第11話 女騎士団長の尋問
ドラゴン族の少女を抱えて戦場を離脱し、街道沿いの雑木林で息を整えていた時のことだ。
ガシャガシャガシャ……。
重厚な金属音が周囲を取り囲んだ。
「そこまでだ、不審者ども!」
現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ騎士団の一隊だった。
その中心から、ひときわ立派なマントを羽織った女性が進み出てくる。鋭い眼光、腰まで伸びた金髪。いかにも『女騎士団長』といった風貌だ。
彼女は切っ先鋭い剣を、俺の鼻先に突きつけた。
「貴様ら、何者だ! どこの国の密偵だ! あの不気味な妖術で、我が軍の戦意を削いだのは貴様らか!」
殺気立っている。
あかりが「ひっ」と俺の背中に隠れ、佐藤が「やんのかコラ」と構えようとする。
俺は片手を上げて二人を制し、女騎士に向かってため息まじりに言った。
「まあ待てって。俺たちは怪しいもんじゃない。……いや、怪しいかもしれないけど、敵対するつもりはない」
「問答無用! 抵抗するなら斬り捨てる!」
女騎士が剣を振り上げた瞬間、俺はあかりの肩を抱き寄せた。
「おっと、いいのか? こいつをまた泣かせても」
「……なっ!?」
女騎士の動きがピタリと止まる。
俺はニヤリと笑い、脅しをかけた。
「ウチのあかりの『鬱』が発動したら、今度こそあんたらの軍は立ち直れなくなるぞ。全員が『来世はダンゴムシになりたい』って泣き崩れることになるが、それでもいいなら斬れ」
あかりが空気を読んで(というか単に怯えて)、ウルウルとした瞳で騎士団長を見上げる。
「うぅ……ごめんなさいぃ……」
その姿を見た瞬間、女騎士団長の顔色がサァーッと青ざめた。彼女は剣を引込め、ガタガタと震えながら後ずさる。
「ウッ、まさか……あの大規模精神破壊魔法の使い手……『悲しみの聖女』様か……ッ!」
その二つ名が出た瞬間、空中に浮かぶコメント欄が爆発した。
『ブフォwwwww』
『悲しみの聖女www』
『あかりちゃんの二つ名ダサすぎて草』
『鬱の聖女爆誕』
『騎士団長ビビりすぎワロタ』
『あかりちゃん、異世界でレジェンド級の扱い』
あかり本人は「せ、聖女……? アタシが……?」と困惑しているが、効果は絶大だった。
女騎士団長は剣を収め、悔しそうに唇を噛んだ。
「……わかった。そちらがその気なら、これ以上の戦闘は無意味だ。我々も全滅は避けたい」
「話が早くて助かるよ。で、なんであんたらはドラゴン族と戦争してたんだ?」
俺が尋ねると、女騎士は忌々しげに森の方を指差した。
「奴らが強欲だからだ! ドラゴン族は、貴重な資源のある『森』を独占し、我々人間に立ち入らせようとしない!」
すると、俺の腕の中で気絶していたドラゴン族の少女が、パチリと目を覚ました。
「……ちがう!」
少女は俺の腕から飛び降りると、小さな牙を剥いて騎士団長を睨みつけた。
「人間こそ、肥沃な『平地』を独占して、ボクたちを追い出したじゃないか! ボクたちは森で暮らすしかないんだ!」
「黙れトカゲ風情が! 平地は我々が開拓した土地だ!」
「森だってボクたちの狩場だぞ!」
ギャーギャーと言い争いが始まる。
俺と佐藤、そしてあかりの『日本組』三人は、顔を見合わせた。
(((……あれ?)))
三人の心が一つになった。
資源争いなのはわかる。だが、話を聞いていると、どうも噛み合っていない。
『あっちが全部取った』『こっちに入ってくるな』の水掛け論だ。
俺はこめかみを揉みながら、二人の間に割って入った。
「なあ、ちょっといいか」
「なんだ!」
「なによ、おにーちゃん!」
「あんたらさ、ひょっとして……『国境』って知ってるか?」
俺の言葉に、場が静まり返った。
女騎士団長がキョトンとした顔をする。
「……なんだそれは? 新しい魔法か?」
ドラゴン娘も首を傾げる。
「なあにそれー? おいしいの?」
「…………」
俺たちは無言で天を仰いだ。
佐藤が深くため息をつき、あかりが「あちゃー」と額に手を当てる。
「マジかよ……」
この世界には、明確な『国境線』という概念が存在しなかったのだ。
地図上に線を引いて「ここからここまでが俺の国」と決めるルールがない。だから、力の及ぶ範囲がすべて領土であり、相手がいる場所はすべて敵地になる。
そりゃあ、戦争が終わらないわけだ。
「……佐藤、あかり」
俺は二人の肩を組んだ。
「どうやら俺たちの次のミッションは、この異世界に『社会科』の授業をすることになりそうだぞ」
俺たちは揃って頭を抱えた。
月給二十五万円の業務内容に、『異世界での国境線画定交渉』が含まれているなんて聞いていない。
「騎士団長さん、ちょっと地図もってきて!」
俺はとりあえず、地図を見ながら、地面に線を引き始めた。
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「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




