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第十七話 ――彼女の『名』――風の神

 雷鳴纏いし(黄金色の)その髪、翡翠の瞳は凛と強く輝く。

「……さぁて、起きたか?」

 『黄金の鎧』(光輝)を纏い、『鉄の籠手』にて十字架の如き怒槌()を持つ。鎧の下、その身を包むのはただ一つ『雲』。彼女を中心に稲妻が走る。暗き雨雲の元に在った此処は日の元に曝される。


「……あらあら~、ちゃんと覚えてたんですね」

 シィールは薄らと笑みを浮かべ、言う。電撃が走るよう、とはこのことか。

「でも、もう一度呼んで貰えますか? 私の名を」



――偽りの十字架、黄金の鎧、鉄の籠手。大いなる天空を司り、雷鳴と共にある。

「天空神にして、狩猟の女神。狩猟の女神にして、雷神の祖。汝の名は」





「――『ジュピター』」




「はいっ、『ジュピター』。契約により、雷鳴と共に貴方を守護する者です」

 そうして、跪き、俺に頭を下げる。

「しっかし……また際どい格好だな」

「あら~、気になりますか?」

 そう言い、胸を強調するようなポーズを取る彼女。

「今は駄目です――家に帰ったら、ですよ?」


「《ジュピター》……あまり聞かない『名』だな――『お座り』!」

 そんな《White Rider》の声を聞き、『立ち上がる』《ジュピター》。

「That’s more like it (そうこなくっちゃな)」

 《Pale Rider》が立ち上がり構える――しかし滑稽だ。大人に立ち向かおうとする赤子を恐ろしいとは思えまい。


「軽く――ってのが何時ものパターンだが……『格』の違いを思い知らせてやれ」

「はい。軽く、ですね」

 そう言い笑うシィール、いや《ジュピター》。何時もと違いシャンとしている。しかしなるほど、確かに『格』の違いを見せるには、『軽く』やってやるしかないか。

 俺は彼女の手を引き、四騎士の元へ向かう。……既にペスト医師は逃げたか?

「Guuuuuu……」

 《Red Rider》は跪き、頭を下げる。獣に近いがゆえに、すぐさま気が付いたか――彼女と騎士達の『格』の違いに。


「――《Red Rider》!? What's up!?(《Red Rider》!? どうした!?)」

「ヵヵヵ……」

「……《Black Rider》までもか」

 赤と黒は沈黙し、動きを止める。蒼は未だに戦えると勘違いしているのだろう、身構える。白は未だに勝利が見えるか、腕を組み佇む。



――そうしてその二騎は見てしまったのだろう。彼女の姿を。



「まぁ『見』ないのが正解だわな……こりゃ『汝等見るべからず』(眼に毒)だ」

 『格』の違いを見せつけてやるつもりだったんだがなぁ……。俺は小さくため息を吐くと、今にも息絶えそうな《Pale Rider》と《White Rider》を見る。


――これこそが《光輝》の力。強大な神の『格』を示す眩い光はただの人間であれば蒸発(昇華)、そうでなくとも十分な威を放つ。


「さて、これで終わりか」

「一思いに殺せ、こうして生き恥をさらす趣味は無い」

 既に骨組みと幾ばくかの外装のみ残る《White Rider》が、何とか言葉を発する。死に体の《Pale Rider》は全身を震わせ立ち上がろうとするが、悲しいかな――それだけの力も残っては居ない。身体を構成する金属板が溶け、関節を埋めている。


「どうせ【契約主人】(マスター)が生きてるんだ、ここで『死んだ』ところで意味は無いか……」

 俺は彼女の右手――その『鉄の籠手』に口付をする。

「『ジュピター』、クールな一発見せてくれ」

「はいっ!」

 そう言い、笑う彼女。俺は彼女の手を離す。


 雷鳴が鳴り響く――空が鳴き、重い空気が辺りを包む。


「――《ユピテル(雷神)》、《ゼウス(雷神)》、《トール(雷神)》……そして《ジュピター(雷神)》。これだけの『名』なら一つは聞いた事が有るだろう?」

 小さく呟く。

 彼女の『鉄の籠手』(ヤルングレイプ)により掴まれた『雷霆』(ケラウノス)が唸りを上げる――神話にて世界を焼き、宇宙を燃やすと歌われた最高神の一撃。


 彼女がその振り被った右腕を振るう、そう認識した瞬間――街は地図から消滅した。




「軽い、挨拶のつもりだったんですけどねぇ~」

「……まぁ気にするなよ」

 これは……奴らが俺を殺せと言う気持ちがわかる気がする。

 坂道の多かった街は、今や平地が広がるのみ。坂など見る影も無い。死者が出てないのが唯一の救いか。そこは彼女も加減したらしい……どうやったのかは知らないが。


 

 彼女の頭に手をやった。最初はバチりと電撃が走った(金髪だった)が、すぐさまその髪色は緑に変わる。俺は彼女の頭を撫でつつ言葉を掛ける。


「シィール……ありがとな、助かった」

「気にしなくても良いですよ~、私とユウちゃんの仲ですもの」

 先までのキリっとした表情は何処へ行ったのやら、締りの無い笑顔を浮かべるシィール。その姿は既に『シルフ』のものだ。


 少々の疲れから彼女に身を寄せる。そして、俺は彼女に身体を預けながら、少し考えた――街を元に戻す方法について。


「へぇ、一撃でコレねぇ……」

 天高く、少女が眺める。地形が変わってしまったその街を、愛しそうに、優しい瞳で。

「《八岐大蛇(赤い竜)》、《キュベレー(大淫婦バビロン)》、そして《ジュピター(偽りの受膏者)》……。有悟も凄いのと契約してるなぁ……」

 少女は天を舞う。彼女の横に立つ影は何も答えない。錆びついた金属製の人型はただ『堕ちる』のみ。

「そして、最後の一柱……それが目覚めれば――有悟も醒める」

 宙に停止する彼女。ギチギチと油の切れた蝶番の様な音を鳴らしながら、彼女は振り返る。

 そこに居たのはまた少女だった。真赤な長髪と真赤な瞳をした少女。

「だからこそ……その前に止めなくちゃいけないのです」

 《世界の守護者》――ローゼス=ヴァッサーだ。

「ロゼちゃん、【契約神格】(パートナー)も無しに何の用? 今の貴女は全然美味しそうじゃないし――放っておいてくれない?」

「そうもいかないのですよ……今彼を放っておくのも問題なのです――でも、ボク達がどれだけ頑張っても全部『パー』に出来る人間はそれこそ放っておけないのです」


 そう言い、構えるローゼス。それをつまらなそうに眺めるリズ。

「ウザイんだよね、そう言うの――大体『土俵に立てて無い』(目じゃ無い)んだよ――」

 その言葉が終わるより早く、ローゼスがリズに近付き拳を振るう! リズはそれを避けられず、不様にその一撃を受ける。

「『時間』への『対策』――出来て無いのはどっちなのです?」

「……面白いじゃん。良いよ、『嬲って』(遊んで)あげる……」

 悪鬼のようなリズの笑み。ローゼスは覚悟した――彼女こそが最大の障害であると。


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