第四話:ホットな話題 兼好法師の懺悔室
「兼好様、お忙しいところすみません」
聖協会の庭内で座禅を組んでいると、若い騎士がやってきた。最近、人生相談を受けることが多い。この中世の世界観に合わせ、最近リメイクした『徒然草』は現世での独特な人生観が評判になっているらしい。
「どうした?」
「実は...モンスター退治の仕事に疲れました」
騎士――クリストフと名乗った。クリストフは重いため息をついた。
「毎日毎日、スライムを倒してゴブリンを倒して...何のために戦っているのか分からなくなって」
なるほど。この世界特有の悩みだが、本質的には現代のサラリーマンと変わらない。
「王国の平和のためだとは思わないのか?」
「それは…」
まあ、国のためだとか会社のためだとかで続けるのは難しいだろう。
「クリストフ殿、君はなぜ騎士になった?」
「父が騎士でしたし、当然かと...」
「当然、か」
私は立ち上がった。
「つれづれなるままに、と前世で書いたが、君の人生も『つれづれなるまま』になっていないか?」
「前世?」
「あ、いや、昔読んだ本の話だ」
危ない。つい転生のことを言いそうになった。
「要するに、惰性で生きていないか、ということだ」
クリストフは首をかしげた。
「でも、騎士以外に何ができるか...」
「例えば」私は境内の桜を指差した。「この花を見て、何を感じる?」
「綺麗...ですね」
「その感動を、誰かに伝えたいと思わないか?」
「え?」
「詩を詠むとか、絵を描くとか、歌を作るとか」
クリストフの目が少し輝いた。
「でも、それで生活できるでしょうか?」
「この世界なら案外できるかもしれん。魔法と芸術を組み合わせれば、新しい表現方法が生まれる」
実際、これは思い付きではなく、私がこの世界に生を受けてから考えていたことだ。私は魔法が使えないが、魔法で光を操って絵を描く芸術家や、魔法で音を増幅させる吟遊詩人いたっていいではないか。というか見てみたいのだ、この世界特有の輝きとやらを。
「それに」私は続けた。「人生は短い。嫌な仕事を続けて一生を終えるより、好きなことに挑戦した方がいいんじゃないか?」
「でも、失敗したら...」
「失敗しても死にはしない。また挑戦すればいい」
クリストフは考え込んだ。
「兼好様は、どうしてそんなに自由に生きられるんですか?」
私は苦笑いした。
「前世で...いや、私は2度、やりたいことをやらずに後悔した経験があるからかな」
「前世って、よく言われますが...」
「ああ、それは...」
私は慌てて話題を変えた。
「とにかく、一度きりの人生だ。後悔しないように生きろ」
クリストフは深く頭を下げた。
「ありがとうございました。少し、考えてみます」
彼が去った後、私は再び座禅を組んだ。
転生しても、結局は人の悩みを聞いている。でも、それが私の役割なのかもしれない。前世の知識を活かして、この世界の人たちが少しでも幸せになれるなら...
「つれづれなるままに、人助けでもするか」
私は小さくつぶやいた。




