第十八話 ――四つの『枷』――
手の平で四つの金属片を玩ぶ。
紅玉、蒼玉、翠玉、黄玉――『火』、『水』、『風』、『土』、四属性を示す宝石。
それらが付けられた釘の様な金属片を見ながら考える。
――俺は【五つ】だ。
浮かぶのはサラマンダー、ウィンディーネ、シルフ、ノーム。そこに俺を足し、【個】は完成する。今までの行動において、『俺らしくない』行動が多くあったのはそれが理由だろう。
(契約内容が思い出せない以上、予想の域を出ないが、恐らくは……)
五つまでの思考同時処理、不可思議で不安定な精神状態。
彼女等四人と俺、この五人での無意識下での多数決が俺の意思となっている。
(だからこそ、俺自身の『思い』がわからない……)
金属片同士を押しつけ合い、音を鳴らす。
ローゼスにこの指輪を付けられていた時――あの時の俺は間違いなく《俺》だった。
「ユーゴ、凄いねっ! 凄いねっ! 一面まっさら! 真っ平らっ!」
そう言い、キャッキャと跳ねまわるのはサラマンダー。紅い瞳をキラキラと輝かせながら、まるで犬の様にはしゃいでいる。
「……転ぶなよ」
「あらあら、あの子は元気ですねぇ」
そう言い、にこりと笑うシィール。俺は溜息と共に彼女に訊く。
「――『また』か?」
「えぇ、『また』です」
やっぱそれか……。俺はまた一つ溜息を吐く。『真名』を解放した後はいつもこうだ。
「まぁ……マシかな」
俺はここら一帯の様に真っ平らなサラマンダーを見ながら少し考える。
ノゥは不味かった。何が不味いってどう考えてもあれは誘ってる。ロリコンでは無い(『神』に誓っても良い)が、あの調子で来られると辛い物が有った。
シィールも色々と危なかった。あの胸はちょっとした危険物だ。俺だって健全な中学生、興味が無いと言えば嘘になる。あの感覚で近寄られたら……困る。
「あらぁ? ユウちゃんってもしかしてロリ――」
「違う! 断じて違う!」
(その点、アイツは変な知識も無くまっさらで、胸だって真っ平ら。間違っても間違いは無いし、変な気持にもならん)
俺は軽い安堵感を覚えた。
「ユーゴ! あそぼ! あそぼ!」
そう言い、突然抱きついてくるサラマンダー。ほら、なんて事もない。子供相手にしてるようなもんだ。気が楽になると気が緩む。
「ユウちゃん……やっぱり」
どうやら笑っていた様だ。シィールの視線が痛い……。
「違う! 違うって! 俺普通に同年代か上が好きだし!」
「あらあら、なら良いんですけどね」
そう言い、信じているんだか信じて無いんだかわからない様な表情のままシィールはサラマンダーに向き合う。
「では、ユウちゃんを頼みましたよ?」
「うんっ! 任せて! ボクが責任を持って守るからっ!」
そう言い見事などや顔とダブルピースを披露するサラマンダー。……信用ならねぇ。
「では、すみません、ユウちゃん。”還らせて”もらいます」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとな」
「いえいえ、それでは」
そう言い、緑の粒子にその身を変え、彼女は”還った”。
「ユーゴ、これからどーするの?」
「……まぁ何とかするさ」
一面焼け野原。俺はサラマンダーの頭を軽く撫でてやると、何となく歩みを進めた。
まぁ『臨機応変』って奴だ。
――今の俺にはそれしか出来ないのだから。




