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第十六話 ――『敵』の世界――


 四騎士が立つ。それは正しく『黙示録』(ヨハネの受けし啓示)に刻まれた、終末(終わり)の始まり。


 第四の騎士《Pale Rider》。蒼き馬に乗りて、獣と疫病にて人類の四分の一を殺す。


 第三の騎士《Black Rider》。黒き馬に乗りて、飢餓を与え人類の四分の一を殺す。


 第二の騎士《Red Rider》。赤き馬に乗りて、争いを熾らしめ人類の四分の一を殺す。


 そして、第一の騎士――《White Rider》。

「なんだ、この程度か貴様等は……」

 白き馬に乗りて、『勝利の上の勝利』(支配)し、人類の四分の一を殺す。


 そう彼らこそ世界の七つの封印が内の四つ。そして世界を支配する者達。

「ヵヵ……ドぅでスヵ? コレヵ゛……ワタしの『力』デスョ……?」

 そうして笑う男――そう笑ったのだ意思を見せ得ぬその『ペスト医師のマスク』が笑みを浮かべた! 天は(穢れ)に染まり、血と硝煙()の香りが『世界』を満たす。


 四騎士の『召喚』――そこから続く『最後の日』(ラスト・デイ)の影響だ。


「――はっ! 『世界の敵』だ、超えてはならない一線(ボーダーライン)を超えただのと、俺の事を散々言っておいて、結局テメェも俺と同じ所に来ちまった、って事かよ!」

 そう言い、煽り立てるが、片膝をつき、跪く今の状況じゃ滑稽なだけだ。


「ハァて? 自分ノタちバが御わヵりでナぃョヲでっ?」

 ペスト医師がそう言うと、焼け解けた蹄が胸に押しつけられる。《Red Rider》の物だ。

俺は痛みに叫びを上げることも、逃げることすら『許されて』居ない。

「良い子だ、そのまま『静かに』な……」

「……クッ」

 唸り声を上げる程度の事しか出来ない――俺も、彼女達もだ。俺のされた事、それが許せないんだろう、怒りや憎しみに近い視線を送るが、それで終わり。それ以上の事は出来やしない。俺は無言で四柱全てを”還”す。

「……何だ? 『何』をした?」

 《White Rider》が蹄を鳴らしながら近づいてくる。その声には怒気が含まれていた。

「貴様――我の『許可』無しに、”還”したと言うのか?」

――違う? 怒気じゃない、驚きや感嘆、そうした感情の方が強いか?

 俺は言葉を返す。

「『駄目』だ、とも言われてないんでね」

「成程――確かにそうだな」

 優しい声色――そしてその脚が、俺の右脚を踏み抜いた。

「――ァ……!!」

 声にならぬ痛み。立てていたその脚が上から押しつぶされ、膝の皿から爪先まで――全てが砕かれた! 血肉骨(全て)挽肉(ミンチ)に!

 痛みが脚だった物から脊髄を通り脳へと送られる。痛みから逃れるための叫び――それは『許可』されて居ない。俺はただ痛みを脳で反芻する。

「……ンなァに、不味ッてマしィた?」

「こやつは我を愚弄した……それだけで十分であろう?」

 《White Rider》が腕を組みつつ言う。大分お冠の様だ――頭も冠で、見た目通りの分かりやすい奴だ。


「さて、興が醒めた……我はもうコレに興味を失ってしまったよ……」

「デは……どゥシっますヵ?」

「好きにするが良い――我を楽しませてくれるならそれが一番良いがな」

 そう言い、座り込み、こちらを見下ろす《White Rider》。と、《Pale Rider》が立ち上がり、俺の前に立つ。その左腕は何時の間にやら、槍の形を取って居た。

「――You owe me(貸しがあったな)」

「は?」

「《White Rider》!! Leave it to me! I let him sing like a pig! "Oink, oink, oink." (白騎士!! 俺に任せろ! 豚の様に鳴かせてやるよ、ブーブーブーとな!)」

「……好きにするが良い。まぁ我を楽しませる事が出来れば褒めてやろう」

「Fuck you!(糞野郎め!)」

 そう言い、《Pale Rider》は俺を見下ろすと、また口を開く。

「First, meat putrefies. Next, a bone melts, and a brain becomes sponge and dies.you nahmsayin'?(最初に肉が腐り落ち、次に骨が溶ける。そして脳がスポンジになって死ぬ。俺の言ってる意味がわかるか?)」

「Fuck you……」

「……You have got a lot of nerve(度胸があるな)」

 意味はわからないが、《Pale Rider》の槍が俺を目指し空を斬り――突如現れた『何か』を貫いた。

「――シィールッ!?」

 その『何か」、それはシィールだった。槍に右の腕を貫かせる事で俺を庇ったのか!?

「――大丈夫ですか~……ユウちゃん……」

 そう言い無理に笑みを浮かべる彼女。何が『大丈夫』だ!?

「お前! 出て来て良いなんて言ってねぇぞ!!」

「出てはいけないとも……言われてないわ……」

 だからと言って! 槍に貫かれたその右腕は紫に染まる(腐り果てる)


「――面白い! 男よ、『待て』! 女よ、『良し』!」

 その言葉を受け、なおのこと身体の拘束が激しくなるのを感じる。それとは逆にシィールは先よりも動きが楽になったようだ――『支配』を解かれたか。

 俺は興奮した様子で立ち上がった《White Rider》を睨む。白騎士はそんな俺の眼を気にせず言葉を続ける。

「女! 我は今、お前の支配を解いた! お前は自由だ! 『避ける』事も、『逃げる』事もな!」

 そう言い、両の腕を広げる彼。今度は眼も無いその冠の頭で俺を見る。

「男! 我は今、お前の意思を聞きたい! お前は自由では無い! 『避けられず』、『逃げられず』!」

「Get out of my face!!(邪魔をするな!!)」

 面白くないのだろう、《Pale Rider》が《White Rider》の胸倉を掴む。

「――『黙れ』! これはこの男の心を折る遊びだ! ……貴様とて悪い話では無いだろう? この男の心に深い傷を与えた上で殺すのだから」

「What?(なんだと?)」

「男――貴様はこの女にどうして欲しい? 痛みは嫌か? 盾になって欲しいか?」

「お断りだ――シィール! 今からでも良い、逃げろ!」

 白騎士の言葉に答えを返し、そのままシィールに言う。

「大丈夫ですよ……、ユウちゃんは絶対に私が守りますから」

 そう言い笑って見せるシィール。顔色だって良くない。どこが大丈夫だよ……。

「《Pale Rider》――賭けをせんか? 最後まで持つか、そう言う賭けだ」

「A bet?(賭け?)」

 白騎士は蒼騎士の腕を振り解くと、シィールに向かう。

「《Pale Rider》は後二度、二度だけその男を狙い槍を振るう。それは真正面からのみ、決してフェイントもしない――庇おうとすれば簡単な攻撃だけだ。それ以上は決して暴力を振るわぬと、それが終われば我らは何もせず帰ると『約束』しよう」

「……ッ!」

 ゴクリと唾を飲む。つまり、代わりに受けろ、盾になれと言うのか!?

「シィール! やめろ! 必要無い! そんな事は望んじゃいねぇ!」

 そして彼女を止めようと思い、立ち上がる――事は叶わなかった、砕かれた右足は決してこの身体を支えてはくれない。そうか、余りの痛みに忘れて居た……。そしてこれが彼女が今、俺の言葉を無視しそこに居る理由!

 俺と彼女の『契約』が『切れて』居る! 契約を意味する幾何学模様を内包した右足。それを引き千切られてしまえば契約も切れるか……。

「なおのことじゃねぇかよ! シィール! 今、お前は関係ないだろ!」

 俺の叫び、彼女はそれを聞き、一瞬悲しい顔をする。しかし、また何時もののほほんとした表情を作り、俺を優しく抱きしめる。柔らかく、温かい、彼女の感触。

「そうですよ~……だから、もし居なくなっても寂しがらないで下さいね」

 そう言い、何度か俺を撫でると、《Pale Rider》と俺の間に立つ。

「――二度、後は二度だけですね?」

「我は嘘をつかん。これは『契約』だ」

「なら――」

 そう言い、両の手を広げ、出来る限り広く、広く、俺を庇おうとする。

「やめ――」

「『静かに』!」

 《White Rider》は俺の言葉が終わる前に、発言の自由を取り消した。

「面白いだろう? 君も楽しみたまえ」

 顔は無いが、わかる。コイツは今どうしようも無いほど下衆な笑いをしていると。


 《Pale Rider》は一度槍をシィールの左足に触れるか触れないかの位置に置くとその槍を引き――突き刺した!

「――ッ!!」

 声にならない叫びを上げるシィール。蒼騎士は一切の感情も無く、その槍を引き抜く。病が浸食し、足元から一気に首筋までが腐る――さっきよりも強力な『疫病』か!!

「はぁ……はぁっ……次で、最後ですね……」

「ふむ、なかなか強い意志を持っているな……」

 俺は必死になって考える。何時もそうだ、こうして眼の前に絶望が迫ってからやっと俺はこうして考える――思い出そうとする彼女達の名前を。――奥歯が音を立てる。自分自身の不甲斐無さに涙が出そうになる……。だが思い出さねば――それしか今は『手』がないのだから。


「さて、もうやめるか? 辛かろう? ここで逃げれば追いはせんが?」

「大丈夫ですよ~ユウちゃん……『愛』は、強いんですっ!」

「――That’s more like it!(そうこなくっちゃな!)」

 その叫びと共に《Pale Rider》の片手――槍が更に鋭く長く変質する!





「――さて、終わりか」

 そうして、俺と彼女を見下ろす四騎士。

 いつの間にか雨が降って居た。俺達の血と痛みを洗い流す様に雨が、風が身体を打つ。彼女はその腹を突き刺され、今にも死にそうな程小さな吐息を漏らすのみ――時折血が絡むのだろう、咳き込む声が聞こえる。俺も右足の膝から下を失い、此処から動く事すらままならない。


――ただ俺は《White Rider》と《Pale Rider》を睨みつけるだけ。


「では、我らは帰る――『楽しかった』よ」

 その言葉、怒りで頭が沸騰しそうになる。だが――今の俺に何が出来る。

 しかし、白騎士の言葉を無視し、蒼騎士はこちらに近づく。

「やめんか、そう言う『契約』だろう?」

「Unrelated.I have not made a promise.(関係無い。俺は約束していない)」

「貴様は『攻撃』はしてはならん――だが『疫病』を撒き散らすのはただの癖だろう?」

「Ah,No offense.(あぁ、悪気は無いんだ)」

 ふざけた調子で言う《Pale Rider》。と、身体に不調が。腕の先、恐らくは全身か? 黒い点が走る――黒死病だ。


「ふざけるなよ……」

 気が付く――その病は俺だけじゃない。シィールにも同じように蝕んでいる事に。

「それがお前達のやり方か!!」




――コイツは俺を命がけで守ってくれた!

 俺は残った左足だけで何とか立ち上がろうとし――脳が痛みに焼ける。だがそれも無視し無理矢理に身体を起こそうとする。バランスを崩し、倒れこむ形になる。


 だがそれでも良い――それは『服従』では無い、『立ち向かう』姿勢だ。



――コイツは俺を買ってくれて居た!

 奴らが俺を見る――だからどうした? 白騎士が何かを言っているんだろう。だが、悪いな、『聴』こえないんだ――『効』かないぜ。



――俺はコイツに何をしてやれた!

 何もしてやれなかった。二人きりになった時ですらして貰うだけだ――だから!



「シィール! まだだ! これからが俺達の順番(ターン)だ!」

――だからこれからコイツに、してやるんだ! 何かを――この想いに答える為に!




「――『  』」


 俺は小さく呟いた。


 ソレは彼女の本当の名前だった。


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