Side B-1
パパへ
夏の予定は決まったかしら?
お隣のエレナは、おばあさまの別荘に行くって言ってたの。
大きな別荘で、近くには海があるんだって。
ママに予定を聞いても、「パパに聞いてね」って教えてくれないの。
だから早くお返事ちょうだいね。絶対よ。
そうそう、このあいだママと一緒に作ったベリーのケーキがとても上手にできたの。
夏のお休みまでにもっと練習するから、楽しみにしていてね。
レイチェル
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ホルン国 陸軍本部
周辺国との同盟が進むホルン国には、古い風習が根強く残る村が多数存在し、国をあげて実態調査が行われることとなった。
「以上、解散」
2階の会議室に集められた10名の男たちは、敬礼の後出ていく。
手前に座って会議に参加していたレックスは、赤茶の髪をかきながらため息を吐いた。
軍の作戦会議はあまりにも堅苦しく、とにかく長い。
午後の日差しが暑い頃から始まった会議はとっくに夕日の時間にかわり、隣接する寮の食堂から夕食のにおいが漂ってきた頃に会議は終わったのだった。
「レックスさん、お疲れさまっす」
「次の対象はなにに決まったのですか?」
廊下に出てきたレックスに二人の男が寄り軽く敬礼をする。
レックスと同じチームのアレフとケビンは、長引いている会議の間も待機をしていたらしく軽く伸びをして歩き出した。
「あぁ、南のロル村……だ」
先ほど決まった次の任務は、ホルン国の南一帯を覆うローレルの山の中にあるロル村であり、実態調査の名目で実際に村へ訪れ、報告をするというものだった。
そしてその任務をレックス率いる第三部隊が任されることとなった。
「あの山の中の村っすか……遠足なんて距離じゃないですよ!」
「アレフ……レックスさんに言っても仕方ないですよ」
アレフと呼ばれた銀髪の男は自分を制止する声で、ここが本部の会議室の目の前であることを思い出して小声になる。
幸い、まだ中に居る上層部の者に届いた様子はない。
「でも、そんな程度の調査に3人も出すなんてなにを考えてるんだかってかんじですよ」
「ローレルの山は自然豊かだと聞いているし、軽い息抜きのつもりで行こうじゃないか」
会議室から歩き出した廊下の突き当たりから階段を下る。
先ほどから届く良い香りに誘われるように寮へ続く渡り廊下へと三人は歩き出した。
本部の建物と寮を繋ぐ廊下でレックスは二人へ振り返り背筋を伸ばす。
「アレフ、ケビン、明日は6時にロル村へ向けて発つ。日没前には到着予定だ」
「了解」「了解っす」
「では、本日は解散」
三名の敬礼が終わり、廊下へ足を踏み入れたレックスは振り返ると
「今日の夕飯なんだろな」
と目を細めた。