Side B-5
レックスとケビンが男達と接触した同じ頃
山頂へたどり着いたアレフは、火がおさまってきた建物の周辺をぐるりと回る。
焼けていたのは小さな小屋で、崩れた窓から覗く限り中は一部屋しかないことが分かった。
幸いにも人の気配はないことを確認して息をつく。
「これが火の力がどうとか言う宗教の儀式みたいなもんかな」
高台にある小屋から、森を確認すると、今きた小道を下った中腹に灯かりの集合体が見え、そこが村であることを確認した。
「レックスさんたちはあっちだろうな、……ん?」
森の中からガサガサと物音が聞こえ、アレフは焼けた小屋の影へと身を伏せる。
だんだんと近付いてきた音は、森から出てくると小屋の前で人の呼吸音に変わる。
「はぁっ、はぁ……なんで……なにが」
アレフは声の主へ視線を向ける。
そこには少年が居た。
***
ロル村の中央
「おかしい、家の処理を任せたものたちはもう戻ってきてもいいころなのに……」
誰かがつぶやく
「もしかして、軍の奴らにつかまったんじゃ・・・・・・」
その返答に、ざわつきが起こる。
「さぁ急げ、上にも火をつけろ!時間がないぞ!!」
男たちは手にした松明を巻き上がる炎へと投げこむとより燃え上がる。
燃える炎に石をなげつける女
泣き声を上げる子供
士気を高めるごとく叫ぶ男たち
村の中は 異常だった。
「そ、村長!!助けてくれぇ!!!!」
燃える炎を囲む村人たちが一斉に声のする方へ振り返る。
村の入り口には手を後ろに縛られた村人とその腕を押さえるケビンと、レックスが立っていた。
「こ、こいつら軍のものなんだ!!みんな逃げなきゃ殺されるぞ!」
「まて、その必要はない!私たちは・・・・・・!」
レックスの声がむなしく響く。
慌てた村人たちは、一斉に手に松明を持ち、村中へ炎を点けて散り散りに走り出す。
「な、なにをしているんですか!?」
「お前らに壊されるくらいなら、自分達で村を守るって決めてるんだ!」
想像を絶する光景にケビンはなにもできずに立ち尽くしている。ふと緩んだ手の隙をみた男はケビンへ体当たりをして一目散に逃げ出す。
「あ、ちょっと!」
「いや、いい。それよりあの火を消さないと本当に村が焼けてしまう」
中央の炎へと走り出したレックスと後を追うケビンの前に、松明や農具を持った男たちが立ちふさがり、
「だめだ!儀式の邪魔をするな!」
「近寄るな!」
家と家の間を塞ぐように何名も男たちが集まり、その後ろには同じように女達がふさがる。
「なにを言っているんだ!軍は村を滅ぼしに来たんじゃない!」
「なにを言われようと、邪魔だけはさせない、あれさえいなければ・・・・・・!」
「なんでこんなに……」
数歩後退りをするケビンは、右手の通りにいる男の子が目に入る。
焼けた家の屋根のカケラが男の子の周りに音を立てて落ちるが、泣き叫ぶ男の子はその場にしゃがみこんだまま動かない。
「危ない!」
走り出したケビンの目の前で男の子は崩れた屋根の下に消えた。
「おい!キミ!」
焼ける柱と屋根の下で男の子はぐったりとしたまま動かない。
「ケビン!戻れ!!」
レックスの声が響く、振り返った視界には自分めがけて倒れてくる柱が目に入り、とっさに体を倒して横へと回避する。
「はぁ……ゴホッ、なんで、あんな……小さな子まで」
吸い込んだ煙を吐き出すように咽るケビンは体を起こしてレックスの元へと戻ろうとしたとき、
「レックスさん、ケビン!」
聞き覚えのある声が入り口から聞こえ振り返る。
そこに居たのはアレフと、見知らぬ少年だった。
「二人とも無事だったんっすね!オレが行った上の火事は小さな小屋が燃えていたんですが幸い人もいなかったですよ、ていうかこっちのほうがまずいっす!」
「アレフも無事ならよかった、で、その子は?」
「上の火事で遭遇したんですよ、課外講習でキャンプやってる少年兵の1人で、その焼けた小屋に居た女の子と知り合いみたいで……」
「女の子?」
アレフの横で、呆然と火に覆われた村を見ていた少年は、両手で胸元に抱えたいた白い布をかばうようにして、突如中央の炎へと走り出す。
「あ、おいライナス!」
後を追うアレフを見て、レックスも走りだした。
遅れたケビンははっとする。
「女の子って、もしかして」
中央の炎は未だ燃え上がっていた。
炎と煙で遠目からは見えないが近づいた少年、ライナスはその炎の中を見つめ膝から崩れ落ちる。
レックスは近くにあった板を取ると炎の下に敷かれた藁を排除する。
それだけで火は勢いを落とした。
炎と煙が一瞬弱くなる、炎の中心におかれた黒い影が
「なんてことを……」
少女であると分かった。
「おい、しっかししろ!おい!!」
レックスは焼けた木を退かしながら声をかけるが返事はない。
肌は火傷で裂傷が起き、爛れた皮膚に顔を覆われた少女は、炎の中で立った姿勢のまま木に磔にされていた。
足元の藁や木材を退かすと背中を支えていた木ごと少女は倒れこむ。
ケビンとアレフが持ってきた桶の水を少女の体にかけると煙を出して火はおさまった。
「カノン!カノン!!」
ライナスは足元に落ちた布をそのままにレックスが抱き起こす少女へと駆け寄る。
そして少女の顔を見たレックスは息を飲んだ。
「……っ!?なんで……」
「危ない!レックスさん!!」
直後
脳を揺らされるほどの衝撃を受けたレックスはその場に倒れ込んだ。
意識が消える中で、抱き起こした少女の顔が鮮明によみがえる。
あれは……
あの子は……