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第十二話 ――彼女の『名』――土の神

 銀に煌めくその髪、黄金の瞳は優しさを携え輝く。

「……よぉ。その恰好、懐かしいな」

 煌びやかな黄金の冠(栄光の象徴)、燦然と。(恵み)()のドレスが風になびく。上に纏うは第四惑星色()の鎧、その胸に獅子を抱く。彼女を中心に黄金の球体()が公転を繰り返す。


「……記憶、残ってたの?」

 ノゥが首を小さく傾げ、俺に訊く。その小さな素振りが美しい。

「確認、もう一度……私の名を呼んで」



――大いなる混乱、月を纏うその姿、黄色と黒。死と再生を司り、大地を治める。

「地母神にして、穢れの母。穢れの母にして、神々の大いなる母。汝の名は」





「――『キュベレー』」




「肯定、私の名は『キュベレー』……、汝の母にして妻、汝と共にある者……」

 そうして、ドレスの端をつまんで俺に頭を下げる。

「だが……『地母神』ねぇ……」

「不快、……女性にそう言う話は褒められ無い、せくはら……」

 そう言い、両の腕で自らの胸を隠す彼女。

「代案、母性は保証する……」


「《キュベレー》……『大いなる母』(マグナ・マーテル)にして死を司る神……。悪いが真逆そこまでの『神性』を持って居るとは思わなかったよ……」

 物部が呟く。だがそこに感情の起伏は感じられない――《天叢雲剣》なら負けないと?


「ノゥ、一応言っとくぞ? 軽く、な」

「努力、可能な限りは……」

 そう言うノゥ、いや《キュベレー》。浮き上がって居た彼女が地に脚を付けた。

――途端、咲き乱れる花々。大地に緑が生じ、木々が生茂る。

「――壁か!?」

 物部が叫ぶ。丁度俺と奴との間に大木が生えた為、そうとられても仕方あるまい。


『だが……甘い!』


 俺と物部の叫び(シャウト)が共振する。

 大木、それも半径三mは有ろうかと言うそれはただ一振りにて切断され。その下より無数の獣たちが飛び掛かる!

「――馬鹿なッ!? 全てが『神性』だと!?」

 そう、産まれ出る者は全てが『神』。これこそが、『大いなる母』(マグナ・マーテル)と呼ばれる所以。


 《天叢雲剣》が『神獣』を斬り裂く――だが、二つに別れたその身体は不足が補われ、その数を増やしながらまた進撃を続ける。


――『大いなる地母神』(ガイアー)子供達(アンタイオス)は不死身である。


「不要、私自身の力を使うまでも無い……」

 在るだけで産み出す――『百獣の女王』(ポトニア・テローン)の名は伊達では無い。彼女は腹を痛めず(その身を使わず)産むのだ、故に『地母神』(産んだ者)にして、『処女神』(産んだ事の無き者)と結びつけられる。

「有悟、……貴方が望むなら、私のお腹を痛めても良い」

「……まぁなんにせよ全部終わったらな」

 どうにも発言の所々が生々しい。これも『生』()を司る故か?


「――ならばッ! 《草薙剣》!!」

 物部が《天叢雲剣》を地面に突き刺す――木々は弾け飛び、ここを更地へと変える。『草』を『薙』ぐ『剣』、その威力か!


「――『一』『二』『三』『四』『五』『六』『七』『八』『九』『十』! 『布留部』(ふるべ)『由良由良止』(ゆらゆらと)『布留部』(ふるべ)ッ!!」


 彼の周りを剣が舞い、円を描くようにして飛ぶ。物部の『歌』(詠唱)『言=事』(言霊)の力だ。


――そして、大地が揺れる。


 這い上がる影――人だ。それも『英霊』と呼ばれる様な、『神格』に近い『人間』だ。それが約六十人!!


「《天叢雲剣》は『王剣』(レガリア)!! そして司るは『武力』なり!」


 物部が叫びを上げる、剣が呼応し、輝き――『光』が彼らの武具へと変ず。

――だが!


「『キュベレー』!!」 

 《キュベレー》が一睨みする――それだけで『蘇った』彼らは『黄泉帰った』。


――そう、無意味だ!


 その後、『獣』に『王権』は通じず、ただの人である彼は組み伏せられた。


「……悪いが、命は惜しくてね、命乞いをしたい」

 首筋を『獣神』が甘く噛む。その状態で慌てた様子も無く、物部は言う。

「あの七人の女――お前は助けたのか?」

「因果、廻り、巡る……」

 ノゥも呟く。自分だけ助かりたいと言うのかこの男は?

「だが、君は――他人を殺すのは気分が悪い、そう考えている」

 驚き――俺の心を『読んだ』と言うのか!?


「君は甘ちゃんだからね……悪い奴ならそんな事も言わずに殺して居るよ……」

 そう言い笑う物部――むかっ腹が立つ。だが、俺はコイツを――殺すのか?

「まぁ、『時間稼ぎ』は十分かな。僕の役目は此処までだ」

「何?」

 そう訊くが、それよりも速く、物部が『獣』を組敷く! あの状態から入れ替わっただと!? そうして驚く俺を尻目に、『獣』の首を絞め上げ――殺した。


不死身の巨人(アンタイオス)は地に足付けてこそ、だろう?」

 不適な笑い。

「さて、『獣』の『群』か……『王剣』(王権)は通じないが……『毒』ならわかるだろう?」

 そう言う物部の身体からポタリポタリと血が流れて居る――先のローゼスとの戦いと、獣との戦いで出来た傷か?


 血が大地に触れた――地は腐り落ち腐臭に満ちる。


「不浄――『穢れ』の血……どうしたら人の身でそこまでの『穢れ』が?」

「悪い奴だからさ、僕はね」

 唇が切れたのだろうか、ぺろりと舌舐めずりをしながら、笑って見せる物部。声が無ければ(男だと知らねば)ころりといっていたかもしれん。


「さよならだ、出来ればもう二度と君達には遭いたくないよ……」

 物部はそう言うと、一心不乱に逃げだした。


「有悟、追う……?」

「いや、要らないだろう」


 俺は彼女の頭を撫でながら、感謝の意を伝える。


「悪いなノゥ……いや、ありがとな」

「良妻、そう呼んでくれていい」


 ふふんと胸を張り笑うノゥ。俺の気が抜けたのが理由か、紅い鎧は既になく、何時ものやぼったい服を着て居る。『ノーム』に戻ったか。


 俺は彼女の頭を撫でる。くすぐったいのか、眼を細め、嬉しそうにノゥは笑った。

 


 男が居た。既に服の体をなさぬ巫女服を身に纏う彼。肩で息をしながらも呟く。

「――君のお御兄さんはとんでもない奴だな」

「きゃはっ、リズの兄貴だもん、『凄い』人だよ」

 そう言い笑うリズ。巫女服の男――物部は両の手を上げやれやれの『意思表示』(ジェスチャー)

「あれが――あれが『人』だって?」

「……あ~、わかっちゃった?」

 悪戯がバレた子供の様に笑って見せるリズ。

「だからと言って責める気は無いよ、ただね……」

「『ただ』?」

「僕達を巻き込まないでくれるか?」

 そう言い、剣を向ける物部。傷口から噴き出る穢れの瘴気。彼の傷を全て塞ぐ――そして新たな『傷』。身体を裂き『骨』が全身より突き出る。

「ははは――『時』に勝てるとでも?」

「『時』を過ぎても残る物が有る……『道具』と『想い』だ」


 物部の全身を骨が包む! 骨の一本一本が強大な『霊力』と『呪力』を携えた遺産(レガシー)だ! それらは歯車の様に力を組み合わさり『強化骸骨格』(パワードスーツ)の役割を果たす!


「――でも、遅いんだよね『止まってる』からさ」

 物部の後ろから声が――後ろから放たれる《カイロス》の蹴り! 物部は何も出来ずに吹き飛び(無かった事に)――物部の拳が敵を討つ(これを事実に)

「――な!? 《時間改変》!?」

「それに、『俺達』も手に入れて居る――『時間』を」

 物部が叫ぶ、その手には奇妙な柱時計が!

「少しは――楽しませてくれるね、おじさん!」

「まだ二十三だよ!! 糞餓鬼め!!」


 時空間を超越した戦いが始まり――そして終わった。

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