崩壊星(コラプサー)より重たく、ヴォーパルよりも遥かに鋭い。

 ただ一つのパンチ。体重すら完全に乗せられていない稚拙なパンチ。無駄の多いテレフォンパンチ。それだけで、《須佐之男》だったその神性の身体は消し飛んだ。


 これが《バステト》――いや、その元となった神性セクメトの力だ。

 理由や理論は無く、異能や異常に関わらず、ただ単純な【強さ】。唯々強いその単純明快さが彼女の能力にして強さだ。


「お前とは絶対に殴り合いもキャッチボールもしないからな」

「えっ!? 何で!?」

 死にたくないからだよ、俺はその言葉を飲み込み、辺りを見渡す。消し飛んだとは言え、未だに生きているらしい奴。影響は未だ残り辺りは闇に覆われている。

「サラ、やってくれ」

「えっ……やらないと、駄目?」

「……頼む」

 俺が必死に懇願すると、サラは嫌々と言った調子で大きく息を吸い――強くその息を吐き出した。


 世界が侵され、犯され、冒される。死と言う概念に全ての概念が浸食され、時間が止まり、因果が崩壊、空間は消え去り、世界は終わりを迎えた。



「これ息が臭いから逃げられてるみたいであんまりやりたくないのに……」

「あー、なんだ……俺は好きだぜ? 死なないし」

 先の一息で、全て吹き飛び、俺達は元の場所に戻って居た。すでに《須佐之男》の姿も、物部の姿も、それどころか神社の影も形も無い。




「サラ、助かった、ありがとう」

「……むぅーっ! ユーゴも喰らえ! 直で吸えーっ!!」


 そうして俺の頭を押さえ、鼻を噛もうとするサラ。猫耳も消え、何時もと同じく動きの安そうなホットパンツを穿いて居る。いつの間にか、『サラマンダー』に戻ったようだ。



「やめろ! 近い! 顔が近い!」

「そんな風に言って! ボク傷ついた!!」


 そんな風にじゃれ合う俺達。





「――良い御身分だな、有悟」

 その言葉に俺達は止められた。


「……なんだよ、お前」

 俺の前に立つ男。その手には、ぼろぼろになった物部を掴み、彼を守る様に三人――いや、三柱の女神が。

「何で、……お前が物部を掴んでいる?」

 男の服装、俺の通って居た中学の制服を着崩し、その左目は眼帯に隠されて居る。

「何で、その制服を? そして――」


 そしてその顔は――


「――ユーゴ?」

「何で俺と同じ顔をしているんだテメェは!!!!」


 その顔は俺と同じ、穂村 有悟の物だった。

「『神の怒り』かぁ」

 何とか残った鳥居に座るリズは、小さく呟いた。

「これで有悟は目覚める……でも問題が有るね」

 そう言い、尋ねるリズ。

「リズ、あの女装男に殺されちゃったんだ。シクシク、化けて出てやるー!」

「リズはロゼちゃんに封印処理されちゃったー辛いよー!」

 リズの前には『二人』のリズが居た。彼女達はリズであって、リズでは無い。時空間を操るとは、即ちこう言う事だ。

「で、リズはこれからどうしようか?」

「『兄貴』と『兄貴』が会っちゃったもんね」

「想定ではまだ先の話だったんだけどね」

 そう言い、三者三様思い付くまま考えていますのフリ(ポーズ)

「逃げよっか?」

「まぁ、仕方ないよね」

「じゃあ、解散で」

 そう言い、三人のリズは消え去った。


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