その差は一定
背伸びをしてみた
彼方は不思議そうに私を見下ろした
笑いかけてみた
彼方はにっこり笑って私の頭を撫でた
答えてみた
彼方はよくできたねと私に飴玉をくれた
どうやっても
彼方の中では子どもな私
確かに彼方よりもずっと年下な私だけど
でも 少しくらい意識してくれたっていいじゃない?
お洒落してみても
お酒飲んでみても
全然相手にされない
冗談を言っても大人の余裕?
すぐにかわされる
仕事 仕事で全然遊んでくれないし
同僚と一緒に飲み会に行ったとか言うし
格好いいのに
嫌な上司にぺこぺこ頭下げて
ちくちく嫌味言われて
それでも笑って
先輩にはからかわれ
後輩にはなめられ
同期には追い抜かされて
それでも道しるべのように
しっかり立ち続けている彼方の横顔は
なんて素敵なの
縛られたくないんだ
彼方はそういった
上にいったら責任増えるし
仕事も多くなる
僕には適度に食べられるお金と
たまに温泉に浸かりに行く時間があればいい
そうだね たまに君と釣りに行くのもいいかもしれないね
ふうん
格好良いけど
無精髭伸びてるよ
慌てて髭を剃りにいく彼方
なんてね
下着姿で一日ごろごろしていたって
たまの休日におっかなびっくり包丁握っても
情けないなあなんていつも私は笑ったりするけど
拗ねて それから困ったようにラジオをつける彼方は可愛い
こんなことくらい朝飯前って顔をしているくせに
いざやったら できなくて
結局そのままになった台所の棚作り
一緒にウォーキングやろうと買ってきた歩数計
昨日は朝まで試合観戦していたんだと眠ってしまったその日から使わなくなった
君にはいつも情けないところばかり見られてるよな
そうやって照れたように頭をかいた彼方
私が子どもの時から
彼方はそんな感じだったから もう慣れたよ
そう言うと彼方はほっとして
そうかと笑う
まて それは安心して良いのか?
真剣に聞いてくる彼方に私はまた笑う
格好つけで
分かりにくくて
損ばかりしているけれど
人を何よりも大切にする彼方
そんな彼方にいつもいつも素直になれずに
馬鹿にしたような言い方をしてしまう私だけど
本当は
誰よりも 大好きです
伝えたら
彼方の瞳が過去と現在を比べて
ようやく子どもから大人へ変わった私を映したのが分かった
そうかとだけ言って
彼方は黙る
私はそれじゃあねとだけ言って 次に会う約束もせずに別れた
ぶらり ぶらり
痛む足 じわり出てくる涙
何もかも振り切って仕事に打ち込み
やがて幾日かが飛ぶように過ぎた
ある日仕事で
どうしようもなく落ち込んで
飲めるだけ飲んで酔っ払って
くらり ぼやけた頭でアパートに向かった
部屋の前には 月明かりに照らされた白と黒の人影
遅いよと いつものように拗ねた顔をして
それから ちょっと驚いた顔をした彼方は
子どもの頃のように頭を撫でた
何かあったのか?
頭を振った私
嘘をつくときはいっつもこんな顔するんだ 知ってるか?
変な顔をした彼方に思わず笑う
笑いながらそれでも涙をこぼした私に
仕方ないなあと目じりを下げながら あの時と同じに背中を優しく叩く
子どもじゃないよ
拗ねた私に知ってるよ と彼方は囁いた
だから 僕から告白するつもりだったのにな
びっくりした私に 彼方は
知らなかった? と謎めいた笑みを浮かべて
隠してきたからねと額にキスをする
やられた
今にも落ちそうな涙を見られないように
慌てて顔を背けてそのまま固まった私
その前に回りこんで
僕もずっと好きだったよと告白しながら
ありえないくらいに顔を真っ赤にさせて
ぎこちなく抱きしめたその手が
私を溶かす
本当にやられた
彼方と同じくらい
もしかしたら彼方よりも大人になったと喜んでいたのに
彼方はやっぱり私の前を行く
その差は絶対縮まらない
ねえ 可愛いオジサマ
ねえ 頼もしい彼方
これまで本当にありがとう
そしてこれからも
末永く よろしくお願いします