29 ざまぁはやっぱり甘くない
『今年の芥川河賞・直木気賞、共に該当者なし。これは、28年ぶりのことだそうです』
『寂しいですねぇ。紙の書籍離れが言われる昨今、こういった歴史ある文学賞を取ったものは、業界でも注目作品になるのですが……。ただ最終候補まで残った4作品はどれも素晴らしく、甲乙つけがたいくらい拮抗していて該当なしとなったようですね』
テレビに映るのは、見覚えのある朝のワイドショー。
アナウンサーとコメンテーターの、軽妙なやり取りが流れる。
『なんでも、ざまぁと呼ばれる精度の差だったとか』
『それは大きなポイントですよね。ざまぁの流れはカタルシスを引き上げてくれる要素ですし』
『やはりざまぁの見せ場が一番肝心ですよね』
『そうなんです。ざまぁなんです』
ざまぁ!!!
「いやぁあっ!」
ガバっと身体を起こす。
「ゆっ……夢か……」
夢に決まっている。夢に……。
気づけば陽はとっくにあがっているようで。私は机に突っ伏して寝てしまったせいか、身体のあちこちが痛い。
「あっ! 食堂!」
昨日に引き続き、今日も大寝坊だ。慌てて立ち上がるがそこで新たな気づき。
机の上に書き上げた作品の紙はなく、代わりにペラペラのメモ書きが2枚残されていた。
ー多々良葉さん
昨夜は遅くまでお疲れ様でした。
初稿、確かに頂きました。
ルークさんには事情を話してあります。
本日の仕事は夕刻からでOKとのこと。
ゆっくりお休みください
桜庭ー
それを読み、大きなため息を吐いた。
「よかったぁ……」
桜庭あんた、やるときはやるじゃない。編集者魂、みせてもらったよ……。
椅子にポスっと腰を落としなおし、残るもう1枚の紙を手にする。
それを読んでみると
ー多々良葉さん
リリィと王子の恋愛モノで、ハッピーエンドはよかったです。
ざまぁも組み込まれており、そこに至る過程もわかりやすい。
赤いリボンと言うアイテムも印象に残り易く、キーとしても〇
但し
・ドアマット成分が足りなくて、リリィに共感できない
・魔法のリボンの効力の意味が解らない。説明不足
・王子の存在が浮く。ただ都合のいい存在になり下がっている
・描写不足。挿絵が無い場合、一定の描写は必要
・ざまぁ感・スカっと感が皆無
などなど、延々と紙いっぱいに「ざまぁが~」と書いていやがった。
お前は、ざまぁ評論家か! ざまぁ研究家か!
ざまぁ・ざまぁとうっせぇわ!
私にしてみたらあれで
『問題は無し!!!』
なんだよ!
……いや、あるか……。
桜庭が指摘しているところはどれも、覚えがある項目だった。
『ぬるめでいいか』
なんて思ったけど、流れまでぬるめで良いわけが無いじゃないか。
そして最後の行には
・これならもっと端的に纏めた方が良い。
とまで書いてあった。
『それだとあらすじと変わらないじゃないか!』
一瞬、キィッ! となったわたくし・タタラバ。
でもまたしても、その通りだなと思い直す。
何が足りない? 何が出来ていない? 何が……。
その「何が」を書いてくれているのだろうが、具体的に「どうすればいいわけ?」と言うのが無く、それを聞いたところで「それを書くのが、多々良葉さんのお仕事ですよぉ~?」って言われるだけだ。
はい。その通りでございます。
だから嫌なんだよ! ざまぁ書けないってば……。
じゃあ、それ以外なら書けるの? という話だが、そのことは「売れない」時点でお察しだ。
特に「ざまぁ」が苦手という話であり、ホラーなら? 推理ものなら? 歴史ものなら? となっても、結局同じであろう。
早い話、私には「才能が無い」のか「モノを書く・見る力が無い」のか、どちらもなのか。だ。
段々と凹んでくる。
分かって居た事が、知らない世界に転移してきてまで重くのしかかってくる。
桜庭による、タタラバ(私)へのざまぁの一環なのか!?
とさえ思えてくるのだから、重症である。
筆を置くか。いやもういっそのこと、筆を折るか。
そんなことを考えていたら
「タタラバさぁ~ん! 起きてたんですかぁ?」
呑気な桜庭の声が、開き放たれた部屋の扉のほうから聞こえて来た。




