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第十九話 ――変わる『日常』――サラマンダーとの場合


 俺は手に持ったその円盤を勢いよく投げ飛ばした。


「楽しいねっ! 楽しいねっ!」

 そう言い、本心から楽しそうにするサラマンダー。彼女は俺の投げた円盤をキャッチすると、俺の元に駆け寄り、俺にそれを渡す。少々の罪悪感を感じつつも、俺は少し落ち着いた気持ちになる。あぁ、まるでペットの犬のようだ。

「……良かったな」

 尻尾が生えていれば、今頃千切れそうな程振って居るのだろう。俺は嬉しそうな彼女の頭を撫でながら考える。――さて、この荒野の様な町をどう歩むか。


 この状況――今のところはヘリも何も居ないが、上空からはすぐに俺がわかる。それにこの先で何者か、敵が待ち構えていないとも限らない。進むも地獄、進まぬも地獄。さらに言えばこの状況を作ったのは俺で、誰にも文句が言えないのだ。


「さて、次はどうするかな……」

「ボクねっ、キャッチボールしたいっ!」

 そうか、キャッチボールか。ボールなんかねぇよ……フリスビー代わりのコレだってマンホールの蓋から作らせた物だぞ。刃物みたいで危なっかしいのに、砲丸みたいなものでキャッチボールなんて危険過ぎて出来るかよ。

「そうだなボールが有ったらな」

「作ろうか?」

「……それボールじゃなくて鉄球だの砲丸だの言う物でな、キャッチボールには向いてないんだよ」

 俺は何とか鉄を集める彼女を止める。『火』の属性を持つ彼女は、本調子で(真名解放をしてい)ないと言うのに鉄を溶かし、新たな造形へ変えるだけの事は出来る様で。

「わかった! じゃあボールを探そっ!」

 そう言い、更地になった家々の後を探すサラマンダー。



「どうだ? あったか?」

「んーん、無かった」

「ないー」

 そう言い、何処か飽きた様子で足をぷらぷらとさせる彼女。なんとか残った塀に腰掛けている。その隣には小さな『サラマンダー』が。俺はその隣に座ると一つ溜息を吐いた。

「やっぱ何も無いか……」

「うん、凄いね。ユーゴもシルフも」

 そう言い、周りを見渡すサラマンダー。確かにこの威力は恐れ入る。だが、彼女の物言いが一つ気になり、尋ねる。

「――凄い? シルフならわかるが俺もか?」

「うん、シルフもノームもウィンディーネも凄いよ、そんな皆が認めてて、力を貸そうって思えるだけの人なんだよユーゴは。それって凄い事でしょう?」

「……そうか」

――ヒモ。嫌な単語が脳裏に浮かぶが俺は必死にそれを打ち消す。横に座る同じくしょぼくれた表情を作る妖精を軽く撫でながら俺は言葉を紡ぐ。

「だがな、サラマンダー、お前さんだって凄いだろう? 俺には火を使う事は出来ないし、そんな元気も明るさも無い」

「そうかな……」

 何時もの元気さは何処へやら、何処か沈んだ様子の彼女。俺は彼女の頭を撫でる。

「ふぇっ?」

「偉い偉い、偉いよお前さんは」

 赤いその髪に、軽く手櫛を入れる。そうして優しく、ゆっくりと撫でる。

「他人の良い所を認められる、自分を高く評価しない、そして嫉まない」

 一つ言うたび、手に力を込める。彼女は身体を揺らしながら俺の手を受け入れる。

「だが、悪い点もある。一つは自分を認めない事、自分を低く評価する事、そしてそうやって諦める事」

 塀から降りると、俺はサラマンダーと向き合う。

「俺は、お前たちのお陰で此処に居るんだ。俺一人じゃ無理だったろうな、他の三人とだって不可能だ。そんなお前がそうして小さくなってちゃ駄目だろう?」

 そう言い、俺は彼女に手を差し伸べる。

「さて、行こう」

「うんっ!」

 そう言い飛びついてくるサラマンダー。俺は彼女を抱き止め、その頭を撫でた。


「”サラ”、サラでどうだ?」

「サラ?」

「おう、お前の名前だ。そっちのが呼びやすいんでな」

「わかった! サラ、ボクはサラだねっ!」

「よしよし、サラ。じゃあ離れてくれ、進めないだろう?」

「やだっ!」

 そう言い、また強く俺に抱きつくサラ。その温かさ、柔らかさが押しつけられる。そして何処か甘酸っぱい彼女の匂い。

(ちょっと……不味いかもしれない)

 大丈夫だと思ったあの時の自分を責めたくなってきた。


 だが、嬉しそうに笑うサラの顔を見ると、こう言うのも悪くない。そんな風に思えた。


……けっして変な意味では無い。ほんとうだ。

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