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27 ハイカブリ姫は、ざまぁの金字塔

「じゃあ、これで完成でいいのか?」  


 ロイスさんが、最後のネジを締め直しながら言った。

 鉄板も氷機も、もうすっかり見慣れた気がしてきたけれど、よく見ればどちらも妙な愛嬌がある。特にパンダ。真鍮のくせに目がくりくりとしてて腹立たしく可愛い。


「あぁ。イイみたいだな。助かった! ありがとう」  


 ルークさんが立ち上がり、小袋をを差し出す。

 言葉少なに渡された革袋の中で、コインが小さく鳴った。


「今日はごちそうさん! ま、当日は手伝いに来るよ。もしもの時、俺が居たらすぐ修理できるだろ。そん時はよろしくな!」  


 そう言って、ロイスさんは肩で風を切るように帰っていった。  

 金色の夕日が、パンダの耳を照らしていた。



 夜の食堂の仕事を終え、寝支度も終わり、普段ならさぁ寝ようという時刻。


 私はと言うと、机に突っ伏していた。


「…………………うぁぁぁぁぁぁぁ」  


 声にならない叫びが、地味に長く吐き出る。


 ざまぁ。  


 ああ、ざまぁ。  

 書かなきゃいけなくなってる現実に、頭の中が最早『ザマァ』って言う効果音で満たされている。


「書けますよねぇ? タタラバ先生~」って。そう言いやがった桜庭は、隣のベッドで寝息を立てている。いい気なもんだな!


 そして、あの『先生』のアクセント。完全に煽ってた。


 ……ざまぁ。


 この世界にも、あるにはあった。分類名こそ曖昧だったが、街の書店で見つけたあの本。どれも似たような構成で、なんとなく既視感を覚えるものばかりだった。


 でも……。


「ぬるいんだよね……」


 そう。あっさりしすぎなのだ。

 過激にしろとは言わないが、没入感が無いと言えば無い。


 元居た世界で見て来た本を、ぼんやりと振り返ってみる。


 その中でも、ふと浮かんだのが幼少期に読んだおとぎ話。


『シンデレラ』『白雪姫』『眠れる森の美女』


 その他もろもろ。お姫様が出て来るようなお話ってどれも基本的に『ざまぁ』だよね? ってことは? 普遍的に求められるジャンルということなのだろうか? 


 シンデレラなんて、あからさまな『ドアマット』系。

 白雪姫は『追放』もの。

 眠れる森の美女は、ある意味『ヒーロー最強』系であり『悪役自滅型』だ。


 そしてラストは『報われる』所謂、ハッピーエンド。


 ブツブツと呪術か黒魔術かを操るように、紙に書き記して行く。


 これが私のスタイル。


 なんだっていい。まずは書きだす。そこから線を引き、矢印を引き。


 言葉を繋げて行って、プロットを組み立ててゆく……のだが。


 ここでまたしても『悪い癖』が出てしまう。


 矢印の先に、整合性を担保しなければって考えてしまうのだ。


 でも待って?


 おとぎ話に整合性、ある? いや、あると言えばある。でも、ダラダラと説明してないよね?


 例えばシンデレラ。非常に単純である。


・起

 貴族の娘シンデレラは母を亡くし、父の再婚によって継母とその連れ子の姉二人が爆誕。その後、父・死亡。残された継母と連れ子の姉たちに虐げられる。召使いのように扱われながらも、内面は優しく希望を捨てずに暮らしている。


・承

 王国で舞踏会が開かれ、すべての娘が参加を許される。継母に妨害されるが、魔法使い(妖精のおばさん)が現れ、シンデレラを美しく変身させてくれる。が、魔法は永遠ではなく「真夜中の12時には魔法が溶ける。だから必ず帰ってくること」と、約束を交わす。


・転

 舞踏会で王子と出会い、惹かれ合う。しかし12時の鐘が鳴り、シンデレラは急いで城を後にする。逃げる途中、ガラスの靴が片方脱げてしまう。


・結

 王子は国中の娘にガラスの靴を試す。シンデレラの家でも継母たちが妨害するが、最終的に彼女が靴に足を通し、王子に見つけられる。二人は結ばれ、幸せな結末を迎える。


 ほら! 単純!


 途中何かと、整合性が無い箇所あるぞ? でも成り立っているではないか!


 原作はさすがにちゃんと(?)書かれているかもしれないが、端的にまとめて読みやすくなっている。しかも、ざまぁマナーも見事に満たしているではないか。さすがだ、シンデレラ。ざまぁの金字塔なだけあるな。


 気が付けば、紙にはシンデレラのストーリーを書き殴りつつ、机に突っ伏して眠っていた。



「……さぁん~。たたらばさぁん~。たったらばっさぁあああん!」


「うるさい!!」


 ハっと意識を戻すと、桜庭の顔がどアップで間近にあった。


 耳をつんざく声で起こされた私、タタラバ。


 窓に目をやると、とっくに夜は明けてたらしい。


「も~! そんなところで寝でも、執着王子は助けに来てくれませんよぉ?」


「は?」


 いきなり何を言い出す? 


 桜庭、頭でも打ったのか?


「気持ち悪いな~とかぁ書いてますけどぉ~。執着されたいなーっていう、裏返しなのは、バレバレなのですぅ」


 何言ってんだ?


 マジで大丈夫か? 桜庭。


「ねぇ? さっきから何言ってんの? 頭、打った?」


「私ではなくってぇ~、タタラバさんが日記に書いてますよぉ?」


 日記!?


 なんだそれは。日記なんて書いても居なければ、持っても居ない。


 仮に日記があったとしよう。

 それでも桜庭。なぜお前が日記の中身知っている?


 駄目な事案だろ!


「何言ってんの? さっきから。日記なんてつけてないし」


「タタラバさんの手元にぃ~、書いてありますよぉ?」


 言われて、手元の紙を見る。そこには


『王子、執着しすぎだろ』→もう、通報レベル

『うわ、無いわー』→とりあえず、靴を持って帰れ

『気持ち悪いなこれは』→でも顔が良ければセーフなのか?


『※イケメン王子なら全て許される』


 などなど。ここまですべて、タタラバ個人のシンデレラの感想だ。


「これは……」


 桜庭、フフンとでも言いたそうに腰に手を充てて、私に注意をし始めた。


「だめですよぉ。日記はコソコソとつけないとぉ~」


「日記じゃない! しかもなんで勝手にみてんのよ!」


「えー? だって、見てください! とでも言うようにおいてありましたしぃ? もー、仕方ないですねぇ~。見なかったことにしておきますぅ。内緒にするので、安心してくださぃ~! それより、朝の支度間に合いませんよぉ?」


 桜庭に言われて、ハッと気づく。


 そうだ! もう食堂は、朝の戦闘時間なはず!


 慌てて朝の支度をして、厨房に駆け込む。


「ベルンさん! 遅れてすみません!」


「ええでぇ~! たまにゃー、ゆっくりやすみんしゃい」


 笑顔で返してくれたベルンさん。

 めっちゃ! ええ人や~!


 段々と私も、ベルンさんの口調がうつってく気がするが、まぁ仕方ない。


 ペコリとベルンさんに頭を下げて、いつものように朝の用意に取り掛かる。


 そうしているうちに、あっという間に食堂からは、賑やかな声が聞こえてきた。


 何とか間に合った。


 うるさくて訳の分からない起こし方ではあったけど、桜庭に感謝しなきゃね。

 あとでお礼を……。


 と、思っていたら。


 桜庭の声が聞こえて来た。


「え~? 可愛いってそんなぁ! 本当の事言わないでもいいんですよぉ~。えへへ~」


 相変わらずの桜庭節。


「え? 私の好みのタイプですかぁ? 誠実な人がいいですぅ~。あ! 姉のタタラバわぁ~ 執着する人が好みなんですって~。でもこれ、内緒ですからねぇ~」


 って、食堂に響き渡る声で言い放ってた。


 内緒って! 厨房にまで聞こえてるわ!


 挙句、執着する人ってなんだよ!


 多分、机の上のメモのことだろうけど、『内緒にするので~』て、言ったよな!?

 めちゃくちゃバラしてるじゃないか!


 しかも、シンデレラのことだからな!?


 ふつふつと沸き上がる怒りを抑えていると、背後からベルンさんが


「タタラ……。男の趣味は考えたほーがええべさぁ……。でもワシ、タタラが嫁に行かんほーがええけのう。ずっとここにおったらええ」


 哀れみ深い声で、慰め? てくれた。


 桜庭ぁあっ!!


 感謝なんて絶対してやらないし、やはりざまぁされるのは


 お前だ!!!


 心に固く、固く、かたぁあく! 誓うのであった。


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