第17話 女騎士団長、苦言を呈す
数日後。
日本での用事を済ませ、ナノマシンの補充も万全になった俺たちは、再びダンジョンをくぐって異世界の『我が領地』へと戻ってきた。
静かな湖畔、小鳥のさえずり、風の音――。
そんな癒やしの空間が広がっているはずだった。
ガガガガガガッ!!
ピィー、ピィー、バックします。
ウィィィィン!!
「……うるさっ」
ゲートを出た瞬間、俺たちを出迎えたのは、爆音と土埃だった。
湖のほとりには数台の重機が唸りを上げ、屈強な作業員たちが鉄骨を組み上げている。
日本のゼネコン、仕事が早すぎる。
「うわぁ……もう基礎工事が終わってますよ」
あかりが目を丸くする。
佐藤も呆れたように笑った。
「すげえな。魔法と重機のハイブリッド工法か? こりゃあっという間にビルが建つぜ」
俺が呆然と変わりゆく景色を眺めていると、工事現場の向こうから、カツカツと金属音を響かせて歩いてくる人影があった。
白銀の鎧に、厳しい表情。
以前、国境問題で揉めたあの女騎士団長だ。
「……やっと戻ったか、天城準男爵」
彼女は俺の目の前で立ち止まり、仁王立ちになった。
機嫌はすこぶる悪そうだ。
「よう、久しぶりだな。えーっと、名前なんだっけ?」
「……ベアトリクスだ! 何度言わせる気だ!」
女騎士団長――ベアトリクスは、憤然として俺を指差した。
「貴様! これは一体どういうつもりだ!」
「どういうって……領地開発だけど?」
「開発だと!? これはどう見ても『侵略拠点』の設営だろうが!」
ベアトリクスは背後の重機を指差して叫んだ。
「見ろ、あの巨大な鉄の魔獣を! あんなもので地面を抉り、見たこともない鋼鉄の塔(プレハブ事務所)を一夜にして建てるとは……。王都の民は皆、恐怖で震え上がっておるぞ!」
「えっ? 怖がられてんの、俺?」
「当然だ! 街ではもっぱらの噂だぞ。『新任の準男爵は、異界の魔神と契約し、鋼鉄の軍団を召喚して世界征服を企んでいる』とな!」
俺はガーンとショックを受けた。
世界征服? とんでもない。俺はただ、快適なマンションとコンビニと、ついでにアマゾ〇の配送センターが欲しいだけなのに。
「誤解だって。あれはただの建設機械で……」
「問答無用! 陛下も頭を抱えておられる。『天城のやつ、金貨十万枚を渋ったかと思えば、今度は国そのものを乗っ取る気か』と!」
ベアトリクスは一歩詰め寄り、俺の胸倉を掴まんばかりの勢いで睨みつけた。
「いいか、天城。力を持つ者は、それを使う責任がある。貴様のように、無邪気に強大な力を振りかざす者が、一番タチが悪いのだ!」
「うぐっ……正論……」
俺は言葉に詰まった。
確かに、「適当に返事しまくった」結果がこれだ。現地の人からすれば、いきなり未知のテクノロジーで土地を改造されれば、恐怖以外の何物でもないだろう。
「……で、どうすればいいんだ?」
俺が助けを求めるように尋ねると、ベアトリクスは深くため息をつき、少しだけ表情を緩めた。
「……まずは、民の不安を取り除くことだ。貴様のその『開発』とやらが、我々にとっても利益のあるものだと証明してみせろ」
「利益、か」
「そうだ。恐怖ではなく、恩恵を与えよ。それが貴族の務めだ」
ベアトリクスはそう言い捨てると、マントを翻して去っていこうとした。
が、すぐに立ち止まり、背中越しにボソッと言った。
「……あと、その……あそこに建てている『温泉』とやらは、完成したら私にも一番風呂を使わせろ。……公務の疲れが取れると聞いた」
「……へいへい」
俺は苦笑いした。
どうやら、この堅物騎士団長も、日本の文化(と風呂)には興味があるらしい。
「しゃーない。ナノ、佐藤、あかり。やるぞ」
「何をです?」
「決まってるだろ。現地人向けの『大盤振る舞い』だ。ビビってるなら、餌付けして手懐けてやるよ」
俺はニヤリと笑った。
恐怖される魔王から、愛される名君へ。
俺の領地経営(イメージアップ戦略)が、ここから本格的に始まるのだった。
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