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第九話 ――希望へ繋ぐ『逃走』――


――燃えていた。己の住んでいたその家は業火に捲かれ、パキパキと柱が悲鳴を上げる。俺は壁にもたれ掛りながら、変わりゆく家を眺めた。


「……悪いとは思うが、これが僕の仕事なんだ」

「ごふッ! ……なるほど、な……『火』で囲ったのは、逃げ道を塞ぎ、俺にウィンディーネを、『八岐大蛇』を呼ばせる為か……」

 俺は腹から噴き出る血を押さえながら、何とか言葉を紡ぐ。

「《八岐大蛇》なら、この《天羽々斬》で倒せるのでね……」

「『風』は『火』を嫌い――そして、『火』を出そうものなら……」

「こうして、円陣を組んでいる『水』に関する『神格』の契約者が君を打ち倒す……」

 そういう男。俺の周りには無数の『神格』と契約者が。俺は何とか言葉を続ける。

「なら『土』なら――どうだ?」

 俺はそう言うと、ノゥを呼びだす。彼女は地面の一部を円錐状に伸ばし攻撃――其れを懐に隠していた符により掻き消される。

「――なるほど……そこまで『手』が」

「悪いが僕もプロなんでね……流石にこれ以上は持ってはいないがね」

 そう言い、刀を俺の首筋に当てる男。――なるほど、これ以上(・・・・)はないか。

「悪い奴だよ君は、僕の用意を全て使わせた……褒めてあげよう」

「なぁ、名前を訊いて良いか? 一応な」

「……物部 白(もののべ しろ)

 なるほど、物部 白。面白い名だ。

「はは、そうか物部 白。覚えたぜ」

「……僕は君を殺す事が目的ではないんだ、悪いがついて来て貰うよ?」

「連れてって、何が目的だよ?」

「――君と四柱との契約を断ち斬る。君自身を殺して契約を断ち斬った場合の《穢れ》はこの国を滅ぼしかねない。然るべき方法を持って契約を解除し、その後四柱には眠って居て貰う……永遠に」


――それが目的。なるほど、コイツら四人を封印する。それが目的か。

「ノーサンキューだ」

「そう言う訳にもいかないのでね……悪いが連れて行くよ」

 と、言いきると彼の刀がスッと横へと動く。彼も意識していなかったようで、驚いたような表情を見せる――ヤベッ!?


「――なっ? 真逆!!」

「ハッ!! 騙されてヤがんのな! 女装趣味の変態野郎がッ!」 




――そうして、景色は現実を映し出す。




「フンッ!!」

 刀の向く方へ鋭く振り落とす物部。俺はそれを間一髪のところで回避した。

「あぶねぇなぁ、傷一つない俺のお腹に縫い後付ける気かよ?」

「《幻術》……とは」

 そう言う物部。俺は笑いながら左指でピースを作り、『眼』に当てて見せる。

「イカす『眼』だろう? 《バジリスク》からの借りもんだ」

 『八岐大蛇』経由で借り受けた『眼』。その為、一睨みで殺すに至らず――ウィンの協力の元、こうして幻覚を見せる程度が精々だったが、寧ろ今回はそれが上手く行った。

「――だが! 《天羽々斬》の前で『蛇』を用いるのは間違えだ!」

 そうして放たれる第二刃。俺は左腕を真っ直ぐ男に向ける。これで距離感がおかしくなり、更には《剣》の性質上――斬撃は俺の左腕を狙う!


 音よりも速い一刃が、俺の左腕を断ち斬る――だが、血飛沫は上がらない。

「それはテメェにくれてやる! じゃあな!」

 俺は左腕を犠牲に、家から逃げ出した。切り離された腕は無数の蛇へと姿を変え、男に対し飛び掛かる。《天羽々斬》は《蛇斬り》の性質を持っている為、小さな毒蛇一匹見逃す事は出来ない(・・・・)

 先ほどの《幻術》で奴等の配置や罠、手順は全て洗い浚い教えて貰った。俺は危な気なく、包囲網を抜けだした。



「感嘆、真逆……逆にウィンディーネを用いて危機を脱するとは……」

「ああ言う用意周到な手合は、気持ちいくらい罠にハマってやると寧ろビビるのさ」

 そう言い笑う。今俺は下水道に居る。

「流石に下水道に配置はしてなかった様だからな……」

 マンホールは重かったが、ノゥに力を借り、なんとか地下に入り込めた。俺は力なく壁に倒れこむ。今、俺に左腕は無い。蛇に変わりそうだった左腕を、『逆に』蛇に変える事で今回事無きを得たが……喪失感。

「命に比べれば安いか……」

 そして、この四人を天秤に掛ければ、なおの事だ。俺はそう思い溜息を一つ。

「……安心、問題は無い」

 そう言うノゥ。俺の気持ちに気が付いたのか、慰めようと? 俺はその頭を撫でた。

「そうだな、お前達も居るしな」

「……否定、そう言う事じゃない……」

 ノゥは地面を指し、そう言う。俺は地面を確認すると、そこに蛇が居る事に気付いた。

――下水道に蛇? 良く良く見ればそれは『ウィンディーネ』だった。見た目は蛇にしか見えないが、俺にはわかる『妖精』だ。

 それは俺の左腕の有った位置に飛び掛かると、そのまま肉に喰らい付く――走る激痛!

「ぐぅう!?」

 そして、気が付く――その『妖精』達はまだまた居る事、その全てが俺の左腕を『目指している』事に。


「再生、有悟に何かあった時、こうして『妖精』で補強出来る……」

「なぁ……俺って今、かなり死ににくい?」

「……正答」

 俺は嘆く事しか出来なかった。


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