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ナノマシンで魔法チートな俺、政府に放り込まれてダンジョン配信することになりました  作者: 塩野さち


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第19話 裸の付き合いと、ODA

 我が領地――通称『天城温泉郷』の露天風呂。

 雪化粧をした山々を望む絶景の中で、俺は湯船に肩まで浸かり、極楽気分を味わっていた。


「ふぅぅ……。やはり、昼間から入る風呂は格別じゃのう」


 隣で同じように唸っているのは、この国の国王、ガリウス十四世だ。

 頭に手ぬぐいを乗せ、すっかり日本の温泉文化に染まっている。一日おきに遊びに来る彼は、もはやVIPというより常連の銭湯おじいちゃんだ。


「王様、今日は公務いいんですか?」


「よいよい。ここでの視察も立派な公務じゃ。……それに、今日は待ち合わせがあってな」


「待ち合わせ?」


 俺が首を傾げた時だった。

 脱衣所の方から、一人の男が入ってきた。

 年齢は五十代半ば。鍛えられた体つきではないが、背筋がピンと伸び、眼鏡の奥の瞳には理知的な光が宿っている。

 彼は腰にタオルを巻き、片手には洗面器。完璧な『日本の入浴スタイル』で湯船に近づいてきた。


「失礼します。……ご一緒させていただいても?」


 男は丁寧に一礼すると、静かに湯船に入ってきた。


「ああ、構わんよ。……待っておったぞ、高島殿」


 ガリウス王がニヤリと笑う。

 俺は驚いて男を見た。


「え、知り合い?」


「初めまして、天城準男爵。私、外務省国際協力局の高島と申します」


 高島と名乗った男は、湯船の中で名刺を出すわけにもいかず、濡れた手で軽く会釈をした。

 外務省の高官が、なんでまたこんなところで裸の付き合いを?


 すると、ガリウス王が桶に入れた日本酒(売店で買ったワンカップ)をちびりと舐め、真剣な眼差しで切り出した。


「のう、高島殿。日本には、『政府開発援助(ODA)』というものがあるんじゃろ? ちと、その話に乗ってもらえんかのう」


 俺は思わず湯船の中で滑りそうになった。


「ぶふっ! ……王様!? なんでそんな専門用語知ってるんですか!?」


 コンビニの唐揚げとウォシュレットにしか興味がないと思っていた王様の口から、まさかODAなんて単語が出るとは。

 しかし、ガリウス王は涼しい顔で続ける。


「天城よ、余を甘く見るでない。コンビニに置いてある『新聞』や『週刊誌』は、毎回隅々まで読んでおるわ。……貴殿らの国の経済力、技術力、そして外交政策。すべて研究済みじゃ」


 王様の目に、一国の君主としての鋭い光が宿る。

 ただ遊んでいたわけじゃなかったのか。この人は、日本の文化を楽しみながら、虎視眈々と国益を探っていたのだ。


 高島は、眼鏡を湯気で曇らせながらも、感心したように頷いた。


「これはこれは……。陛下は我が国について、大変よく研究されておりますな。単なる文化交流にとどまらず、経済協力の枠組みにまで言及されるとは」


「うむ。我が国には資源がある。貴国には技術がある。……無償資金協力、あるいは円借款。形はどうあれ、インフラ整備の対価として、我が国のレアメタル採掘権を優遇してもよいぞ?」


 ガリウス王の提案に、高島の目の色が変わった。

 これは、ただの世間話じゃない。国家レベルの外交交渉だ。しかも、裸で。


「……ふふっ。承知いたしました。詳しい話は、風呂のあとにゆっくりと」


「うむ。湯上がりのコーヒー牛乳でも飲みながら、詰めることにしよう」


「天城さん、通訳をお願いできますか?」


 高島に振られ、俺は呆然としながら頷いた。


「は、はい……」




 風呂上がり。

 ゲストハウスの畳敷きの部屋で、浴衣姿の王様と高島、そして俺は卓袱台(ちゃぶ台)を囲んでいた。

 俺はナノマシンの翻訳機能をフル稼働させ、二人の会話を中継する。


「――つまり、王都から港までの街道整備と、上下水道のプラント建設。これを日本のODA案件として申請したい、と」


「左様。その見返りとして、北部の鉱山地帯への日本企業の立ち入りを許可する。……悪くない話であろう?」


 ガリウス王は、腰に手を当ててフルーツ牛乳を一気飲みしながら、とんでもなくしたたかな交渉を行っていた。

 高島も、電卓スマホを叩きながら唸る。


「……素晴らしい。外務省としては願ってもない申し出です。すぐに本省と調整に入りましょう」


 交渉成立だ。

 俺は通訳しながら、冷や汗をかいていた。


(この王様……ただの『ウォシュレット大好きおじさん』じゃなかった。日本を取り込んで、自国を一気に近代化させる気だ……)


 ガリウス王は、空になった牛乳瓶をコトンと置くと、俺に向かって悪戯っぽくウインクした。


「天城よ。……貴族ノブレス・オブリージュの務めとは、民に恩恵を与えることと言ったであろう? 余も王として、利用できるものは全て利用させてもらうぞ」


「……参りました。王様、あんた最高だよ」


 俺は降参して両手を上げた。

 こうして、俺の領地である『天城温泉郷』は、単なる保養地から、異世界と日本を結ぶ『外交の最前線』へと、ますます重要な場所になっていくのだった。


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