27 ハイカブリ姫は、ざまぁの金字塔
「じゃあ、これで完成でいいのか?」
ロイスさんが、最後のネジを締め直しながら言った。
鉄板も氷機も、もうすっかり見慣れた気がしてきたけれど、よく見ればどちらも妙な愛嬌がある。特にパンダ。真鍮のくせに目がくりくりとしてて腹立たしく可愛い。
「あぁ。イイみたいだな。助かった! ありがとう」
ルークさんが立ち上がり、小袋をを差し出す。
言葉少なに渡された革袋の中で、コインが小さく鳴った。
「今日はごちそうさん! ま、当日は手伝いに来るよ。もしもの時、俺が居たらすぐ修理できるだろ。そん時はよろしくな!」
そう言って、ロイスさんは肩で風を切るように帰っていった。
金色の夕日が、パンダの耳を照らしていた。
★
夜の食堂の仕事を終え、寝支度も終わり、普段ならさぁ寝ようという時刻。
私はと言うと、机に突っ伏していた。
「…………………うぁぁぁぁぁぁぁ」
声にならない叫びが、地味に長く吐き出る。
ざまぁ。
ああ、ざまぁ。
書かなきゃいけなくなってる現実に、頭の中が最早『ザマァ』って言う効果音で満たされている。
「書けますよねぇ? タタラバ先生~」って。そう言いやがった桜庭は、隣のベッドで寝息を立てている。いい気なもんだな!
そして、あの『先生』のアクセント。完全に煽ってた。
……ざまぁ。
この世界にも、あるにはあった。分類名こそ曖昧だったが、街の書店で見つけたあの本。どれも似たような構成で、なんとなく既視感を覚えるものばかりだった。
でも……。
「ぬるいんだよね……」
そう。あっさりしすぎなのだ。
過激にしろとは言わないが、没入感が無いと言えば無い。
元居た世界で見て来た本を、ぼんやりと振り返ってみる。
その中でも、ふと浮かんだのが幼少期に読んだおとぎ話。
『シンデレラ』『白雪姫』『眠れる森の美女』
その他もろもろ。お姫様が出て来るようなお話ってどれも基本的に『ざまぁ』だよね? ってことは? 普遍的に求められるジャンルということなのだろうか?
シンデレラなんて、あからさまな『ドアマット』系。
白雪姫は『追放』もの。
眠れる森の美女は、ある意味『ヒーロー最強』系であり『悪役自滅型』だ。
そしてラストは『報われる』所謂、ハッピーエンド。
ブツブツと呪術か黒魔術かを操るように、紙に書き記して行く。
これが私のスタイル。
なんだっていい。まずは書きだす。そこから線を引き、矢印を引き。
言葉を繋げて行って、プロットを組み立ててゆく……のだが。
ここでまたしても『悪い癖』が出てしまう。
矢印の先に、整合性を担保しなければって考えてしまうのだ。
でも待って?
おとぎ話に整合性、ある? いや、あると言えばある。でも、ダラダラと説明してないよね?
例えばシンデレラ。非常に単純である。
・起
貴族の娘シンデレラは母を亡くし、父の再婚によって継母とその連れ子の姉二人が爆誕。その後、父・死亡。残された継母と連れ子の姉たちに虐げられる。召使いのように扱われながらも、内面は優しく希望を捨てずに暮らしている。
・承
王国で舞踏会が開かれ、すべての娘が参加を許される。継母に妨害されるが、魔法使い(妖精のおばさん)が現れ、シンデレラを美しく変身させてくれる。が、魔法は永遠ではなく「真夜中の12時には魔法が溶ける。だから必ず帰ってくること」と、約束を交わす。
・転
舞踏会で王子と出会い、惹かれ合う。しかし12時の鐘が鳴り、シンデレラは急いで城を後にする。逃げる途中、ガラスの靴が片方脱げてしまう。
・結
王子は国中の娘にガラスの靴を試す。シンデレラの家でも継母たちが妨害するが、最終的に彼女が靴に足を通し、王子に見つけられる。二人は結ばれ、幸せな結末を迎える。
ほら! 単純!
途中何かと、整合性が無い箇所あるぞ? でも成り立っているではないか!
原作はさすがにちゃんと(?)書かれているかもしれないが、端的にまとめて読みやすくなっている。しかも、ざまぁマナーも見事に満たしているではないか。さすがだ、シンデレラ。ざまぁの金字塔なだけあるな。
気が付けば、紙にはシンデレラのストーリーを書き殴りつつ、机に突っ伏して眠っていた。
★
「……さぁん~。たたらばさぁん~。たったらばっさぁあああん!」
「うるさい!!」
ハっと意識を戻すと、桜庭の顔がどアップで間近にあった。
耳をつんざく声で起こされた私、タタラバ。
窓に目をやると、とっくに夜は明けてたらしい。
「も~! そんなところで寝でも、執着王子は助けに来てくれませんよぉ?」
「は?」
いきなり何を言い出す?
桜庭、頭でも打ったのか?
「気持ち悪いな~とかぁ書いてますけどぉ~。執着されたいなーっていう、裏返しなのは、バレバレなのですぅ」
何言ってんだ?
マジで大丈夫か? 桜庭。
「ねぇ? さっきから何言ってんの? 頭、打った?」
「私ではなくってぇ~、タタラバさんが日記に書いてますよぉ?」
日記!?
なんだそれは。日記なんて書いても居なければ、持っても居ない。
仮に日記があったとしよう。
それでも桜庭。なぜお前が日記の中身知っている?
駄目な事案だろ!
「何言ってんの? さっきから。日記なんてつけてないし」
「タタラバさんの手元にぃ~、書いてありますよぉ?」
言われて、手元の紙を見る。そこには
『王子、執着しすぎだろ』→もう、通報レベル
『うわ、無いわー』→とりあえず、靴を持って帰れ
『気持ち悪いなこれは』→でも顔が良ければセーフなのか?
『※イケメン王子なら全て許される』
などなど。ここまですべて、タタラバ個人のシンデレラの感想だ。
「これは……」
桜庭、フフンとでも言いたそうに腰に手を充てて、私に注意をし始めた。
「だめですよぉ。日記はコソコソとつけないとぉ~」
「日記じゃない! しかもなんで勝手にみてんのよ!」
「えー? だって、見てください! とでも言うようにおいてありましたしぃ? もー、仕方ないですねぇ~。見なかったことにしておきますぅ。内緒にするので、安心してくださぃ~! それより、朝の支度間に合いませんよぉ?」
桜庭に言われて、ハッと気づく。
そうだ! もう食堂は、朝の戦闘時間なはず!
慌てて朝の支度をして、厨房に駆け込む。
「ベルンさん! 遅れてすみません!」
「ええでぇ~! たまにゃー、ゆっくりやすみんしゃい」
笑顔で返してくれたベルンさん。
めっちゃ! ええ人や~!
段々と私も、ベルンさんの口調がうつってく気がするが、まぁ仕方ない。
ペコリとベルンさんに頭を下げて、いつものように朝の用意に取り掛かる。
そうしているうちに、あっという間に食堂からは、賑やかな声が聞こえてきた。
何とか間に合った。
うるさくて訳の分からない起こし方ではあったけど、桜庭に感謝しなきゃね。
あとでお礼を……。
と、思っていたら。
桜庭の声が聞こえて来た。
「え~? 可愛いってそんなぁ! 本当の事言わないでもいいんですよぉ~。えへへ~」
相変わらずの桜庭節。
「え? 私の好みのタイプですかぁ? 誠実な人がいいですぅ~。あ! 姉のタタラバわぁ~ 執着する人が好みなんですって~。でもこれ、内緒ですからねぇ~」
って、食堂に響き渡る声で言い放ってた。
内緒って! 厨房にまで聞こえてるわ!
挙句、執着する人ってなんだよ!
多分、机の上のメモのことだろうけど、『内緒にするので~』て、言ったよな!?
めちゃくちゃバラしてるじゃないか!
しかも、シンデレラのことだからな!?
ふつふつと沸き上がる怒りを抑えていると、背後からベルンさんが
「タタラ……。男の趣味は考えたほーがええべさぁ……。でもワシ、タタラが嫁に行かんほーがええけのう。ずっとここにおったらええ」
哀れみ深い声で、慰め? てくれた。
桜庭ぁあっ!!
感謝なんて絶対してやらないし、やはりざまぁされるのは
お前だ!!!
心に固く、固く、かたぁあく! 誓うのであった。




