第10話 いきなり人間vsドラゴン族の戦争!?
王都の城門へ近づこうとした、その時だった。
空気がビリビリと震え、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
「敵襲ーッ!! ドラゴン族だーッ!!」
衛兵の絶叫と共に、上空から数え切れないほどの影が舞い降りてきた。
翼を生やした人型の戦士たちだ。彼らは空中で体を捻ると、ボコボコと筋肉を膨張させ、巨大な鱗に覆われたドラゴンの姿へと変身した。
「グルルァァァッ!!」
「撃てぇぇぇッ!!」
城壁からは、人間の魔導師部隊が一斉に杖を掲げる。
炎、氷、雷。色とりどりの『大魔法』が放たれ、ドラゴンの吐く炎のブレスと衝突した。
ドォォォン!! ズガァァァン!!
目の前で始まったのは、映画も裸足で逃げ出すような大戦争だった。
「うわわわ! なんですかこれぇぇ!?」
あかりがパニックになって頭を抱える。
佐藤も冷や汗を流して空を見上げた。
「おいおい、洒落になってねえぞ! 流れ弾一発で俺ら消し炭だ!」
「落ち着け二人とも。とりあえず、これ飲んどけ」
俺は懐から小さなカプセルを取り出し、二人に投げ渡した。
中に入っているのは、医療用の高密度ナノマシンだ。
「……ああ、『補給』か」
佐藤は納得したように頷き、それを水なしで飲み込んだ。
俺たち能力者は、もともと先天的な超能力者ではない。
過去に事故や難病で瀕死の状態になり、治療のために投与された医療用ナノマシンが脳や神経に定着し、奇跡的に適合した人間――それが俺たちの正体だ。
だから時々こうして、ナノマシンを補充してやらないと体が持たない。
「よし、防御力アップだ。……にしても、このままじゃ街に入れないな」
目の前では、ドラゴンが人間を噛み砕こうとし、人間がドラゴンを槍で貫こうとしている。あまりに野蛮で、激しい殺し合いだ。
俺はため息をつき、あかりの肩をポンと叩いた。
「あかりちゃん、出番だ」
「えっ? こ、ここでですか?」
「ああ。この戦争を『強制終了』させてくれ」
あかりはおずおずと頷くと、深呼吸をして、戦場に向かって両手を広げた。
「……みなさん……どうして争うんですか……戦っても……虚しいだけですよぉ……」
能力、『ネガティブ・ブロードキャスト』発動。
不可視の波動が、戦場全体を包み込んだ。
その瞬間。
「グォ……? ……はぁ……俺、なんでこんなことしてるんだろ……」
一匹のドラゴンが、急に空中で脱力し、ドサッと地面に着地して体育座りを始めた。
それだけではない。
剣を振り上げていた騎士も、魔法を唱えていた魔導師も、次々と武器を取り落とし、地面に膝をついた。
「……家に帰りたい……母さんのシチューが食べたい……」
「来月の家賃……払えるかな……」
「俺の鱗、最近カサカサだしな……もう戦う気力なんて……」
「鬱だ…………」
戦場は一瞬にして、巨大な『お悩み相談室』の待合室のように静まり返った。
全員が地面を見つめ、深いため息をついている。
「……よし、制圧完了」
俺がサムズアップすると、コメント欄が爆発した。
『wwwwwww』
『戦争終わったwww』
『あかりちゃん最強説』
『電波越しでよかった、俺らまで鬱になるところだった』
『戦意喪失兵器恐ろしすぎる』
『平和的解決(精神攻撃)』
幸い、この精神干渉はカメラ越しには伝わらないらしい。視聴者は大爆笑だ。
戦意を完全に失ったドラゴン族は「……帰って寝よう……」とトボトボ飛び去り、人間側も「……今日はもう閉店……」と城内へ引き上げていく。
「ふぅ……なんとかなったな」
俺たちも撤退しようと背を向けた、その時だった。
「あっ!」
俺は瓦礫の陰に、小さな影を見つけた。
撤退するドラゴン族の群れに取り残された、一人の少女だ。
頭には小さな角、背中には未発達な翼。まだ変身もままならない、子供のドラゴン族だろうか。
彼女は怪我をしているのか、うずくまって動けないでいる。
「……見捨てるわけにはいかないよな」
俺は駆け寄り、その小さな体を抱き上げた。
少女がうっすらと目を開け、金色の瞳で俺を見る。
「……わたしを、どうするの……?」
「いや……とりあえず、助けるぞ」
その様子が配信に映り込んだ瞬間、コメント欄が再び加速したのを横目に、俺はその場を離脱した。
この行動がどういう意味を持つのかは、まだ分からなかった。
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