第16話 キャンプアニメと行列のできるアパート
王都の広場で、俺は約束通り仕事をした。
「領域展開・三次元立体都市計画図(3D・シティ・プランニング)!」
ブウゥン……!
王都の上空に、巨大で緻密な青い光の地図が展開される。どこに橋を架け、どこに水路を引くか、未来の都市図までシミュレーションされた完璧な代物だ。
「おおお! 素晴らしい! これぞ神の視点!」
王様は大喜びし、その場で俺に羊皮紙を渡した。
『準男爵』の叙爵状と、領地の権利書だ。
「貴殿を我が国の準男爵に任命し、北の湖畔の土地を与える!」
「ありがたき幸せー!」
俺は(心の中で悪代官のような笑みを浮かべつつ)恭しく頭を下げた。
こうして俺は、晴れて異世界の貴族様となったのである。
さっそく俺たちは、愛車『黒鉄』に乗って我が領地へと向かった。
到着したのは、王都から車で二時間ほどの場所にある、静かな湖畔だった。
水は透き通り、緑豊かな森が広がり、遠くには雪化粧をした山々が見える。
「最高かよ……」
俺は車を降り、深呼吸した。
魔物もいない。人の気配もない。あるのは大自然と、俺たちの自由だけ。
「ここが全部、天城くんの土地なんですか?」
「ああ。固定資産税もかからない、正真正銘の俺の城だ」
俺たちは湖のほとりに車を停め、サイドオーニングを広げてキャンプを始めた。
佐藤が焚き火を起こし、あかりがコーヒーを淹れる。
俺はリクライニングチェアに寝転がり、ドローンでその優雅な様子を配信した。
『癒やされるわー』
『ここが準男爵領か』
『景色良すぎ』
『異世界もの見てたと思ったら、ゆるいキャンプアニメ見てた件』
『飯テロやめろ』
コメント欄も平和そのものだ。
俺たちは川で釣った魚を焼き、満天の星空を眺め、泥のように眠った。
こんな生活が一生続けばいいのに。
だが、現実はそう甘くなかった。
『警告。ナノマシン残量、低下。一〇%を切ったわ』
翌朝、ナノの無慈悲なアナウンスが脳内に響いた。
あの巨大ホログラムを使った代償だ。
「……帰るか」
「ですね。命あっての物種ですし」
俺たちはわずか一泊で領地を後にし、ゲートを通って日本へ帰還した。
東京に戻ったその足で、俺たちは指定の大学病院へ直行し、ナノマシンの補充カプセルを処方してもらった。
これでしばらくは安心だ。
あとは中野のアパートに帰って、布団でゴロゴロするだけだ。
そう思っていた。
「……なんだこれ」
アパートの前に着いた俺は、絶句した。
俺の部屋、二〇一号室の前から、階段、廊下、そしてアパートの外の通りまで、黒いスーツを着た大人たちが長蛇の列を作っていたのだ。
「あ! 帰ってきましたよ、天城準男爵だ!」
誰かが叫ぶと、スーツの集団が一斉に俺に殺到した。
「天城様! 私、〇〇地所の者です! ぜひ異世界の領地の開発権を弊社に!」
「抜け駆けはずるいぞ! ウチは△△不動産です! マンション建設ならお任せを!」
名刺の雨あられが降ってくる。
さらに、身なりの良い役人っぽい人たちが割り込んでくる。
「東京都です! その領地、ぜひ東京都の『飛び地』として編入しませんか? 練馬区の次は異世界区です!」
「何を馬鹿な! 国土交通省です! 新しい国道を敷設しましょう! 異世界バイパス計画です!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はただ寝たいだけで……!」
俺が悲鳴を上げていると、最後にいかにもエリートそうな眼鏡の男が前に出てきた。
「外務省です」
場の空気がピリッとする。
「あちらの国と国交を結ぶにあたり、貴殿の領地に『日本国大使館』を建設したいと考えております。これは国家プロジェクトです」
「た、大使館……?」
不動産、自治体、国交省、そして外務省。
俺のささやかな領地が、いつの間にか日本の重要拠点になろうとしている。
佐藤とあかりは「うわぁ……」とドン引きして、俺の後ろに隠れてしまった。
「あーもう! わかった、わかったから!」
眠気と疲れで思考回路がショートした俺は、やけくそになって叫んだ。
「マンションでも道路でも大使館でも、好きに建てればいいだろ! あとでまとめて書類持ってこい! 俺は寝る!」
「「「ありがとうございますぅぅぅ!!」」」
大人たちの歓声がアパートに響き渡る。
俺は適当に返事をしまくりながら、逃げるように部屋へと飛び込み、鍵をかけた。
「……もうやだ、この国」
布団に潜り込みながら、俺は本気で異世界への永住を考え始めていた。
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