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19/22

何故とか、どうしてとか。理屈でどうこう言えるものじゃない


夜風舞う 薄暗闇の中に佇む灯りのように

花びらを時折散らせ 悠々眠る老桜

澄んだ月光に照らされた姿を見て

どうしてか ぞくりと粟立った


手に持つグラスのとろりとした液体は赤いのに

染まらず青白いままの肌

血に濡れたように光る唇を見て

どうしてか 胸が軋んだ


小雨降る まるで自らが虹だというように

鯉を遊ばせる 気まぐれな橋

向こうにどっしり構えた城を見て

どうしてか 懐かしい気持ちに襲われた


風が攫う ぽんぽん弾む手鞠のように

今にも割れそうな笛の音を背景に

僅かに触れた細い手を見て

どうしてか じんと頭が痺れた


さらりと落ちた横髪

萌え出づる新芽

力尽きた松の枝

疲れ伏した瞳

掠れた声に


どこか諦めも交じった焦燥に 憧憬

恍惚とした恐怖 自虐

それらをぼんやり感じた

でも何故だか分からない

自分で自分が分からない



それならば そう

不可解なこの気持ちだって

今まで感じたことのない 胸の中で小鳥が騒いでいるようなこの気持ちも

きっといつか終わりがくるのだろう


張り詰めた緊迫感も

狂おしく吹き荒れる嵐も

何かがつかえたような圧迫感も

もう手の届かないところにある寂しさも

全部気のせいではないけれど


きっとそれは枕木のように

旅路の中で何度も何度も出くわす標識のようなもので

たまに転びそうになりながらも

駅を過ぎていくのだろう



考えていたことを話してご覧 と促され

言ってみたら

お前はどうも朧でいけないね と苦い顔で笑われた

その小鳥はいずれ死んでしまうけれど 生かすも殺すもお前次第だよ と言われ

ますます考え込んだ

なら 小鳥がもっと騒ぐようなことをしてみなさい

そうすれば ほら もっと頬が赤くなる


楽しそうにあの方が言うものだから

慌てて走り出した

近づくあの方が一番小鳥を騒がせる

なら離れてはいけないんだろうけど でも

もう無理だ あのままだと茹蛸になってしまう日が近くなる


不可解な 説明がつかないこの気持ち

あの方の遠い目に吸い込まれてしまうような錯覚

これはいつ消えるのだろう

苦しいから早く静まれ

そう思いながら私は崩れ落ちた



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