22 タタラバ・スマイル
道具屋を後にした私たちは――
次は法被と言うことで、町の裁縫店へと来ていた。
裁縫屋の店先には、布が並んで風に揺れていた。
店主のフレッタさんは、年上の女性。声が少しばかり甲高いが落ち着いた雰囲気の人だった。
「祭衣装で、法被を作りたくて」
「法被……? というのは、どういう感じの衣類? でしょうか?」
フレッタさんは首を傾げる。
そりゃそうか。
法被という言葉だけで、伝わる訳がない。
「あー、法被と言うのは、私と桜庭が居た世……国ではお祭りの時などに、みんなでお揃いで着る、ローブ? みたいなもので……」
法被も、ルーメン亭で書いた図案をだしつつ、説明する。
「はい。なるほどわかりました。ローブよりも丈が短くて、前開きで留め具がない、脱着が楽なもの。こう言う感じですね?」
「そうです。あと、袖がゆったりめで……」
私とフレッタさんのやり取りに飽きたのか、桜庭がキョロキョロしだした。
そして、その辺りの緑布を持ち上げ、目を細める。
「この緑……風がちょっと、昼寝してる感じしますぅ」
ポエマーな事言ってないで! 法被でぇ~とか言ったのはお前だろ。
「風が寝る布……初めて聞いた」
ノールさんが布の端を持ったまま返す。真面目に答えなくていいんですよ。
「これならすぐできますわ。何枚必要ですか?」
思わぬフレッタさんの言葉に、声が漏れる。
「え!? 作っていただけるんですか!?」
自分で縫わなきゃと思っていたので、嬉しい提案だった。
「ええもちろん。これなら、ローブよりも簡単ですし、10枚くらいならすぐ出来るわ」
「じゃあ! お願いしてもいいですか?」
助かった! 実は私、裁縫苦手だったんよね……。
「では、布を選んでもらって、それで作りますわ。明日にでも出来上がりますよ」
「ありがとうございます!」
「タタラバさん~、よかったですねぇ~。これで夜なべせずに済みますよ~」
「なんで私一人で作る前提だったの!?」
「じゃ~。布選びましょう~」
話を聞け!!
そういう前に桜庭はとっとと、布を重ねられてある方へと歩いて行く。
あいつまじで、覚えとけよ……。
夏至祭では、一番過酷な役割を割り振ってやるからな!
「あっ! この色はどうですかぁ?」
桜庭が手にしてるのは、金ピカのアレ。いい加減上様から離れろ。
「あー、俺はパスかなぁ。それならこっちのほうがカッコよくない?」
ヴィンセントさんが手に持ったのは、派手な模様が入ってる布。
どっちかってと、女性用? な気がする。
「それなら、俺は着ない」
ノールさんがバッサリ。「えー!?」と、不満の声を漏らすヴィンセントさん。
「ならさ、ノールはどれがいいんだよ」
ノールさんの肩に手をかけて、もたれかかる様に聞くヴィンセントさんに
「なんでもいい」
「なんでもいいならぁ~、この金のでもぉ~」
駄目だ桜庭。何がなんでも金が着たいらしい。
「これなんてどうですか? 涼し気でいいですよね」
私が手に取ったのは、夏の空のような青色の、麻布。
「おっ! それいいな」
「それなら俺も着ないこともない」
「えぇっ!? 普通すぎませんかぁ?」
「普通でいいでしょ! それにこの生地。触り心地とてもいいから」
そう言い、桜庭に布を差し出してみる。
「わぁ! ほんとですねぇ~! これなら長時間着てても、暑くなさそうですし汗拭きにも使えそうですぅ」
「では、そちらでよろしいですか?」
一連の流れを見守ってくれていたフリッタさんが、変わらぬ笑顔で問いかけてくれた。
「はい。これでお願いします」
選んだ布をフリッタさんに渡した後、またしても桜庭が
「あのぉ~、法被に絵をかきたいんですけど~、絵具?みたいなものはありますかぁ?」
その一言で、私・ノールさん・ヴィンセントさんの表情が固まる。
「キーラ? お前が描くの?」
ヴィンセントさんが、少し抑えた声で聴くと
「いいえ~! タタラバスマイルを描くのでぇ~、著作者であるタタラバさんが描きまぁす!」
え!? なんで私!? しかも、タタラバスマイルってなんだよ!
しかも著作者って……。違うし、でもここ異世界だから、そーなるの?
いやいや! なんで、私が描くことになってんのよ!
そう思って、苦言を呈そうとすると
「まぁ、それならいいか」
ノールさんの言葉で遮られた。
苦言を発するタイミングも失ってしまった……。
「でしたら、テンペラ絵具が良いと思いますよ」
フレッタさんはそう言うと、奥にあった画材のようなものが並んでる棚へ案内してくれた。
そこにはテンペラ絵具と呼ばれる色とりどりの瓶が、整然と並べられていた。見ているだけでテンションが上がってくる。
フレッタさんによると、テンペラ絵具とは卵で練る絵具。乾けば布に定着するけど、匂いが少し残るらしい。なので、乾かした後は、軽く洗った方がイイとのこと。
私は、青地にあうようにと、白と黒、それに赤と黄色の4色の絵具と大きさの違う筆を2本買った。
「明日、ルーメン亭の方へ届けさせますわ。夏至祭で、うちの『法被』? が着られていることを楽しみにしてますね」
フレッタさんは、目を輝かせながら私たちを見送ってくれた。
★
帰り道。煉瓦が夕陽を吸っていて、足元の熱が緩くなっていた。
「昔、兄と一緒に『火の花』を作ったことがある」
ノールさんがぽつりと呟いた。
火の花? それって、花火みたいなものなのかな。
私は、何の気なしに聞いてみる。
「それって……空に打ち上げるタイプですか? 花火、みたいな?」
「花火? ああ、それはこっちで言えば『火の大花』の事かもな」
ノールさんはすこし笑って続ける。
「俺と兄が作ったのは、手元で回すやつだ。二輪の軸で火を起こして、回転させる仕掛け。空には飛ばないけど、火花が円になって咲いた。爆発もしたけどな」
「爆発でも~、咲いたってことでいいんですぅ~! やっぱ夏は花火ぃ~」
桜庭が、楽しそうに言う。桜庭だけは既に祭りの中にいるようだ。
花火かぁ……。
ノールさんの言っている火の大花がそうなのかなぁ?
もしそうなら、夏至祭でも見れると良いな……。
そんなことを、ぼんやりと思った。
ルーメン亭に戻ると、チャーチャが椅子の上で熟睡していた。
ルークさんはグラスを片づけつつ、こちらに振り向いて声をかけてくれる。
「おかえり! お疲れさんだったな。で、どうだった?」
「鉄板と氷機は、三日後に届くってよ」
ヴィンセントさんが、肩を回しながらカウンター前の椅子に腰かけた。
既にそこは、彼の定位置になっている。
「法被は明日、届けてくださるそうです」
私も報告をする。
最後に桜庭が
「もうこれで、夏のお祭り勝利ですぅ~!」
「勝ち負けあるの!? 戦いなの!?」
思わず突っ込む。が、何と戦ってんだよ桜庭。
だからか。しつこいくらいに「気合」って言ってたのは。
桜庭よ。見えない仮想敵とは、君一人で戦ってくれたまえ。
心からそう願う。
こっちは、桜庭の暴走を止める戦いになりそうな予感しかしないのだから。
チャーチャが、一回だけ尻尾を振り「マォ~」と鳴いた。




