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第十話 ――絶望からの『闘争』――

 懐かしい顔に会った。俺は彼女を知っている。


 蛇達が形作った左腕は、未だ蠢く感覚が有るが大分自由に動くようになっていた。俺は左腕を支えに立ち上がると――これから始まるであろう戦いに身構える。


「どうしたのです? 取って食べるつもりはないのですよ?」

 にこりと、笑みを向ける女――ローゼスは、菩薩のような優しい表情を作る。赤い長髪が優しく風でなびく。赤いドレスは汚れ一つ無く美しい。まるでスラム街に舞い降りた聖母だ。今居る場所が下水道とは思えなくなる。

「だが――透けて見えるぜ、下の般若面(怒り顔)がな……」

「……すのです」

「あ!? 聞こえねぇよ!」

 事実聞こえなかった。俺は右手を耳に当て、もう一度言う様に催促する。その姿が癪に障ったのか、わなわなと震え、スカートを強く握り締めるローゼス。

「返すのですッ! ボクの愛しい《クロウ・クルワッハ(彼女)》をッ!」

「知らねぇよ!! 帰ってなかったのかよアイツ!!」

 それは俺も知らなかった。『八岐大蛇』の《眷族》に落ちたまでは知っていたが、確かに帰した覚えもない。

 俺の発言を受け、ローゼスはその腕を広げ、一種の構えを作る。

「何をしてでも返してもらうのです……」

――鋭い殺気。『何をしても』の意味が良くわかる。

 俺は半身に構えノゥを『呼ぶ』。

(ノゥ、ウィンは?)

(……不可、貴方の体を治すのに力を使い過ぎた……)

 まだ『火』の気は強い。『シルフ』は呼べず、『サラマンダー』は……。

(む~り~、『水』っ気が強すぎる~。ボクちょっと熱くなれないなぁ……)

 あの元気が取り柄と言った彼女がこうも無気力な声を上げるとは……。つまり今戦えるのは――ノゥだけだ。


「……ヤれるか?」

 呟くようにノゥに尋ねる。ノゥは俺の横、『敵』(ローゼス)を睨みながらも小さく頷く。

「返してもらうのですよッ!!」

 そう叫ぶローゼス! 身から無数の(ライン)が走る! ――振りペンデュラム・ダウジング!?

 鋭い切っ先を誇る振り子が彼女の体から放たれる。その数およそ百!

「ノゥ!! 頼む!!」

 その叫びを受け、ノゥが力を発現させる。コンクリートを突き破り、土が壁を作り出し、振り子の動きを止める――が、足りない。

「うぉ!?」

 頬をすり抜ける振り子。超えてきた――壁を。


 俺は一歩後ろへ飛び、攻撃の範囲から離れようとする。と、何かにぶつかる。俺は恐る恐る後ろを振り向く。

「どうやら悪い状況のようだね、僕にとっては有り難い限りだが……」

 巫女服が似合うド変態(ナイスガイ)――物部がそこに居た。

「前門の虎後門の狼……ってか?」

「目の前の災いを避けられてないからね……泣きっ面に蜂と言ったところじゃないか?」

 そう良い、物部が右腕を上げる――左の脇道から俺に向け、無数の赤い閃光(レーザーサイト)が向けられる。嘘だろ、聞いてねぇぜ?

「僕も聞いてなかったよ……。とは言え悪いが僕もプロなんでね、僕一人で出来なかった時のことを考えるように頼んであるのさ」

「プロ、ってのは凄いんだな。流石は歴戦の戦士様」

 軽口を叩きながらも考える――どうこの場を切り抜けるかを。

(残念、……多分この場を切り抜けるのは厳しい……『真名』を呼んでもらえれば……)

 だろうな――この『真名』ってのがあれば、前の時みたいに軽ーく話が済むんだろうが……。その手はあまりに悪手だ。

(『真名』で解決して、そうすると『また』狙われる……)

 一つ開放したら、こうして一人敵が増えた。全てを開放すれば少なくとも四人……最悪の場合『世界』と戦わなくちゃならなくなる。

(……可能、私達四柱の『神格』を同時に使役できるなら、『世界』とも戦える……)

 軽く言ってくれる……。一人開放するだけであんなザマだ――『力』すら出さずにアレだけの問題がある。四人同時、更に『力』を発現させるともなれば……。


――『死』


 背筋が凍る。まともな死に方は出来ない。だが、今このままでは死んでしまうのも事実だ。『手』()を考えろ……生き残る『手』(方法)を……。


「なんだ諦めたのかい? 諦めが悪そうなのにな……まぁ死にはしないだろう――撃て(Fire)


「ノゥ!! 」

――迷っている暇は無い! 俺は彼女との『霊的な繋がり』(パス)を通してのテレパシーにより、手順を伝える。

 第一手――コンクリートの天井を崩し、銃弾を防御。射撃部隊と俺たちを切り離す。

「チッ! だとしても……」

 そう言い、一歩下がる物部。お前の次の『手』は近接戦――そうだろう?

「貴様は俺を捉えて何が目的だ! ――『八岐大蛇』をどうするつもりだ!!」

 物部に叫ぶ。この言い方で良い――恐らくは『どつぼにはまる』(罠に掛かる)

 ローゼスと俺の間に作った壁を少しずつ薄く変える。これが第二手。

「封印する! 貴様の《八岐大蛇》は危険だ! 一切の残痕無しに『消滅』させる!」

「……それは――《クロウ・クルワッハ》も含めてなのです?」

 わなわなと空気が震える。【契約神格】(パートナー)無しでこれだけの力を誇るか……バケモノだなコイツ(ローゼス)も。

「《世界の守護者》の一人、『黄金世代の赤薔薇』(ゴールデン・ローズ)のローゼス……《八岐大蛇》の封印は貴女にとっても悪い話ではないはず」

 自分の発言が彼女の怒りに触れていると理解しているのだろう、言い訳じみた台詞を吐く物部――笑いが止まらない。その台詞は『どつぼ』(ミス)だぜ!


「お前もボクの《クロウ・クルワッハ(彼女)》を奪おうというのか!!!!」

「錯乱したかローゼス! 『気高き薔薇』と呼ばれた貴女が!」

 俺の足元に穴を開け、逃げる。二人の戦いに巻き込まれちゃコトだ。

「ローゼス! 逃げるぞ穂村()が!」

「あんな小物! ボクの力なら直ぐに見つけられるのです! だが貴様は! ――『白髮の王』(つくものおう)はボクの障害に成り得る! ここで芽を摘むのです!!」


 二人の叫びと、戦いの音をバックに、俺は戦場を後にした。

「……予想、おそらくすぐに追ってくる……打ち倒す『力』が必要……」

「――『真名』か」

 俺はため息を一つ吐くと考える。強大な力を使わずに、誰にも迷惑をかけずに生きる方法を。


 俺にその答えは出なかった。


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