第18話 王様、ウォシュレットに敗北する
ベアトリクス団長の忠告を受け、俺は「領地の安全性と快適性」をアピールするため、国王を招待することにした。
完成したばかりの日本国大使館(仮)――というか、鉄筋コンクリート造りのゲストハウスだ。
「……ここが、天城の作った魔城か」
現れたのは、この国の王、ガリウス十四世だ。
立派な髭を蓄え、威厳たっぷりのマントを羽織っているが、その目は「怖いもの見たさ」でキョロキョロと動いている。
「魔城じゃありません。快適な宿泊施設です。さあ、まずは旅の疲れを癒やすために、こちらへどうぞ」
俺は王様を、一階の奥にある『個室』へと案内した。
日本のTOTOの技術を結集し、ナノマシンで配管を完璧に再現した、最新鋭のトイレだ。
「うむ。では失礼して……」
ガリウス王は重々しく頷き、トイレに入っていった。
扉が閉まる。
俺とベアトリクス、そして護衛の兵士たちが廊下で待機する。
数十秒後。
「うおっ!?」
中から王様の驚いた声が聞こえた。
ベアトリクスが「陛下!?」と剣に手をかける。
「暖……かい……? 便座が、人肌のように……!?」
どうやら暖房便座に感動しているらしい。
だが、本番はここからだ。
さらに数分後。
「ヒィィィィィィヤッハー!!??」
王城では絶対に聞いてはいけないような、裏返った絶叫が響き渡った。
「へ、陛下ッ!! 曲者かッ!!」
ベアトリクスがドアを蹴破ろうとするのを、俺は全力で止めた。
「待て待て! 攻撃じゃない! 『洗浄』だ!」
「洗浄だと!? あのような断末魔が洗浄なものか!」
ガチャリ。
ドアが開いた。
そこには、どこか遠い目をして、恍惚の表情を浮かべたガリウス王が立っていた。
足取りはフラフラとしている。
「……ベアトリクスよ」
「は、はい! ご無事ですか!」
「……すごいぞ。余の尻が……洗われた。的確に。優しく。そして温水で……」
王様は俺の両手をガシッと握りしめた。
「天城殿! あれはなんだ! 水魔法の精霊を便器に飼っているのか!?」
「いいえ、『ウォシュレット』という科学の粋です」
「ウォシュレット……! なんという快楽の泉……! 余は、今まで紙や葉っぱで拭いていたのが野蛮に思えてきたぞ……」
王様は完全に骨抜きにされていた。
尻を清められた王様を、次に俺は領地内にオープンしたばかりの『コンビニ』へと案内した。
日本の大手コンビニチェーンが出店した、異世界一号店だ。
ウィィィン。
自動ドアが開くと、冷房の効いた涼しい風が吹き抜ける。
「なっ、扉が勝手に!? それに、なんだこの涼しさは! 氷魔法か!?」
「エアコンです。さあ、こちらへ」
俺は王様をホットスナックコーナーへ連れて行った。
「これが『からあげクン(レッド)』。こっちが『ファミチキ』的なやつです。どうぞ」
王様は恐る恐る、黄色い紙袋に入った揚げ物を口にした。
サクッ。ジュワッ。
「!!!!!」
王様の目がカッと見開かれた。
「う、美味いッ! なんだこのジューシーな肉は! それにこの絶妙なスパイス……王宮の料理人が作る鳥料理より美味いではないか!」
「ついでにこの『コーラ』で流し込んでください」
「シュワシュワする黒い水だと……? ……プハァーッ! 刺激的! これは悪魔の飲み物だ!」
ガリウス王は、左手にチキン、右手にコーラを持ち、コンビニのイートインスペースで足をブラブラさせながら叫んだ。
「決めた! 余はここに住む!」
シーン……と店内が静まり返った。
ベアトリクスが青ざめる。
「へ、陛下!? 何を仰いますか! 王城へお戻りください!」
「嫌だ! 城のトイレは寒いし硬い! 飯も冷めている! 余は毎日ウォシュレットで尻を洗い、このチキンと黒い水を飲んで暮らすのじゃ!」
「子供みたいなこと言わないでください!!」
王様は椅子の背もたれにしがみつき、「ヤダヤダ!」と駄々をこね始めた。
一国の王としての威厳は、ウォシュレットの水流と共に下水へと流れていったようだ。
「……天城、なんとかしろ」
ベアトリクスが殺気立った目で俺を睨む。
俺はため息をつき、王様に提案した。
「王様。ここに住むのは無理ですが……『VIP会員パス』を差し上げますよ。これがあれば、いつでも優先的にトイレとコンビニを使えます」
「む……いつでもか?」
「はい。なんなら毎日来てもいいです」
「……ならば、よし!」
結局、ガリウス王はベアトリクスに首根っこを掴まれて強制送還された。
だが。
「やあ天城殿! 今日も尻を借りに来たぞ!」
二日後、王様は満面の笑みでやってきた。
さらにその二日後も。
またその二日後も。
ガリウス王は一日おきに『公務』と称して我が領地を訪れ、ウォシュレットを堪能し、コンビニで新商品を買い漁って帰っていくようになった。
おかげで、俺の領地は『王様公認の保養地』として、ますます発展(とカオス化)していくことになったのである。
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