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ナノマシンで魔法チートな俺、政府に放り込まれてダンジョン配信することになりました  作者: 塩野さち


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第23話 黄金のソースと、スパイス革命

 領地開発は留まるところを知らない。

 コンビニ、温泉、ウォシュレット付きゲストハウス。

 そしてついに、俺が熱望していた『あの店』がオープンした。


 黄色い看板に、スプーンを持ったコックさんの絵。

 店名は――『カレーハウス・ココニアル』。

 日本の国民的カレーチェーンを誘致(というか、ほぼ完コピした店舗をナノマシンとゼネコンで建設)したのだ。


「うおおおお! この匂い! たまんねぇぇぇ!」


 佐藤が店の前で鼻をヒクヒクさせて絶叫する。

 換気扇から漂う、クミンやコリアンダー、カルダモンが混ざり合った刺激的な香りは、まさに暴力的なまでの食欲増進剤だ。


「日本では週3で通ってました……。アタシ、チーズトッピングで幸せになりたいです……」


 あかりも目がトロンとしている。

 俺たちは開店と同時に店になだれ込んだ。




 店内は、異世界の住民たちでごった返していた。

 彼らにとって、『スパイス』は薬としても使われる貴重品だ。それがふんだんに使われた料理となれば、注目されないはずがない。


 カウンターの隅では、ベアトリクス団長が顔を真っ赤にしてスプーンを握りしめていた。


「くっ……! か、辛い……! 口の中が燃えるようだ……!」


「団長、無理しないで『普通』にすればよかったのに……」


 俺が声をかけると、彼女は涙目で睨んできた。


「馬鹿を言うな! 騎士たるもの、最高ランクの『10辛』に挑まずして何が挑戦か! ……あぐっ! み、水をくれぇぇぇ!」


 どうやら「辛さを選べる」というシステムが、騎士のプライドに火をつけてしまったらしい。彼女はジョッキの水を一気飲みしながらも、スプーンを止めようとしなかった。

 辛い。でも美味い。その無限ループにハマっているようだ。


 一方、テーブル席では、奇妙な光景が広がっていた。


「余は『ロースカツカレー』にチーズをトッピングする! これぞ王者の風格!」


「フン、甘いな人間よ。我輩は『ハンバーグカレー』にほうれん草、さらにソーセージを追加だ。肉と野菜の完全なる調和を見よ!」


 ガリウス王と魔王アークレオンが、向かい合ってカレーを食べていた。

 かつて世界の覇権を争っていた二人が、今はトッピングのセンスを競い合っている。


「ぬうぅ……やるな魔王。ならば余は、福神漬けを大量投入して食感にアクセントを加える!」


「なんと!? あの赤くてカリカリした魔法の野菜を!? ……くっ、ならば我輩は『特製スパイス』を振りかけ、香りを立たせる!」


 二人の額には玉のような汗が浮かんでいる。

 彼らはカレーを一口食べるたびに、「うまい!」「辛い!」「たまらん!」と唸り声を上げ、ジョッキの水を干し、またカレーを食らう。

 まさに、カレーという名の平和条約だ。




 この日を境に、異世界全土に空前の『カレーブーム』が巻き起こった。


 冒険者たちはダンジョンに潜る前、「スタミナがつく!」と言ってカツカレーをガッツリ食べるのが習慣になった。

 魔法使いたちは、「スパイスの刺激が魔力回路を活性化させる」という怪しい論文を発表し、こぞって激辛カレーに挑んだ。


 店には連日長蛇の列ができ、その香りは風に乗って国境を越え、遠くの国まで届いたという。


「……はぁ。食った食った」


 俺は『パリパリチキンカレー(400グラム・1辛)』を完食し、満足げに腹をさすった。

 窓の外を見れば、人間も、エルフも、魔族も、みんな笑顔で黄色いライスを頬張っている。


「世界平和に必要なのは、聖剣でも魔法でもないな」


 俺は冷たい水を飲み干し、確信を持って呟いた。


「とろけるチーズと、福神漬けだ」


 こうして俺の領地は、『異世界一辛くて美味い場所』として、その名を歴史に刻むことになったのである。


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