第22話 勇者が殴り込んで来た
領地のコンビニ前に設置したテラス席で、俺たちはのんびりと配信を行っていた。
「はーい、どうもー。今日の『天城チャンネル』は、領地名物『特製ジャンボ豚串』の食レポをお届けしまーす」
俺がカメラに向かって、脂の乗った巨大な豚肉の串焼きを振ると、コメント欄が『美味そう』『飯テロ』と流れる。
平和だ。魔王とのコーラ協定以来、魔族の客も増え、領地は順調に発展していた。
だが、その平和を打ち破る爆音が、上空から響き渡った。
「とぉぉぉぉぉぉッ!!」
ズドォォォン!!
コンビニの駐車場のど真ん中に、金色の光が着弾した。
アスファルトが粉砕され、土煙が舞い上がる。
「ゲホッ……なんだ!? また魔王か!?」
俺が身構えると、煙の中から一人の少年が現れた。
輝く黄金の鎧に、身の丈ほどもある聖剣。サラサラの金髪をなびかせ、いかにも『正義の味方』といった風貌のイケメンだ。
彼はビシッと俺を指差し、大声で叫んだ。
「見つけたぞ、天城準男爵! いや、魔王と結託し、世界を闇に染めようとする裏切り者め!」
「……は?」
「我が名は勇者アレク! 神の啓示を受け、貴様を討伐しに来た!」
勇者。
ファンタジー世界のお約束、魔王を倒す存在だ。まさか本当にいるとは。
「いや、ちょっと待て。結託っていうか、ただの通商条約で……」
「問答無用! 魔王に『黒い水』を貢ぎ、魔族を肥え太らせるとは言語道断! 覚悟ぉぉッ!」
勇者アレクは人の話を全く聞かないタイプだった。
彼は地面を蹴り、光の速さで突っ込んでくる。
「死ねぇぇぇ!」
「チッ、話が通じない奴だな! ナノ、防御モード!」
ガギィィィン!!
俺は咄嗟にナノスウォームを展開し、目の前に『不可視の盾』を作り出した。
勇者の聖剣が盾に弾かれ、火花が散る。
「ほう、防ぐか! だが、これはどうだ!」
アレクが剣を高く掲げる。刀身が眩い光を放ち始めた。
「聖剣奥義! シャイニング・ジャスティス・ブレイバー!!」
「名前ダサっ! おい佐藤、援護だ!」
「へいよ!」
横から佐藤が飛び出し、アレクの足元に手を触れた。
「爆ぜろ!」
ドォォン!!
小規模な爆発が起き、アレクがよろめく。
だが、勇者の鎧は伊達じゃなかった。爆風を魔法障壁で防ぎ、体勢を立て直してくる。
「くっ、卑怯な! 多勢に無勢とは、さすが悪の手先!」
「いや、お前がいきなり襲ってきたんだろうが!」
コメント欄も大騒ぎだ。
『勇者きちゃったよ』
『話通じねえwww』
『完全にKY(空気読めない)』
『コンビニ壊すなよ!』
『主人公、完全に悪役ムーブ』
アレクは聞く耳を持たず、さらに魔力を高めていく。
「こうなったら、この一帯ごと浄化してくれる! 極大消滅魔法、準備!」
「おい待て! ここには民間人もいるんだぞ!」
「悪に染まった土地など不要! 正義のためだ、犠牲になれ!」
完全に目がイッている。正義中毒だ。
コンビニが吹き飛ぶのはまだいい(保険に入ってるし)。だが、あかりや他の客が巻き込まれるのはマズい。
その時。
俺の後ろで震えていたあかりが、耐えきれずに声を上げた。
「や……やめてくださいぃぃ……!」
あかりの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「せっかくみんな仲良くしてたのに……どうして壊そうとするんですかぁ……! もう喧嘩はやめてぇぇ……!」
ブワッ。
あかりを中心に、どす黒い波動が広がった。
能力『ネガティブ・ブロードキャスト』――今回のお題は『ホームシック』だ。
波動が勇者アレクを直撃した。
「くらえ! 極大……消……滅……うっ!?」
アレクの動きがピタリと止まる。
振り上げていた聖剣が、カラン、と手から滑り落ちた。
「……あれ……?」
アレクの膝がガクガクと震え始める。
彼の脳裏に、故郷の風景が鮮烈に蘇っていた。
田舎の母ちゃんの笑顔。夕餉の匂い。温かいスープ。
「……か、母さん……」
勇者の目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「帰りたい……。こんな知らない土地で、なんで俺、戦ってるんだろ……。母ちゃんのクリームシチュー食べたい……」
彼はその場にうずくまり、子供のように泣き出した。
「うわぁぁぁん! おウチ帰るぅぅぅ! もう勇者とかやだぁぁぁ!」
戦意喪失どころではない。幼児退行だ。
さっきまでの威圧感はどこへやら、そこにはただの『マザコンの迷子』がいた。
『wwwwwwww』
『勇者、敗北』
『あかりちゃんの精神攻撃エグすぎ』
『ママのおっぱいでも吸ってろw』
『実家へ帰れ』
俺はため息をつき、泣きじゃくる勇者の肩をポンと叩いた。
「……ほら、駅までのバス代だ。これで帰れ」
俺は銀貨を数枚渡した。
アレクは「ありがとぉぉ……おじちゃん……」と鼻水をすすりながら受け取り、トボトボと、本当にトボトボと、夕日に向かって歩き去っていった。
「……勝ったけど、なんか虚しいな」
佐藤がポツリと呟く。
俺も同感だった。
「ま、平和が守られたなら良しとするか。……あかりちゃん、ナイスファイト」
「グスッ……アタシ、何もしてないですぅ……」
こうして、勇者の襲撃という一大イベントは、あかりの涙によって強制終了させられたのだった。
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