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26 桜庭、熱弁す

「ざまぁ? ってなんだ?」


 ルークさんが、訝しむような顔で訊ねる。


「ざまぁっていうのはですねぇ~! そーゆー物語のジャンル? で~。いくつかパターンがあるんですが~、だいたいは『婚約破棄』っていう王道から始まるんですぅ! 婚約者が『真実の愛を見つけた』って浮気して、勝手に破棄するんですよぉ~!」


 桜庭の声は弾んでいる。目の奥に喜々とした光がある。


「その時はですねぇ~! 新しく選ばれた浮気相手が『勝った側』みたいな顔してるんですぅ~! 『前の相手より私のほうが価値あるんで~』って態度で、破棄する場にも拘わらずぅ、浮気男と略奪女が並んで立ってるパターンが王道なんです~!」


 ルークさんが、スプーンを止めて眉をひそめた。


 桜庭はそのまま続ける。


「でも~! 『元』婚約者の浮気相手って、だいたい頭がおかしい女なんですよね~! 思い込みが激しくってぇ~、 侍女とかに当たり散らしたりして~! 略奪した浮気女の方は、ヒステリーになっていくのが定番なんですぅ~!」


「そ~して~! ヒステリック略奪女はっ! 本性を現して、礼儀礼節はなってない! とかぁ? 金遣いが荒いとかぁ? もう様々なお馬鹿行動をお披露目するのがマナーなのですぅ」


 ベルンさんが氷を砕く音を止めた。桜庭のスプーンがさらに跳ねる。


「しかもですねぇ~! その場で叫んだり泣き崩れたりして~! 元婚約者の腕を掴んで引き止めたり~『ふざけんな!』って声を荒げて空気壊すんですぅ~!」


 場の空気は氷よりも冷えてゆく。

 桜庭の独壇場だ。

 熱いのは、桜庭のみ。


「周囲の目? 気にしませ~ん! 会場中が引いてても、止めないんです~! キェエエーッ! って気が狂ったように暴れるのがパターンその1ですぅ~。その他にもパターンは大体二桁はあります~」


 ヴィンセントさんが器を持ったまま、ぽつりと言った。


「……怖ぇな、女」


ノールさんが、持っていたかき氷の器を静かに戻して言った。


「男が悪い」


 その言葉で、場の空気がすっと落ち着いた。

 桜庭だけが満面の笑みで、木べらの蝶々結びを整えている。


「それをタタラが書くのか?」


 そこまで黙って聞いていたルークさんがさらっと言う。


「はい~。絶対売れる事請け合いなのですぅ~。タタラバさんはですねぇ~。こ~見えて私達の国ではぁ、売れっ子の作家先生なんですよ!」


 スプーン片手にドヤ顔で言う桜庭。

 いや、ドヤ顔というか、どや全身だ。

 顔だけでなく、声まで誇らしげになっている。


 桜庭! いい加減にしろ!


 売れっ子とか、嫌味か! 嫌がらせか!


 私はな!

 私は! ……ざまぁが書けないんだ!


 あの悪夢が蘇る。 毎日毎日書き殴った挙句、全部ボツ。


 ……いやまて。『そろほろ』どうなった! 

 そうだ。私の初ざまぁのそろほろ! 桜庭に盛大にざまぁをブチかましてやった、スカっと爽快!(※主にタタラバ(私)が)する話だったんだ!


「そこでですねぇ~。印刷屋といいますか~。出版的なものってありますかぁ?」


 桜庭がどんどん話を進めてゆく。


「ちょっと待ってよ! 私書くなんて一言も……」


「あー、それなら表通りの南角にあるブン屋に言えば、印刷機くらい貸してくれるぞ。ほら、クレアもそれであのチラシ作ってたんだろうしな」


 ヴィンセントさんが、私の言葉を遮るように言う。


 なんでよ! 


 こんな時まで率先して行動しなくていいんだよ!


 ビビアーナの癖に! 空気読め!


 段々やさぐれてきた私は、全方位に向けて恨み砲を心の中で発砲してゆく。


「わし、ざまぁ? は、よぉわかれへんけど、タタラが書くっちゅーなら読んでみたいじゃんけ」


 ベルンさんが、何故か瞳をキラキラさせている。


「ですよね~! 大丈夫です。タタラバさんならぁ依頼して即! ですから~。なんせこの間もぉ~お願いしてたら翌日には送って来てくれましたしぃ」


 この野郎……。


『そろそろ貴様が滅んでも構わない~XXお前のことだ~』の事を言ってやがる。


「ちなみにですねぇ~、その物語の主人公は、この私だったんですよぉ? ねぇ? タタラバ『先生』」


 桜庭がこちらを見て、ニィっと笑った。


 !!!!!


 まっ! 待って!? 


 まさか!? 


 の、まさか!?


 バレてる!? 


 バレてた!?


 校正したつもりだったのに、ざまぁされるお馬鹿女を桜庭って書いてる箇所が残ってたのか!?

 心臓がドクンドクンと早鐘のように脈打つ。

 なんならこのまま、口から飛び出すかもしれない。心の蔵が。


「あっ……。あれは……名前を決める前にぃ~、適当につける癖でぇ~」


 桜庭の口調を真似て誤魔化そうとしたけれど――


「なので、今回も即書けますよねぇ? タタラバ先生?」


「あ、はい」


 おのれ!!!


 罠にはまってしまった感半端ない!


 転移前の私め!


 馬鹿野郎!!!

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― 新着の感想 ―
苺 迷音さん、こんにちは。 「26 桜庭、熱弁す」、拝読致しました。  ある程度まとめてから感想を書こうと思っていたんですけど。            どや全身  大爆笑でした!  ドヤ じゃな…
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