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第一話 ――今の『名』――

 俺が目覚めたのは八月の初めだった。



 ベッドで横になった状態で見えるカレンダー、八月の三日まで×が付けられて居たのでそんな事に気が付いた。清潔感のある部屋、自分の物では無い。

 自分の周りを、四人の美女がずらりと囲んでいることにも気が付いた。

 見ず知らずの天井に、見知らぬ美女四人。なかなか自らの置かれた状況が理解しがたい。


「ここ何処だよ……」

 身体を起こそうと力を入れるが、上手く起き上れず、ベッドに倒れこんでしまう俺。

――奇妙な違和感があった。

「あぁ、だめですよ、そんな無理しちゃ! アナタ一人の身体では無いんですから」

 オヨヨヨヨと、芝居がかった調子で蒼髪の少女が俺の身体を優しく起こす。

「おはようございます、アナタ♪」

 にっこりと、花の咲くように笑う少女。その貌にドキリと胸が跳ねる。

「あ、アンタは……?」

 どうにも記憶に靄がかかったような、ぼんやりとした感覚だが、俺は彼女を知っている気がした。

 周りを見渡せば、他の三人も自分は知っている、そんな気がする。



「むぅぅ……」

 妙に怒りの籠った唸り声が近くから聞こえた。恐る恐るとその声の主を見れば、

先ほどの青髪の少女だ。

「な、何か俺悪い事した……しましたか?」

 つい下手に出てしまったが、それだけ妙な恐怖を感じる。――と言うか痛い!

さっきから握られている腕に掛かる力が上がってる! 指の先変な色になってない!?

「二つ。二つ良くない事が有りました」

「な、何でしょう」

「一つ、アンタと呼ばれた事」

「はぁ?」

――名前も知らない、初対面で何と呼べと?

「本妻(私)としては、名前かオマエ、あっ! ママとか呼ばれるのも良いですね、

私尽しますし、裏切りませんので良妻賢母、良いお母さんになりますよ?

あっ! でも有悟さんがマザコンだと仰るなら、私が母親代わりになっても……キャーキャー!!」

 両頬を押さえ、少し赤みがかった顔を左右に勢いよく振るう彼女。

言葉は一切止まる様子も無く、有悟さんが望むなら~等と妙な事を口走りながらヒートアップを続ける。

「なぁ、コイツ何時もこんな調子なの?」

 言葉も通じそうに無い為、他の三人に言葉を向ける。



「あら~、何時もはもっとシャンとしてるんですけどねぇ~」

 首を傾げながら、妙にゆっくりと緑髪の女性が言う。と言うか、首を傾げて、

手を顔の近くに持ち上げただけでそんなに胸って揺れるんですか……?

 てか眼のやり所にこま……? 何処かで前にもこんな事を考えた様な気がしてくる。

「ってか、何だよその服、布巻いてるだけじゃ!?」

 しかも薄い。止めてる箇所も妙に少なく、どうもちらりちらりと見えてしまう感じから、

風が吹いたら大変な事になると言う確信が有る、てか大変な事になる。賭けても良い。

「あらあら? 私は気にしませんよ~?」

「俺は気になるんだよ!?」

 こう言うと変態の様だが仕方あるまい、どうしたってこれは目に毒だ。

「あらあら~」

 と、そんな言葉を聞いているのか、聞いていないのか先よりもニコニコと笑いを浮かべ、近付く彼女。

甘く爽やかな香りが鼻腔を擽る。軽く抱きしめられるような形になり、柔らかく大きなソレが胸元で形を変える。

「ユウちゃん……直接、見ます?」

 耳元で小さく呟く彼女。すぐさまにでも「はい」と言いたくなるが、グッと堪える。

直ぐ素直に「はい」と言うと問題が起こると、本能が告げている。

「い、いいです! 遠慮しときます!」

 顔が赤くなっているのがわかる。かなり恥しいがこれ以上そう言う流れはよろしくない。



 どうにかして彼女を退かそうと、必死に考えて居ると、間に小さな影が割り込み、俺と共にベッドに倒れこむ。

「はぁ!? 今度は何だよ!?」

「……嫉妬、平等な対応を要求する」

 むすーっとした表情で銀髪の少女が俺の上にのしかかってくる。

先までの女性とは違った甘ったるい匂いが理性を責める。いや、ロリコン趣味は無いけどさ。

「……つまり、どうしろと?」

 出来る限り平静を装いつつ尋ねる。

「総轄、……わたしもかまえー」

 そう言い、ぼふぼふと軽く胸板を叩いてくる。大分余って居る袖が他所に当って少々痛い。が、そうやって身体動かすと、こう直接さぁ! 重力でさぁ!

「わかった、わかった、構う構う」

「不服、私は有悟にもっと大人な対応を求める……」

 そう言い、更にむくれる少女。顔色が大きくは変わっては居ないが、どうにもわかる。

「んな事言われてもなぁ……」

「提起、……男女、ベッド、”女性が上”、何をするべきか? ぷりーずあんさー……」

 そんな表情を変えずに、そんな事を言う彼女。……ちょっと待て、何で脚のそんな所に

下着が掛かってんだよ。

 彼女は俺のそんな疑問も知らん顔で、ぺろりと唇を舐める。そうして気が付く。

――あ、俺が喰われる側なのか。

「約束、痛くしない、安心……して?」



「きゃんっ!?」

 そんな妙な声を上げながら、深く船を漕ぎ過ぎたのか、目覚める赤髪の少女。

「あれっ!? ユーゴ起きたのっ!? わーーいっ!!」

 辺りを見渡し、俺の顔を確認すると、その表情がぱぁっと笑顔に変わり、飛びついてくる。

そんな彼女の行動に気が付いたのか、先ほどの銀髪の少女は退避していた。

「ごぉふぅ!?」

 だから彼女のタックルがかなり深く入った。結構痛い。と言うか何故頭から勢いよく来るんだ。

「うぅうっ! 本当に良かったねっ! ねっ! ねっ! 遊ぼっ! 遊ぼっ!」

 叫ぶように言葉を発しながら、俺の胸板に頭と身体をなすりつけてくる赤髪の少女。

匂いは甘く、妙に体温は高い。可愛らしい顔立ち、ニコニコとその小さな身体を擦り付けてくる。

「ちょっと今は無理かな……」

「えっ!? そう……だよね、起きたばっかだもんね。しょうがないよね……くぅん……」

 まるで犬だ。それも飼い主が好きで好きで堪らないタイプの。と言うか罪悪感が酷い。

「わかった、わかった、明日な、明日遊ぼう、な?」

「っ! わかった! 明日ねっ! 明日っ! ボクねっ! ボクねっ! ボールをねっ!」

 また花の咲いた様な明るい笑顔で話を続ける彼女。まるで子犬の様だ。可愛らしい。

ただそうやって身体を擦り付けるのだけは辞めて欲しい。言うとしょげるだろうから言わないが。


「っと! 言う訳で有悟さん! 私をママと呼んで下さい!」

「あ、そっち話終わったか」

 話は終わり、結論を言った。そんな表情を作る蒼髪の少女を見る。

「そして二つ目はですね! 本妻たる私を放っておいて他の女といちゃいちゃと……、

鼻の下までずいぶんと伸ばしちゃって……。お天道様が許してもこの私は……」

「なぁ、オマエさん、名前は何だ?」

 名前がわからない以上どうしたって困る。何か意味のわからないことを喚き散らしていたが、

恐らくこの手の奴はこっちも自分勝手に話すしかないだろう。そう判断しての行動だ。


「えっ? 『名前』ですか?」

 そうして俺の質問を訊き返す彼女。はて? 意味のわからない事でも言っただろうか?

「質問、……私たちの『真名』を覚えては居ない?」

「はぁ? マナ?」

「あらら~、忘れてるのかしら?」

「ええっ!? じゃあ契約ってどうなっちゃうのっ!?」

 そう言いながら、俺の右腕を無理矢理引っ張る赤髪の少女。

――そうして、見た。己の右腕に赤い幾何学模様が刻まれているのを。

「……何だよ、コレ?」

 そうして、好き好きに俺の身体を引っ張って行く他の女達。

蒼髪が左腕、銀髪が左足、緑髪が右足と。それぞれ服を脱がされる様な形で、晒された自分の身体には彼女たちの髪色と同じ色調で同じような幾何学模様が刻まれていた。


「……契約は成立しているようですねぇ……つまり不要であるからこそ忘れて居る?」

 蒼髪が呟く。まるで意味がわからないが、とりあえずは無視する。

「もう良いだろ、手放してくれよ。と、真名でも何でも良いから名前教えてくれよ名前」

 友好関係はまず挨拶から。即ち名前がわからなくちゃ良好な関係は作れないと言う訳だ。てか何でこいつらは俺の名前がわかるんだか……。



「……そうですねぇ今の私の名前……ですか」

「ユーゴッ! ユーゴッ! 今のボクの『名前』はね『サラマンダー』って言うのっ!」

 元気よく赤髪の少女が叫ぶ。自分を知って欲しくて堪らない、そんな顔だ。

「サラマンダ?」

 しかし、まともな名前ではありえないような言葉を聞いた気がする……。

「私は『シルフ』です。よろしくね~ユウちゃん」

 おっとりとした調子で言う緑髪の女性。その声の調子にどこか安心を覚える。

「回答、『ノーム』……。有吾は覚える様に」

 またむすっとした調子で銀髪の少女が答える。だがその声色、何かを期待しているように思える。

「あっ! 本妻(私)を差し置いて先に名乗るとはいい度胸してますねっ!

有吾さん、『ウィンディーネ』ですよ、『ウィンディーネ』、お忘れなきよう!」

 蒼髪の少女が自らを指差し、必死にアピールを繰り返す。

 と、教えられる全員の名前。どれもこれも人間の名前では無いが。

だが、見た目としても人間のそれとはどうしても思えない。それをゆうに超えて居る。

そんな気がするのだ。

「わかった、『サラマンダー』、『シルフ』、『ノーム』、『ウィンディーネ』……だな?」

 一人ずつ確認し、全てを言い終えると、俺は溜息を一つ吐きながら、尋ねた。



「で、ここは何処で、お前等は何者だ?」


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