第7話 そして異世界へ!
エルフの女性に導かれ、俺たちはダンジョンの突き当たりにある、陽炎のように揺らめく光の膜をくぐり抜けた。
その瞬間。
肌にまとわりつくような地下の湿気が消え、爽やかな風が頬を撫でた。
「え……?」
あかりが息を呑む。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの大草原と、その奥に広がる深い森。
そして見上げれば、青空には二つの月が浮かんでいた。
「ここ、地下じゃない……?」
「ああ。どう見ても外だ。けど、地球の空じゃないな」
俺は確信を持って頷いた。
銀座の地下に、こんな空間があるはずがない。
つまり、答えは一つだ。
「ダンジョンの正体は、別の世界へのトンネルだったってことか!」
「す、すごいです天城くん! 世紀の大発見ですよ! 異世界は本当にあったんです!」
「やったー! これなら特別ボーナス確定だろ!」
俺とあかりは顔を見合わせ、ハイタッチをして喜んだ。
視聴者数も爆発的に伸びている。コメント欄も『うおおおお!』『歴史的瞬間』と大騒ぎだ。
だが、その喜びも束の間だった。
ズズズズズ……。
地響きが聞こえる。
森の向こうから、砂煙を上げて迫ってくる黒い集団が見えた。
オークだ。それも、さっきの一匹や二匹じゃない。百匹以上はいる軍勢だ。
「‡‡‡‡‡‡!!」
案内してくれたエルフの女性が、悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
あかりが真っ青な顔でタブレットを見た。
「あ、天城くん! コメント欄が!」
『助けてあげて!』
『見捨てるな!』
『エルフちゃんを守れ!』
『ここで逃げたら炎上確定だぞ!』
画面を埋め尽くす、救援要請の嵐。
目の前には、涙を流して震えるエルフ。
迫りくるオークの大軍。
(くそっ……こんなの、俺の仕事の範疇を超えてるだろ!)
俺は頭をガシガシとかきむしった。
異世界の戦争に加担する? 自衛隊も政府も通さずに?
後でどれだけ怒られるか想像もつかない。
だが、ここで逃げたら男が廃るし、何より――俺の月給二十五万円が危うくなる!
「ちいいいっ! どこかのお話みたいに将来、歴史問題になってもしらねーからな!」
俺は叫ぶと同時に、両手を前に突き出した。
「ナノ! 広域制圧モードだ! エネルギー残量は気にするな!」
『了解。派手に行くよ、駆!』
俺の咆哮に応え、体内から無数のナノマシンが溢れ出す。
それらは上空で黒雲を形成し、激しい電磁場を生成した。
「吹き飛べぇぇぇぇッ!!」
バリバリバリバリッ!!
天から降り注ぐ無数の雷撃。
科学的に再現された『落雷の雨』が、オークの軍勢を直撃した。
閃光が視界を白く染め、爆音が大地を揺らす。
オークたちが次々と吹き飛び、黒焦げになっていく。
ものの数十秒で、百匹いたオークの群れは壊滅状態となった。
「はぁ……はぁ……」
俺は膝に手をつき、荒い息を吐いた。さすがに疲れた。
エルフの女性が、信じられないものを見る目で俺を見つめ、それから地面に額をこすりつけて拝み始めた。
「天城くん……かっこよすぎです……!」
あかりも目を潤ませている。
コメント欄は『神回』『主人公最強』『スパチャ投げるわ』の嵐で、画面が見えないほどだ。
だが、俺は冷静さを取り戻しつつあった。
(これ以上ここにいたら、王様に謁見とか、勇者扱いとか、面倒なことに巻き込まれる予感しかしない……)
俺はサッとあかりの手を引いた。
「よし、帰るぞ」
「えっ? もうですか? せめて村でご馳走に……」
「馬鹿言え! これ以上長居したら、帰れなくなるぞ! 今のうちにトンズラだ!」
俺たちは呆気に取られるエルフさんにお別れの手を振り、逃げるように光の膜へと飛び込んだ。
『えーっ!』
『もっと見せろ!』
『村の様子は!?』
『続きはよ!』
配信終了間際、コメント欄は阿鼻叫喚の「もっと見たい」コールで埋め尽くされていたが、俺は見なかったことにした。
こうして、俺たちの初配信は、世界を揺るがす大スクープとなって幕を閉じたのだった。
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