Side B-4
ローレルの山のふもと
空に欠けた月が高く上がる。
森の中は薄暗く、小道もまともに見えなくなってきていた。
レックスを先頭に三人は森を歩いていた。
「だいぶ暗くなったな・・・・・・」
ぽつりとレックスが呟くと、アレフは当初の予定を思い出して悪気なく呟いた。
「日没どころか・・・・・・今日たどり着くんすかね」
「たしかにおかしいですね。少しは村の明かりくらい見えても・・・・・・あ!」
ケビンは思わず声を上げた。
指差した先には、うっすらとオレンジの明かりが見えた。
数個の明かりが揺れて動いているのが見える。
「村の人でしょうか」
「こんな時間にいるなんて、祭りとか?」
アレフは明かりが向かう先へ目を向けるが、まだ村は見えない。
「どうしますか?夜に訪問は・・・・・・」
レックスは口に手をあて、明かりが来たと思われる道と向かっている先を見比べ
「ひとまず、あの人たちへ声をかけよう」
***
ロル村
門の近くにいた1人の女が数人の男達を見かけると、慌てて村長の許へと駆け出す。
「村長様、男たちが戻ってきました!」
「ではすぐに準備を、幸いにしてまだ軍は到着していない」
戻ってきた男たちは村の中央まで入ると、女達が用意した場所に運んできたものをおくと、準備を始める。
「村長様、そろそろ後処理の者達も戻るころです。」
「では・・・・・・はじめよう」
***
「はぁっ、なんだあいつら、めっちゃくちゃ足はえー!」
「あっちのほうがきちんとした道になってるんでしょうね、土地にも詳しいでしょうし」
「少し遠回りだけれど一度道へ抜けよう」
視界に明かりをいれたまま、沿う様に道へと走り出す。
しばらくすると草木をかきわけた先から土がならされた小道へ出たところで、レックスは明かりが走っていた方向の反対へ目を向ける。
風にのって届いた匂いに気づいた。
「あれは・・・・・・?」
「おっぷ!すんません!ってレックスさん?」
突然止まったレックスにぶつかったアレフは鼻をさすりながら同じ方向へ目を向け
「焚き火?……なわけないか、もしかして火事っすか」
二人が見ている方向、入り組んだ森の上のほうで暗い夜空のしたに黒い煙を出す赤が見える。
煙の量からするとそれなりに大きなものが燃えているのが分かる。
「アレフ、お前は上を確認してくれ。火事の場合は人命救助を優先だ。」
「了解」
「ケビンは俺と共にあの人たちを追う。おそらく無関係ではないだろう」
「了解」
三名は顔を見合わせて頷くとそれぞれ走り出した。
走りやすい道のせいか、レックスとケビンは先ほど以上に近づき松明を持った3名の男を確認した。
「ケビン、彼らに接触するぞ。穏便に済ませたいが準備はしておいてくれ」
「はい」
一度森へと入ったレックスは彼らを追い越し、ケビンは後ろを保ったまま4人を見る。
「すみません!」
声をかけて道へ飛び出たレックスに驚いた先頭の男は松明を落としてバランスを崩して横に転んだ。
「うわぁ!」
「失礼、私は軍の者です。この先のロル村に用事があったのですが道に迷ってしまい・・・・・・灯りが見えたから追いかけてきたのです」
「ぐ、軍人さんかい?」
腰をさする先頭の男が話す後ろで、立ったまま息を落ち着ける二人の男はレックスを見ながらひそひそと話し、手に握った農具に力を込めた。
「はい、驚かせてしまいすみません。」
「村に来るとは聞いていたが、あんた一人なのか?」
「えぇ、今回は村の様子を見るだけなので・・・・・・こんな時間に申し訳ないのですが案内をお願いし・・・・・・」
突如、座り込んでいた男が足元の松明を拾い上げてレックスへと投げつけ、その隙に飛びかかろうと屈んだ状態から走り出す。
「そんな話誰が信じるってんだ!!」
「おっと」
松明を避けたレックスは、飛びかかってくる男を横にずれてかわすと同時に首もとを押して地面にたたきつける。
「ぐっ……」と小さく唸った男は動かなくなった。
次いで農具を構えた男に小銃を向け威圧する。
「どういうことですか、ずいぶんと手荒な歓迎ですね」
「う、うるさい!!お前等が村を滅ぼそうとしているのは知っているんだ!!」
「それは勘違いです、私たちは調査に来ただけで……」
一歩近づいたレックスを警戒するように、松明を振り数歩下がると一番後ろに居た男がこそこそと話耳打ちする。
「早く戻らないと」
「でもここで引きつけたら……」
「お話中すみませんが……あの上の火事はあなたたちですか?」
二人がびくっと肩を震わせた、肯定であると確信したレックスはじっと二人を見つめ
「あれがあなた方の宗教の儀式ですか?」
「へっ、あんなの序の口さ。ほんとの元凶はとっくに村で火あぶりさ!」
「元凶?」
レックスは二人の男から距離を保ち、足元に伏せたままの男の農具を蹴り道から草むらへと入ったのを横目で確認しながら問いかける。
「……元凶とは、なんですか?」
「教えてやるかってんだ!」
2人が同時に襲いかかる瞬間、パンパンと二発の銃声が響く。
一人目は頭から血を流し、もう一人は左胸から血を流し、その場に倒れると二度と起きることはなかった。
ケビンは構えた銃を下ろすと一息吐いて道へと出て二人の死体を確認する。
続いて伏せたままの一人へ銃を向けるとレックスへと頷いた。
男の頭の近くで屈み、レックスは声をかける。
「気絶のふりをしてないで、早く村へ案内をしてください」