第十三話 ――『嵐』の前の静けさ――
現状を見直そう。『俺』を見つめ返そう。
――なにせ、俺には『今』しかないのだから。
「どうかしましたか~」
そう言い、首を傾げる『シルフ』を必死に無視し、『自分』を考える。『自分』、『俺』、『己』……柔らかい感触が左の腕に当てられる。
「あのですね……『シルフ』さん……?」
「あらあら~、どうかしましたか?」
どうかしましたか? じゃねぇよ! 胸が……胸が……。かぁっと顔が赤くなるのがわかる。正直「胸が当って」とか言うのも恥しいが、この状況もちょっと恥ずかしい。
「む……胸が……当って」
だから俺は彼女に伝え――
「あっ! もっと当てた方が良いですか~」
――彼女はあろうことか『逆』に捉えた。強く挟まれる腕、んなのアリかよッ!?
俺はその感触から逃げようと腕を引き、
「キャッ!?」
「うぅぉッ!?」
バランスを崩し、共に倒れてしまった。
「あてて……」
何とか起き上ろうとし、自分の今を『理解』する。丁度俺が彼女を押し倒したような姿勢になって居る……しかも今の衝撃で、かなり薄くて面積の狭い布がずれてちょっと――見えちゃいけない所が見えた気がした。
「うっ!? うぉっ! すまんシルフ!」
「あっ! 離れちゃ駄目ですよ!? 対価が!」
そうして、確認する左足――ハニカム構造の穴が不規則に開き少々グロテスクな見た目に変わって居た――からは無数の蜂が顔を出して居る。
「うわぁ……」
こう、言葉にできないグロさが有る。正直こう、グッと来る、吐き気が。と、身体のバランスが崩れる! 俺は今一度彼女を押し倒すようにして倒れこんでしまう。
「あの~、ユウくん……そう言うのは~まだ早いんじゃ~」
――俺の手が、彼女の豊満な胸に、あった。
「うぁああ!!? わ、ワリィ!?」
「もうっ、めっですよ、ユウくん、そういうのはお天道様の下で、それもお外じゃ駄目です! 良いですね?」
「あ、あぁ! 悪かった! 悪かったよ!」
明るい内と外が駄目ってだけでそれが違えば良いのかよ、とか思いつつも俺は謝る。
「御免、……対価は必要……」
と、コリコリと妙な音を立てながらノゥが謝る。どうやら、倒れた俺達を見て居たらしい。彼女の方を見ると、その手にはアーモンドが二つ握られて居た――クルミを二つ手で握って鳴らすアレと同じような動作か? とは思ったが、彼女の手つきはこう、少々いやらしい感じを思わせる。
「ノゥ……その仕草、わざとだろ」
「……伝達、もし、私を裏切る様な事があれば……」
ぺろりと、手首からアーモンドの先まで優しく舐めるノゥ。わざとらしく流し目でこちらを見る。と――強く握られるその手!
「潰す……私が何の神か、忘れないように……」
そう言うと、彼女は冷たい視線で俺を見下しながら、その手を開き――アーモンドの『粉』が……。彼女はフッと笑うと”還”って行った。……こう、下の方がヒュンとした。
「しかし、だ……」
――1つ、考える。俺は物部を許せなかった筈だ。七人の女を殺したアイツを……。俺は何故逃げ帰った奴を逃がしたんだ?
――1つ、考える。俺は戦いを望む性格だったか? 戦いを楽しむような人間だったか?
――1つ、考える。何故俺はあの四人を此処まで気にかけるのか?
多くの思考が混ざる――そう『混ざる』。3つを『並列』で『思考』し、総轄し4つ。更にはもう一つ思考しうる。
「……5個か」
自身の思考能力の増加、これは間違いない。
「だが――『決定権』が無いな……」
俺はどうも嫌な予感がしてならなかった。
――これも本当に『俺』の思考か?




