30 薀蓄が長い
「もぉ~、起きてたなら教えてくださいよぉ」
「今、起きたのよ……」
気分がドヨヨンなのに、桜庭に突っ込む気力なんて沸かない。
桜庭はそんな私の気持ちを知ってか知らずが、ヅケヅケと部屋に入って来て、目の前の椅子に腰を下ろした。
「あっ! タタラバさん、メモ読んでもらえましたぁ?」
「うん。読んだ」
「リリィの物語、よかったんですけどぉ~」
「うん。だから読んだよ」
「赤いリボンもぉ~、キーとしてはよかったんですけどぉ~」
「うん。だから読んだってば」
「足りないんですよねぇ! こう、スッキリ感も逆転劇あるあるな、爽快感もぉ~」
「読んだってば!」
こいつ。わざと言ってないか? 傷口に塩を塗るとはこのことだ。
「でもぉ~、ルークさんたちには好評でしたよぉ? タタラすげぇな~って」
「それは、身内びいきだからじゃないの」
「んー。そうでもないと思うんですよねぇ。色々改善点的なものは書きましたけどぉ~」
そう言った桜庭は、自身が書いたメモを手に取り、それをペラペラと振る。
「私ってこーみえて~、編集者じゃないですか~? 基本『否定』はしないんですよぉ?」
そう言われ、ギロリと睨んでやる。してるじゃないか。これでもか!ってくらいに。
「こうしたらもっと良くなると思いまぁす! ってギリギリのラインを『提案』してるつもりなんですよぉ。編集者も最初から、完璧でもないですし、どうしたらいいんだろうか? って作家先生と一緒に考える立場? なんですよねぇ」
何言ってるんだコイツは。
お前のざまぁ論メモで、こちとら心が抉られている最中だ。それならもっと、気を遣えって話よ。
「私思うんですけどぉ。書き手さんって、それぞれ色とか匂いがありますよね~」
「色? 匂い? 作風ってこと?」
「それもですが、ちょぉ~っと違うんです。読んでいると、ほら。この人は女性だな? 何歳くらいだな? あーこの人は今、こういう環境にいるんだな? とかぁ?」
「お前はプロファイラーか」
「えー? でも、文字から感じません? 同じ文字の羅列なのに、その人のバックボーンだったり価値観だったり、自分自身の事をこう見て欲しい~という欲望や葛藤が反映されてるんだろ~なぁって。ざまぁってそれが如実に表れるんですよぉ」
「私の文章にも、そういうモノがあるってこと?」
「はい~。タタラバさん、ざまぁ、もしかしなくても『苦手』ですよねぇ? いいんです。言わなくてもわかりますよぉ」
おい、待て。
「言わなくてもって。私、ずっと言ってるよね!? むしろ、前からアピールしてるよね!? 苦手って」
「タタラバさんのぉ~、文章から感じるんですよねぇ。あー、苦手なんだろうなって」
話を聞け!
「タタラバさんは、ざまぁが苦手・書けないんじゃなくって、割り切りが出来てないんだと思うんですぅ」
なんだ? 割り切りって。なんか、微妙に腹立つけど聞いてやる。
「割り切りってなに」
「登場人物たちに、感情移入しすぎるんですよぉ。それがヴィラン側であっても、これはやりたくない・これはやりすぎる。どうにか救いたい。みたいなぁ? そこが「ぬるくなる」「冗長になる」原因だと思うんですよねぇ」
言ってる事の半分はわかる。だが半分は……。
「過剰なざまぁは、不必要でしょ」
「そこは同意しますけどぉ。読んでて引くレベルだと、スッキリ感どころか、もやもやしますからね。あくまでも主人公に寄り添ったざまぁでないと。ダメですよねぇ」
「リリィはそうじゃなかったんでしょ。そこは私にもわかってる」
「うーん。ってよりも、ざまぁされた側が、どうなったか。ってのが求められますよねぇ」
確かに。りりィの物語の継母と連れ子は、家門から破門されただけで、キー!て唇を噛んで終わらせてた。
「『そろほろ』わぁ~、その点凄くきっちり書いてましたよねぇ?」
当たり前だ。モデルは貴様だからな。
最後まできっちりざまぁ食らわせてやった。
「『そろほろ』のヴィランはある意味主役ですよねぇ? でもタタラバさん。そろほろのヴィランに感情移入してなかったでしょう? どちらかと言うと、ヒロインちゃん目線で書いてましたよねぇ?」
「そ! そんなことは!」
ある。
ありまぁ~す! 言えないけど。
「さっきのバックボーンって、そーゆー事だと思うんですぅ。そういう悔しさやストレスを吐き出せるのが『ざまぁ』的な~? 逆転劇っていうかぁ」
「でも、シンデレラも白雪姫も、因果応報じゃない。結局」
「そりゃそうですよぉ。だってあれ『ヒロイン目線』じゃないですかぁ? シンデレラだって、もしかしたら継母もぉ? 家門を守るために必死だったかもしれませんし? 変態王子に嫁がせるのはゆくゆくは家門をつぶすことになる! って思ってたかもしれませんしぃ?」
「なんで変態王子になってんのよ」
「だってぇ! 靴のにおいを~とか、フェチじゃないですか~」
「なら、白雪姫も、オーロラ姫も、なんならこの世の中の王子、何かしら変態だわ」
「それですよぉ~。個性です」
「個性で済ませるな! 絶対違う!」
「えー! 白馬の王子の正体なんてそんなものですよ~」
「お前には、乙女心はないのか!」
「ありますよぉ? でもほら。視点を変えたら『やべぇな』って個性があったほうが、物語のフックとしてはいいんですよぉ」
さっきから何が言いたいんだ。
「で、結局あんたは、何が言いたいの?」
「書き直してくださぁ~い! タタラバさんならできます! 応援してますぅ~」
ふざけんな!!
書き直せって一言で済むのに、ここまで、長いわ!!!
「だって私、多々良葉先生のこと、信じてますから」
桜庭はそう言って、ニッと私に笑顔を見せた。
『信じてる』
何を?
そう聞けばいいのに、なぜか桜庭の笑顔をみた後では、その言葉を出せなかった。




