第5話 はじめての配信
東京、銀座。かつて高級ブランド店が立ち並んでいた大通りの中央に、ぽっかりと開いた漆黒の穴。
それが『銀座ダンジョン』の入り口だ。
俺と星野あかりは、学園から支給された撮影用ドローンを連れて、地下第一階層へと足を踏み入れていた。
「そ、それじゃあ……配信、スタートします!」
あかりがガチガチに緊張しながらドローンのスイッチを入れる。
空中に浮かんだカメラのレンズが青く光り、俺たちの姿がネットの向こう側へと中継され始めた。
「ど、どうもー……新入生の星野あかりです……。こっちはパートナーの天城くんです……」
「……ういーす、えーっと……フォローとチャンネル登録よろしくでーす……(棒)」
俺は適当に手を挙げる。
やる気がないわけではない。ただ、どう振る舞えばいいのかわからないだけだ。
薄暗い石造りの通路を進んでいくと、さっそく前方から獰猛な唸り声が聞こえてきた。
「グルルゥ……!」
体長一メートルほどの巨大なネズミ、ジャイアントラットだ。三匹いる。
「ひっ! で、出ました!」
あかりが怯えてすくみ上がる。
無理もない。彼女の能力『ネガティブ・ブロードキャスト』は、戦闘向きというより広域制圧兵器(味方も巻き込む)だ。ここで使えば、視聴者まで鬱になって放送事故になる可能性がある。
(俺がやるしかないか)
俺は前に出ると、ポケットに手を入れたまま、指先をわずかに動かした。
ビシュッ。
ナノマシンが空気を圧縮し、見えない空気弾を生成。
指先から放たれたそれは、先頭のネズミの眉間に正確に命中した。
「ギャッ!」
一匹目が吹き飛ぶ。
残りの二匹が飛びかかってくるが、俺は最小限の動きでかわしつつ、ナノスウォームで床の摩擦係数をゼロにする。
ズサァーッ!
勢いよく踏み込んだネズミたちは、氷の上を滑るように盛大に転倒し、壁に激突して気絶した。
戦闘時間、わずか五秒。
「……ふう、なんとかなったな」
俺は額の汗を拭うフリをした。
あくまで『運良く勝てた』とか『武術の心得がある』風を装ったつもりだ。
しかし、空中に投影されたコメント欄の反応は冷ややかだった。
『は? 何今の』
『ヤラセ乙』
『敵弱すぎだろwww』
『男のほうが全部倒してんじゃん、つまんねー』
『横の女の子に戦わせろよ!』
『空気読めない主人公だな』
「うわぁ……」
コメント欄が荒れている。
俺の戦い方が地味すぎて『映え』ない上に、あかりに活躍の場を与えていないことが不満らしい。
「あ、あの……天城くん、すごいですね! 魔法みたいでした!」
あかりだけは目を輝かせて褒めてくれるが、視聴者の評価は散々だ。
『駆、支持率回復どころか、アンチが増えてるわよ』
(うるせーな! 派手にやってバレるよりマシだろ!)
ナノのツッコミを無視して、俺たちはさらに奥へと進んだ。
その後も、飛び出してくるゴブリンやコウモリを、俺がナノマシンでこっそり処理する展開が続く。
コメント欄には『俺TUEEE系かよ』『飽きた』『解散』の文字が並び、同時接続数は減る一方だ。
「はぁ……こりゃインセンティブは期待できそうにないな」
俺ががっくりと肩を落とした、その時だった。
「キャァァァァァァァッ!!」
ダンジョンの奥深くから、女性の悲鳴が響き渡った。
「えっ!?」
俺とあかりは顔を見合わせる。
今の声は、ただ事ではない切迫感があった。
「天城くん、今のって……!」
「ああ、他の配信者か!? 行くぞ、星野!」
俺たちは配信のことも忘れ、悲鳴の聞こえた方角へと駆け出した。
その先に待ち受けるものが、単なるモンスターではないことを、この時の俺たちはまだ知らなかったのだ。
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