第21話 魔王アークレオンとコーラ税
コーラ騒動から数日後。
領地のコンビニ前で、俺が廃棄弁当の整理(という名のおやつタイム)をしていた時のことだ。
ズズズズズ……ンッ!!
空が急に暗くなったかと思うと、コンビニの駐車スペースに、観光バス三台分はありそうな巨大な黒竜が着陸した。
アスファルトがミシミシと悲鳴を上げる。
「うわぁ……また大物が来たな」
俺が呆れて見ていると、黒竜の背中から一人の男が飛び降りた。
漆黒の鎧に、燃えるような赤いマント。額からは立派な二本の角が生えている。
その背後には、コーラの箱を大事そうに抱えた魔族の使者、ヴァルガスが控えていた。
「天城準男爵か。我が名は――魔王アークレオン」
男は重低音ボイスで名乗ると、マントを翻して俺の前に立った。
圧倒的な威圧感。だが、その手にはしっかりと、さっきヴァルガスから受け取ったコーラのペットボトルが握られている。
「わざわざ魔王様ご本人が、何の用で?」
「うむ。ヴァルガスから報告を受けた。『聖なる黒い水』を湯水のように湧き出させる場所があると。……まずは、味見をさせてもらおうか」
魔王はキャップを器用に開けると、その黒い液体をグイッと煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!
「……ん? これは……良い……」
魔王の厳つい顔が、ふにゃりと緩んだ。
「この強烈な炭酸のキレ、そして脳を痺れさせる甘み……。ヴァルガスの報告以上だ。余はこれを『魔王専用飲料』として認定する!」
「はあ、どうも」
「そこでだ、天城!」
魔王は空になったボトルを握りしめ、高らかに宣言した。
「余は決めたぞ! 魔族領において、この『コーラ』を輸入し、販売を許可する! ただし――『コーラ税』を導入する!」
「……はい?」
俺は耳を疑った。コーラ税?
「魔族の民は皆、この黒い水に夢中だ。そこで、一本につき銀貨一枚の税をかける! そうすれば、莫大な税収が見込めるであろう!」
「まあ、そうでしょうけど……。で、その税金で何をするんです?」
魔王はニヤリと笑い、俺の領地の奥――湯気が立ち上る温泉施設を指差した。
「決まっておろう! その税収で、魔王城にも『温泉』を作るのだ!!」
「そっちかよ!」
ガリウス王といい、この世界のトップたちは風呂とジャンクフードに弱すぎる。
「監修はお前だ、天城! 余の城に、最高の露天風呂とサウナを作れ! これは魔王命令である!」
断れる雰囲気でもないので、俺はとりあえず既成事実を作ることにした。
「じゃあ魔王様。その契約、全世界に配信しましょうか」
「ほう、あの『動画』というやつか? よかろう、余の威光を知らしめてやるわ!」
俺はドローンを飛ばし、緊急ライブ配信を開始した。
タイトルは『【コラボ】魔王様とコーラ飲んでみた&重大発表』。
「どうもー、天城でーす。今日はスペシャルゲスト、魔王アークレオン様に来ていただきましたー」
「うむ。魔王である」
魔王がカメラ目線でコーラを掲げる。
その瞬間、コメント欄がかつてない速度で流れた。
『ファッ!?』
『本物? CGじゃなくて?』
『角すげえ!』
『魔王がコーラ飲んでるwww』
『シュールすぎる』
『歴史的和平交渉がコーラ』
さらに、どうやら魔族領の若者たちも魔法的な手段で視聴しているらしく、コメント欄には魔界の文字も混ざり始めた。
『魔王様万歳!』
『コーラ税払いますから在庫増やしてください!』
『人間、意外と話わかるな』
『うちらも温泉入りたい』
人間と魔族が、コメント欄で「コーラうめぇ」と盛り上がっている。
平和だ。バカバカしいほどに平和だ。
配信終了後。
俺は領地で建設作業を続けていた、日本のゼネコン『山田建設』の現場監督を呼び出した。
「……というわけで、魔王城に温泉を作りたいそうなんですが」
俺が恐る恐る尋ねると、ヘルメットを被った監督は、ニカッと白い歯を見せた。
「魔王城!? いやぁ、男のロマンですねぇ! やらせてください! 日本の建築技術、魔界に見せつけてやりますよ!」
「おっ、頼もしい! 資材の運搬は俺の『黒鉄』とナノマシンで補助しますんで」
「任せといてください! マグマ風呂だろうが氷河風呂だろうが、完璧に施工してみせます!」
こうして、魔王城のリフォーム工事が決定した。
俺はガリウス王だけでなく、魔王ともホットライン(と温泉パイプライン)で結ばれることになってしまったのだ。
「……引きこもりスローライフ、また遠のいたなぁ」
俺は夕日に染まる巨大な黒竜の背中を見送りながら、コーラで乾杯したのだった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




