第24話 コンビニ頂上決戦! 唐揚げを巡る聖戦
領地のコンビニ『異世界一号店』。
ここは今や、種族や立場を超えた憩いの場となっていた。
だが今日、その平和な店内に、世界を揺るがすほどの緊張が走っていた。
場所はレジ横。
ホットスナックのガラスケース前だ。
そこには、最後の一つだけ残った『プレミアム激辛チキン』が、寂しげに、しかし黄金色の輝きを放って鎮座していた。
「……あ」
「……む」
「……ッ!」
三つの手が、同時にそのチキンへ伸びた。
一人は、我が領地の主権者である国王ガリウス十四世。
一人は、北の脅威である魔王アークレオン。
そしてもう一人は、先日泣いて帰ったはずなのに、変装をしてこっそり来店していた勇者アレクだ。
三人の視線がバチバチと交差する。
国王の威厳、魔王の覇気、勇者の闘気。三色のオーラが店内で激突し、ポテチの袋がパンパンに膨れ上がった。
「……退け、若造ども」
ガリウス王が低く唸る。
「余が先に並んでいた。このチキンは、余の今日の晩酌(コーラ割り)のアテになることが法で決まっておる」
「ハッ! 笑わせるな人間!」
魔王アークレオンが鼻で笑い、鋭い爪を見せつけた。
「我輩はこのチキンのために、魔界から超音速で飛んできたのだ! 貴様の遅い足とは覚悟が違う! 実質、我輩が予約していたも同然!」
「待った!!」
サングラスを投げ捨て、勇者アレクが聖剣(鞘に入ったまま)を構える。
「悪にこの神聖なチキンを渡すわけにはいかない! これは正義の味方のエネルギー源だ! 優先権は常に正義にある!」
「黙れマザコン!」
「誰がマザコンだ! 母さんのシチューよりこのチキンが好きなだけだ!」
三つ巴の言い争いがヒートアップする。
「余のものじゃ!」
「我輩のものだ!」
「俺のだ!」
ゴゴゴゴゴ……!
店内の照明が点滅し、自動ドアが誤作動を繰り返す。
このままでは、チキンどころかコンビニが消滅しかねない。俺が止めようとした、その時だった。
「あー、お客様ー。困りますー」
気だるげな声が響いた。
レジカウンターの中に立っていたのは、店員の制服(ストライプ柄のシャツ)を着た佐藤だった。
彼はトングをカチカチと鳴らしながら、世界最強の三人に冷ややかな視線を送った。
「店内での魔法、抜刀、および威圧行為は禁止ですー。出禁にしますよー?」
「ぬっ……!?」
「き、貴様は爆破男……!」
佐藤の『出禁』という言葉に、三人がビクッと震えた。
ここを追い出されたら、二度とコーラもチキンも手に入らない。それは死よりも辛い罰だ。
「で、でも店員よ! チキンは一つしかないのだぞ! どうすればいいんじゃ!」
ガリウス王が悲痛な叫びを上げる。
佐藤は「ちっ、めんどくせーな」と小声で呟くと、カウンターに肘をついて言った。
「じゃあ、アレで決めてくださいよ」
「……アレ?」
「『じゃんけん』っすよ」
店内が静まり返った。
「じゃん……けん……?」
「拳による決闘か……望むところだ!」
魔王が拳を握りしめる。
「ちげーよ! こうやって、グー、チョキ、パーを出すんだよ!」
佐藤は三人に『じゃんけん』のルールを説明した。
石はハサミを砕き、ハサミは紙を切り、紙は石を包む。
シンプルかつ、絶対的な三すくみの理。
「な、なるほど……! 魔力も膂力も関係ない、純粋な『運』と『読み』の勝負か……!」
「面白い。この魔王アークレオン、受けて立とう!」
「正義の御加護があれば負けはない!」
三人は、まるで世界の命運を賭けたかのような真剣な表情で、互いの拳を見据えた。
「いくぞ……」
「望むところじゃ……」
「正々堂々……!」
佐藤が審判として手を上げる。
「さーいしょーは、グー!!」
ドォォォォン!!
三人が出した「グー」の衝撃波で、店内の窓ガラスがビリビリと震える。
「じゃん、けん……ッ!!」
「「「ポンッ!!!」」」
三つの拳が突き出された。
王様:パー(紙)
魔王:チョキ(ハサミ)
勇者:グー(石)
……あいこだ。
完璧な三すくみ。
「ぬうぅッ!?」
「やるな貴様ら!」
「まだだッ!」
「あーい、こーで……ッ!!」
「「「ショッ!!!」」」
王様:チョキ
魔王:グー
勇者:パー
またしてもあいこ。
三人の呼吸が完全にシンクロしている。互いの力を認め合った強者だからこそ起きる、奇跡の均衡。
「はぁ……はぁ……!」
「なかなか……やるではないか……」
「お前たち……敵ながら天晴れだ……」
十回連続のあいこの末、三人は肩で息をしながら、互いにニヤリと笑い合った。
そこには、種族も立場も超えた、奇妙な『友情』が芽生えていた。
「……ふっ。これ以上争っても、チキンが冷めるだけじゃな」
「違いない。……どうだ人間ども。ここは一つ、痛み分けとしないか?」
「……ああ。平和的解決こそ、真の正義かもしれないな」
三人は頷き合うと、佐藤に向かって声を揃えた。
「「「店員! 包丁を貸せ!」」」
数分後。
コンビニのイートインスペースにて。
王様、魔王、勇者の三人が、仲良く一つのテーブルを囲んでいた。
その中心には、綺麗に三等分された『激辛チキン』が置かれている。
「では……」
「「「乾杯!!」」」
彼らは同時に小さなチキンを口に放り込み、同時にコーラで流し込んだ。
そして、同時に満面の笑みを浮かべた。
「「「美味いッ!!」」」
俺はその様子をカメラに収めながら、深く頷いた。
武力でも魔法でもない。
『じゃんけん』と『割り勘』の精神が、この異世界に真の平和をもたらした瞬間だった。
「……ただ、売上あがんねーな、これ」
佐藤のぼやきだけが、平和な店内に虚しく響いた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




